子どものミライをともにつくる組織運営~流山GREAT HAWKSの取り組み後編~

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自然豊かな公園で「子どもたちがラグビーボールで遊んでいる風景を”あたりまえに”」という想いをもって千葉県流山市で活動する流山GREAT HAWKS。

ラグビーのゲームが開催される場所そのものが地域コミュニティーの中心となり、市民から愛されるラグビークラブを目指し、まちづくりとしてのスポーツを追求しています。今回は、そんな流山GREAT HAWKSの創設者である川合毅氏へインタビューをしました。

前編は立ち上げの背景や課題意識についてお話ししていただきましたが、後半は組織運営についてお話しくださいました。
子どものミライをともにつくる組織運営~流山GREAT HAWKSの取り組み前編~

本格的なラグビーチームにおける組織を強化する3つのコアバリューと実践方法

タックルのあるラグビーチームでは、組織を強化するために下記の3つのコアバリューを定めていると川合氏。

  • 楽しむを追求
  • 個人の成長を重視
  • 他者を尊重する姿勢

ここでは、組織運営における具体的な実践方法についてもお聞きしました。

流山GREAT HAWKSのコアバリューにおけるこだわり

普及・育成・組織設計などについて聞くほど、人事という仕事が活かされているという気もしますがどう考えていらっしゃいますか?

現在、創業115年の日本の刃物メーカーで人事部長の役割を担っています。大学卒業後、現在に至るまで一貫して組織・人事の仕事に従事してきました。

ラグビーの普及と育成は、現在の人事の仕事と関連性が高いと思っています。「普及」は採用と似ていて会社の存在や取り組みを認知してもらい、いかに関心を持ち続けてもらうかが大切です。

一方で「育成」は人材配置、教育、研修、評価の領域で組織において非常に重要なテーマです。加えて強い組織をつくるための仕組みづくりは、企業の組織設計と人事制度設計の仕事の領域です。また、「社員が失敗を恐れず困難なことにチャレンジできるよう企業の体質を変えていくこと。」も課題の一つでしょう。

社員が積極的にチャンレジし成長できる”仕組み”をグローバルでゼロからつくっていく仕事は、楽しさとやりがいに溢れていて現在のラグビーの取組みと親和性が高いと思っています。

コアバリューの一つ「他者を尊重する姿勢」について、他者評価や他者との比較が出てきてしまいがちだと思います。コアバリューの順番に意図はあるのでしょうか?

3つのコアバリューがMECE(もれなくダブりなく分類できている状態)であるかというかといえば、そうではありませんが順番についてはこだわっています。楽しむことは、スポーツの語源(Deportare)でもあります。トップアスリートであれ、子どもであれ、楽しむことが何よりも大事だと思います。

人それぞれ楽しむ定義はことなりますが、スポーツに限らず困難な状況でも自分自身で楽しさを見出してほしいと願っています。また、何事も楽しくないと続かないと思うので、子どもたちにラグビーを長く続けてもらうためにも「子どもたちが楽しむこと」を追求していきたいと思います。

次に個人の成長を重視することです。ラグビーではチームワークが問われるという競技特性があるため、自らを犠牲にして仲間やボールを守ることが重要です。そのため3番目のコアバリュー「他者を尊重する姿勢」と優劣はつけづらいものの、「育成」の観点から個人の成長の方を重視しました。

普段、学校や塾等で“他”を意識せざるをえない環境にいる子どもたちですが、私たちはラグビーを通じて、子どもたちがみずからのことを考え自分の成長を実感し、自身を肯定できるような環境を提供していきたいと考えています。

最後の「他者を尊重する姿勢」についてでいえば、ラグビーのルールが関係しています。ラグビーはルール上、ボールを前に投げることができませんが、前に進まないと得点ができないスポーツです。これらの矛盾しているようなルールの中で、タックルや相手に当たるなどの“コンタクトプレー”が存在します。

“コンタクトプレー”は当然ながら非日常的であり、とても勇気が必要なプレーです。子どもたち一人ひとりが、それぞれに感じる“恐怖”と向き合い、打ち克つことや受け容れることはとても大事なプロセスです。このプロセスの中でも私たちが最も大事にしているのは、子どもたちがこの“恐怖”をさまざまな個性を持つ仲間と共に乗り越えていくことです。

仲間を信じ、仲間のために自分が持っている力を全て出しきり、全力でラグビーを楽しむことで、子どもたちは大人が想像する以上の力を発揮するでしょう。ラグビーを通して、「仲間のために自分を磨く」という経験を少しでも多くつんでもらいたいと考えています。

上記の3つは、普及目的と競技のラグビー双方で大事にしていることですか?バランスがあれば教えてください。

基本的には普及のタグラグビーと育成のミニラグビーでは、1つめのコアバリュー「楽しむを追求」を大切にしています。タグラグビーチームは、設立後さまざまな人々と関わる中で地域のコミュニティの場となっていることがわかりました。

チームが地域コミュニティの場になることは、良い意味で設立前は計画していなかったことです。地域のコミュニティーは人と人が繋がる場ですから、個人の成長よりも他者の尊重の方が重視されていると思います。

また、ミニラグビーは、先ほどお伝えしたとおり個人の成長にフォーカスしています。チームスポーツだからこそ、より個人の成長を重視したいと考えています。

一人ひとりの成長を実感してもらう2つの仕組み

人間的成長という観点で川合さんの考える成長は、他者から影響を受ける成長なのか、自己成長なのか、お考えを聞かせて頂きたいです。

他者から影響を受ける成長もとても素晴らしいと思いますが、その二つの比較であれば、間違いなく自己成長を重視したいです。

そもそも人はどうしても他者と比較してしまう場面が多いと感じます。人事の仕事(川合さんの本業)では、結果的に他者との相対評価になってしまう傾向がありますが、子どもの頃から他人と比較するような指導には反対です。

自分がどう成長したのか?が大切だと考えています。もちろん勝負には相手がいることが前提ですが、比較ではなく模範という概念を伝えていけたらと思っています。子どもたちには自分自身の成長を楽しめたり、ラグビーという競技自体をより楽しめたりする大人になってもらいたいと考えています。

子どもたちが成長することと、子ども自身が成長を実感できるのは別の意味だと思っていますし実感することのほうが難しいと思っています。子どもたち自身が成長を実感することに対して取組んでいることはありますか?

流山GREAT HAWKSでは2つの取組みをおこなっています。1つ目は、目標を設定してフィードバックすること。もう1つは個人の成長を実感させるツールの導入です。

選手自身が成長を実感するための施策①振り返りの習慣づくり

具体的な取り組みの1つはラグビーノートです。ラグビーノートは練習の前後で必ず書いてもらっていて、とてもシンプルな構成をチームとして用意しています。

練習前では子ども自身の目標を書いてもらい、練習後では、自分ができたこと・できなかったこと・仲間の素晴らしかったプレーを書いてもらうようにしています。

また、ノートに書いてもらったことを子ども自身が自己採点することもしています。コーチも実際の練習の様子とラグビーノートを見ることで、一人ひとりに対して具体的なフィードバックがしやすくなります。こうした仕組みを取り入れて、子どもたちを具体的な事例で褒めてあげることがとても大切だと考えています。

練習前の意識づけ、振り返り、コーチからのフィードバックを繰り返すことで、子どもたちが自分自身のことを定性的に評価できるようになると思っています。

このラグビーノートの取り組みで特徴的な項目は、「仲間の良かったプレーや行動」を書いてもらうことです。他者と比較をするのが目的ではなく、相手の良いプレーや行動から自分が真似できることを見つけたり、また、自分にどんな強みがあるかを気づけるようにしています。また、習慣として友だちのプレーを褒めることができるようになれば、相手との信頼関係も構築できると考えています。

選手自身が成長を実感するための施策②GPSの活用

チームのラグビージャージをGPSが装着できる仕様にして、ラグビー日本代表やその他トップアスリートのチームが使用してるGPSを子どもたちにつけてもらっています。

GPSの活用は自分自身をより意識するためのツールであり成長をより意識できるようになると考えているため、子どもたちの自己肯定感を育むためにとても有効な手段だと考えています。また、子どもたちの走行距離や加速度も把握できるので、コーチにとってはプログラムの改善にも役立てることができます。GPSの測定結果は毎月保護者にフィードバックし、子どもたち自身も過去のデータを振り返ることで、定量的に自分の成長を認識できます。

成長を実感できる仕組みづくりをしたいと思った理由はあるのでしょうか?

子どもは平気で相手に対して傷つく言葉を投げかける時があります。相手の言葉で傷ついたり、自信をなくしたりすることもあるかと思いますが、相手を否定するのではなく、自分の成長を意識する習慣とその時間をできる限り長くしたいと考えています。このような環境をこれからも整備していきます。

長期的な視点でみた組織(チーム)運営を目指して

組織(チーム)における理想と現実のギャップが起きた時はどうしますか?

まずコンタクトプレーがあるミニラグビーについてですが、ビジョンやコアバリューはギャップが起きたとしても変えるつもりはありません。ここが崩れると私たちの存在意義はなくなるからです。方法・アプローチに関してギャップが起きた場合は、子どもたちや保護者、コーチとの会話を通じて解決するようにしています。

練習後は、子どもたちや保護者からプログラムに対するフィードバックをもらうようにしています。安全面、プログラムの目的や難易度、チームの構成、声のかけ方など。練習日以外においても、会員ツールを使用して保護者からフィードバックを頂くようにしています。

コーチ陣とは毎週ショートミーティングを行い、保護者や子どもたちからの意見で重要な内容を特定し、次週のプログラムや運用に即反映させています。PDCAサイクルを1週間で回すイメージです。

次にタグラグビーについてでいえばオーソドックスかもしれませんが、一人ひとりへの声掛けが重要だと思っています。現在チームは200人の子どもが登録していて、実際にグラウンドに来ているのは約100人です。この規模になるとひとりひとりに声をかけることは難しいです。

ただ、練習中に「今のここがよかったよ。こうしたらもっと良くなるよ」などの声をかけるようにしています。保護者のコーチのみなさんも、できる限り子どもたちに必ず1回は良いところを伝えるような努力をされています。自分のやった行動をその場で褒めてもらえることの積み重ねが大切ですね。コーチ陣をとても信頼していますし、ビジョンや楽しさをコーチ陣と共有しているからこそできる対応かもしれません。

タグラグビーを立ち上げてから約3年が経過しているので、一定の子どもたちが練習に来なくなることがありますが、チーム運営を長い目でみたときにそういう経験も必要だと思っています。できる限り来なくなった理由を保護者に確認するようにしています。勿論、即反映できる意見はコーチ陣に共有して取り入れてます。

保護者からのフィードバックを活かし子どもと一緒に楽しい思い出をつくれる組織に

親子も一緒に楽しむという考え方でやることによって、子ども達・親御さんからフィードバックとしてどういう声がでるのでしょうか?

100%ポジティブなフィードバックをいただいています。「平日は子どもと会話する時間がないので週末に子どもと一緒にラグビーができるのがとても楽しみ。」「パパがコーチしているから行くのが楽しみ」などです。

子どもたちはラグビーを親と一緒にやった楽しい経験が記憶に残ると思います。親と一緒にラグビーができる環境は私たちだからこそできると思っているので、これからも大切にしていきたいですね。

また、流山市、特に私たちのホームグランドの流山おおたかの森は、他市区町村から移り住んでくる共働き世帯が多いという地域特性があります。ほとんどの保護者は、土日しか休みがないと思います。そんな親にとっては土日の休みは貴重な時間です。

だからこそ親も一緒に子どもとラグビーをやってもらい、「土日の楽しい時間と思い出を流山市でつくりませんか?」というメッセージを発信して「みんなで一緒にプログラムを楽しむ」ことを大切にしています。

流山GREAT HAWKSの活動の先に見据える将来像

活動を続ける先に、流山市の理想の姿やラグビーを通じてスポーツ界、ラグビー界に貢献したい将来像はありますか?

スポーツ界に貢献したいことは、ラグビーの精神を受け継いだ人材の輩出です。ラグビー界に貢献したいことは、ラグビー競技人口の増加とトップアスリートの育成、地域スポーツビジネスの確立です。

まだまだスタートラインにも立っていない状況ですが、これからも素晴らしい方々との出会いを大切に、強い意志を持って進めていきます。

流山GREAT HAWKSでラグビーを楽しんだ子どもたちは、いつか流山市を跳び立ち、日本の将来のために活躍する人になることと思います。そのような子どもたちが、また流山市に戻ってきて、子どもたちとラグビーを楽しむ。このような好循環になる活動を、今、子どもたちと一緒に現場でラグビーを楽しんでいるコーチ兼保護者の皆さまと共に推進していきたいです。

「ラグビー人口が増えると街が活性化する。」

流山市の公園でラグビーボールで遊んでいる大人や子どもの姿が日常的になることを夢見て、これからも自分自身が楽しみながら活動を続けていきます。

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流山GREAT HAWKS
創設者 川合 毅(かわい たけし)

日大二中、日大二高のラグビー部では主将を任され、一般受験で法政大学工学部に進学。法政大学体育会ラグビー部で副将、IBMラグビー部でも主将を務め、ラグビーコーチも経験。オーストラリア留学を経て、2020年に流山ラグビークラブGREATHAWKS設立(ラグラグビー)。企業人としては、デロイトトーマツコンサルティングや「ユニクロ」の運営会社「ファーストリテイリング」を経て、現在は刃物メーカー「貝印」で人事部長を努める。2023年にはGREATHAWKS設立(ラグビー)を設立し、流山の地に「ラグビー」を通じたコミュニティを拡大すべく活動中。

スポーツコーチ同士の学びの場『ダブル・ゴール・コーチングセッション』

NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブではこれまで、長年スポーツコーチの学びの場を提供してきました。この中で、スポーツコーチ同士の対話が持つパワーを目の当たりにし、お互いに学び合うことの素晴らしさを経験しています。

答えの無いスポーツコーチの葛藤について、さまざまな対話を重ねながら現場に持ち帰るヒントを得られる場にしたいと考えています。

主なテーマとしては、子ども・選手の『勝利』と『人間的成長』の両立を目指したダブル・ゴール・コーチングをベースとしながら、さまざまな競技の指導者が集まり対話をしたいと考えています。

開催頻度は毎週開催しておりますので、ご興味がある方は下記ボタンから詳しい内容をチェックしてみてください。

ダブル・ゴール・コーチングに関する書籍

NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブでは、子ども・選手の『勝利と人間的成長の両立』を目指したダブル・ゴールの実現に向けて日々活動しています。

このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。

このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。

エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』

序文 フィル・ジャクソン

第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの

第2章:ダブル・ゴール・コーチ®

第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング

第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット

第5章:スポーツ選手の感情タンク

第6章:感情タンク実践ツールキット

第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意

第8章:試合への敬意の実践ツールキット

第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)

第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する

本格版書籍『ダブル・ゴール・コーチ(東洋館出版社)』

元ラグビー日本代表主将、廣瀬俊朗氏絶賛! 。勝つことを目指しつつ、スポーツを通じて人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なことを教えるために、何をどうすればよいのかを解説する。全米で絶賛されたユーススポーツコーチングの教科書、待望の邦訳!

子どもの頃に始めたスポーツ。大好きだったその競技を、親やコーチの厳しい指導に嫌気がさして辞めてしまう子がいる。あまりにも勝利を優先させるコーチの指導は、ときとして子どもにその競技そのものを嫌いにさせてしまうことがある。それはあまりにも悲しい出来事だ。

一方で、コーチの指導法一つで、スポーツだけでなく人生においても大きな糧になる素晴らしい体験もできる。本書はスポーツのみならず、人生の勝者を育てるためにはどうすればいいのかを詳述した本である。

ユーススポーツにおける課題に関する書籍『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』

バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
ーーーーー
数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)

・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言

暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。

NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブについて

スポーツコーチング・イニシアチブ

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