スポーツチームのパフォーマンスを高めるには?コーチと選手で文化を作り上げることがポイント

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チームのパフォーマンスを高めたいと思っているスポーツコーチは数多くいます。しかしながら、チームのパフォーマンスを高めることは簡単なことではありません。

本記事では、グループダイナミクス(集団力学)の観点から、スポーツチームにおけるパフォーマンスを高めるポイントをスポーツコーチ向けに解説します。

チームの文化を意図的に作ることがとても大切

スポーツチームのパフォーマンス向上のためにチーム文化を作ることは大切です。なぜならば、チームの持つ文化そのものがチームの目的や目標、選手の行動へとつながるからです。

例えば、勝利至上主義(結果のみがチームの良し悪しの絶対的な判断基準)なチームがあったとします。勝利至上主義なチームは、スポーツをする目的そのものが勝つことに陥りがちです。

しかし、勝つこと(結果)が目的になってしまうと、ユーススポーツの中では子どもの成長につながりにくくなってしまいます。

勝つことだけが評価基準になってしまうことで、ルールを破ってでも相手選手を止めるプレーをしてしまったり、コーチが悪いプレーの修正ばかりを求めてしまったり、子どものパフォーマンス・人間的な成長を阻害してしまう可能性があります。

選手が成長できるようなチーム文化作りは、パフォーマンス向上しやすく人としても成長できるチーム環境を作ることにもつながります。

選手が意欲的にスポーツに取り組める練習環境にするためのコーチの関わり方のヒント
失敗して当たり前という文化がチームを勝利へ導く~ダブル・ゴール・コーチング~

チームの文化には集団凝集性が欠かせない

チーム文化を作り上げる上では、集団凝集性(Team Cohesion)を理解することは大切です。この集団凝集性が高いほどパフォーマンスも高いことが明らかにされています(Mullan and Copper, 1994 )。

集団凝集性とは、「集団が構成員を引きつけ、その集団の一員であり続けるように動機づける度合い。」のことです。

簡単にいえば、「チームのまとまり(牛来 他,2019)」ともいえます。集団凝集性を高めるためには、下記の2つのポイントがあります。

スポーツチームの集団凝集性を高める2つのポイント

集団凝集性には大きく分けて「課題凝集性」と「社会的凝集性」という2つのポイントがあります。この2つのポイントを意識することで、パフォーマンスの高いチームを作りやすくなります。

下記では、課題凝集性と社会的凝集性の2つのポイントについて解説します。

集団凝集性を高めるポイント①:課題凝集性

課題凝集性を高めることは、チームのパフォーマンスを向上させるのに役立ちます。課題凝集性が高まった状態とは、コーチ・選手がチームのプレー方針に納得していて、選手が自分に割り当てられた役割に満足している状態を指します(ビル・ベスウィック,2004)。

一方で、チームの方針がなかったり選手が役割に満足していなかったりすると、課題凝集性が低くなってしまいます。課題凝集性が低いと、協調性やモチベーション、コミュニケーションや集中力などに問題が生じます。

また、チーム方針が定まっているにもかかわらず、課題凝集性に関する問題が生じている場合は、コーチ・選手の行動に原因があるケースも多いです。そこで大切なのが、次の「社会的凝集性」です。

集団凝集性を高めるポイント②:社会的凝集性

社会的凝集性の高いチームは、選手同士が良好な関係をもち、コミュニケーションがよくとれている状態にあります。

社会的凝集性は、問題解決力やチームにおける独自性のもとで一致団結することにつながります。

低い社会的凝集性は、協力してプレーしたり、相手のことを考えたプレーしたりすることにつながりにくくチームの結束力を損ねてしまいます。

集団凝集性を高めるための4つのフェーズ

集団凝集性を高めるためには、チーム形成期からパフォーマンス期までを4つのフェーズに分けて取り組む方法があります。

この集団凝集性は、チームのパフォーマンスを高めるうえでは欠かせないものの、意図的に高めることが非常に難しいです。

しかし、自分たちのチームよりも能力の高いチームに勝つ可能性を高めるためには不可欠な要素でもあります。

下記では、Tackman and Jensen(1997)3) のタックマンモデルをもとに、集団凝集性を高める4つのフェーズについて解説します。

集団凝集性を高めるフェーズ①チームの形成期

チームの形成期では、チームにおける価値観や方針を明確にすることが大切です。この期間は、チームメンバーの定着期間における初期フェーズとして重要な位置を占めます。

チームの形成期で課題凝集性を高めるには価値観を明確にしよう

チームの形成期で課題凝集性を高めるには、チームにおける価値観を明確にすることがとても大切です。

チームとしての価値観・ビジョンを明確にすることによって、目標を明確にして行動規範を作り上げることがこの時期には求められます。

目標や行動規範が作り上げられると、コーチと選手・選手同士・コーチと保護者のコミュニケーションの取り方などがチームの方針に応じて変化します。

チームの形成期で社会的凝集性を高める選手主体のコミュニケーション

チームの形成期で社会的凝集性を高めるためには、選手主体のコミュニケーションがとても大切です。

なぜなら、コーチ主体のコミュニケーションになってしまうと、選手同士の関係構築がうまくいかなかったり、お互いのコミュニケーションをとりにくくなったりしてしまうからです。

例えば、チームの課題について話をするときに、コーチが主体となって話を進めてしまうと選手が思っていることをいいにくくなり、コーチの顔をみながらプレーすることにもつながりやすくなってしまうことがよくあります。

選手が主体的にコミュニケーションがとれるように、コーチは、うまく選手の話をファシリテーションしながら、選手から言葉をひき出せるとよいでしょう。

また、「選手が主体的に話せる環境」は、心理的安全性を担保する上でも欠かせません。選手が安心してコミュニケーションが取れる環境は、チームパフォーマンス発揮にもつながります。

集団凝集性を高めるフェーズ②選手が立場・役割を見つける

2段階目のフェーズ(混乱期)では、選手自身が自分の立場や役割を見つけられるとよいです。選手が自分立場や役割を見つける時には、チームの緊張感が高まり、チーム内の葛藤(コンフリクト)がよく起こります。

ときには、コーチ自身がイライラしたりフラストレーションをためてしまうこともよくあります。

そのため、コーチとしては、選手に役割をうまく与えながら、コーチ自身が感情的にならず、感情をコントロールし、選手とコミュニケーションができると円滑なチームマネジメントができます。

また、このフェーズでは、チーム内における序列争いが生まれたり、コーチに対して反抗的な態度をとる選手が現れたりすることもあります。

コーチは選手を一人だけ特別扱いしないようにしたり、合宿の部屋割などでコミュニケーションが円滑でないチームメイトを一緒にしないようにしたりなど、気配りをするとよいでしょう。

選手が立場や役割を見出すためにも、コミュニケーションを取らなければならない選手と、あまり取らなくても自分で立場や役割を見つけられる選手をうまく見極められるとチームをうまくファシリテーションしながらパフォーマンス向上へ導きやすくなります。

また、コーチとして、チーム内の葛藤をうまくマネジメントするためには、コンフリクトマネジメントはとても効果的です。下記の記事を参考にしてみてください。

コンフリクトマネージメントとコーチング【ダブル・ゴール・コーチング実践セミナーレポート】
スポーツコーチ自身のウェルビーイングは質の高いコーチングへつながる

集団凝集性を高めるフェーズ③選手が役割に対して責任を果たせる

この3段階目のフェーズ(統一期)では、チーム内の調和・選手の役割確立が起こります。チームにおける課題があったとしても、選手同士の協力が生まれる時期でもあります。

この時期に課題凝集性を高めるために、コーチが良いフィードバックを与えることはとても大切です。

くわえて、コーチ自身がうまく感情をコントロールしながら選手と活発にコミュニケーションを取り、問題があった場合には、選手自身に解決してもらえると、チームの結束力が高まりやすくなります。

社会凝集性を高めるためには、役割を全うするチームメイトの姿勢に対して、選手がお互いに感謝の気持ちを伝えたり、尊重する姿勢を取れたりできるようにコーチが選手の行動をうながせると効果的です。

特にコーチが選手にポジティブなフィードバックをするときに、感情をうまくコントロールしながら円滑なコミュニケーションがとれるとよいでしょう。

感情のコントロールが必要な理由とその方法
抑えるよりも捉え方を変える〜指導中に湧き上がる怒りを対処する方法〜
フィードバックの頻度はスポーツをする子供の成長へ影響する〜選手が欲しい時にアドバイスを与えられる為のヒント〜

集団凝集性を高めるフェーズ④パフォーマンス期

4段階目のフェーズ(パフォーマンス期)では、選手同士の関係が確立し、チームのエネルギーがチーム目標達成に向け1つに向かいます。チームのキャプテンやムードメイカー、プレイメイカーなどが各々役割を受け入れて、チームとして機能します。

パフォーマンス期では、コーチが選手の前で常にチームビジョンを体現し続けると、選手のモチベーションもあがり、課題凝集性が高まります。

また、選手が試合の結果に気持ちを左右されないように、コーチが選手の努力や学び、ミスしたことに対するフィードバックをすると、選手が安定的にモチベーションを保ちやすくなります。

子供をスポーツでも人生でも勝者に導くダブル・ゴール・コーチング

選手の行動に対してコーチが効果的なフィードバックができると、社会的凝集性も高まりやすく、チームとしてもより良いパフォーマンスを発揮しやすいです。

パフォーマンス期においては、高いパフォーマンスを発揮するためにチーム全体がポジティブになる必要があるため、選手がポジティブになれるようなフィードバックをコーチができると、チームとして自走しやすいです。

集団凝集性を高めるプロセスの中でチーム文化が醸成される

以上のように集団凝集性を高めるポイントで最も大切なことは、どのようなチーム文化を作りたいかということです。

集団凝集性を高める方法には、上記の4つのプロセスがあります。また、このプロセスには正解があるわけではありません。

コーチや選手が描く理想のチームに基づいて、逆算しながらチームの課題をクリアする中で、集団凝集性は高まり、結果として理想のチーム文化づくりができます。

集団凝集性を高めチームのパフォーマンスを高めるためにも、チームのビジョン・ミッションを明確にしておくことは大切です。ビジョン・ミッションが明確になっていれば、チームがぶつかったときにも、コンパスのような役割を果たしてくれるでしょう。

まとめ

チームのパフォーマンスを高めるためには、チーム文化を意図的に作ることがとても大切です。その中でも大切なポイントの1つとして、集団凝集性があります。集団凝集性には、課題凝集性と社会的凝集性があります。

課題凝集性を高めるためには、選手がチーム内での役割を持っていて、責任を果たしている状態が求められます。

一方で、社会的凝集性では、コーチと選手、選手同士のコミュニケーションが良好で円滑な状態にあることが大切です。

集団凝集性を高める上では、チームのフェーズによってコーチが気を付けるポイントが異なります。本記事を参考にしながら、チームのパフォーマンスを高めることに役立ててもらえると幸いです。

参考文献

  1. 1ビル・ベスウィック著 石井源信,加藤久訳(2004).サッカーのメンタルトレーニング 大修館書店
  2. Mullen, B.,, & Copper, C.(1994). The relation between group cohesiveness and performance: An An integration. Psychological Bulletin, 115, 210-227.
  3. Tuckman and Jensen(1997). Stage of small group development revisited Group and Organizational studies, 2: 419-297.
  4. Albert V. Carron and Heather A. Hausenblas(1998). Group Dynamics IN Sport Fitness Information Technology pp.227 – pp.242.

スポーツコーチ同士の学びの場『ダブル・ゴール・コーチングセッション』

NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブではこれまで、長年スポーツコーチの学びの場を提供してきました。この中で、スポーツコーチ同士の対話が持つパワーを目の当たりにし、お互いに学び合うことの素晴らしさを経験しています。

答えの無いスポーツコーチの葛藤について、さまざまな対話を重ねながら現場に持ち帰るヒントを得られる場にしたいと考えています。

主なテーマとしては、子ども・選手の『勝利』と『人間的成長』の両立を目指したダブル・ゴール・コーチングをベースとしながら、さまざまな競技の指導者が集まり対話をしたいと考えています。

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ダブル・ゴール・コーチングに関する書籍

NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブでは、子ども・選手の『勝利と人間的成長の両立』を目指したダブル・ゴールの実現に向けて日々活動しています。

このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。

このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。

エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』

序文 フィル・ジャクソン

第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの

第2章:ダブル・ゴール・コーチ®

第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング

第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット

第5章:スポーツ選手の感情タンク

第6章:感情タンク実践ツールキット

第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意

第8章:試合への敬意の実践ツールキット

第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)

第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する

本格版書籍『ダブル・ゴール・コーチ(東洋館出版社)』

元ラグビー日本代表主将、廣瀬俊朗氏絶賛! 。勝つことを目指しつつ、スポーツを通じて人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なことを教えるために、何をどうすればよいのかを解説する。全米で絶賛されたユーススポーツコーチングの教科書、待望の邦訳!

子どもの頃に始めたスポーツ。大好きだったその競技を、親やコーチの厳しい指導に嫌気がさして辞めてしまう子がいる。あまりにも勝利を優先させるコーチの指導は、ときとして子どもにその競技そのものを嫌いにさせてしまうことがある。それはあまりにも悲しい出来事だ。

一方で、コーチの指導法一つで、スポーツだけでなく人生においても大きな糧になる素晴らしい体験もできる。本書はスポーツのみならず、人生の勝者を育てるためにはどうすればいいのかを詳述した本である。

ユーススポーツにおける課題に関する書籍『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』

バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
ーーーーー
数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)

・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言

暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。

NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブについて

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