怒る指導がなかなか減らない理由

モデリング 怒る

ここ数年の体罰や理不尽な指導が見直される傾向が強まった事もあり、以前と比べて指導中の体罰や理不尽な指導は減ってきているように見受けられます。

それを受けて、選手中心の指導法(アスリートセンタードコーチング)、褒める指導、モチベーションを高める指導法など、効果的な指導方法に関する情報も多く出回り始めました。ですが、まだまだ指導中に体罰をしてしまう(頼ってしまう)事は根強く残っている様子です。

他方では、「何があっても怒ってはいけないのか?」、「怒鳴らずに指導する方法が分からない」といった現場の悩みも耳にします。

情報は十分にあるにも関わらず、怒らない、選手主体の指導法に舵を切ることが出来ないのは何が原因なのでしょうか。

原因は複合的で1つだけでないのでこの記事で紹介する以外の原因は十分に考えられます。その上で、数あるうちの1つの考え方とそれに対する対策をこの記事でご紹介していければと思います。

人は、お手本(モデル)からの学ぶ

突然ですが、憧れの人や尊敬する人を思い浮かべてみて下さい。今やっているスポーツを始めるきっかけになったスター選手、自分の指導を変える大きな影響を与えた指導者、誰でも構いません。

その人からどんな事を学びましたか?何か参考にした事はありませんか?恐らく、多くの人が憧れの人の真似をしたり、尊敬する人のいい部分を参考にしたりして、自分の生活やスポーツに活かした経験があるのではないでしょうか。

この人を見て何か参考になる事を見て学ぶ事は、何気ないありきたりの事だと思います。ですが、私たちの学習や行動を変える事に関しては、実はもの凄い影響のある方法でもあります。この仕組みは、教育心理学で「社会的学習理論」として説明されています。

この理論は、スタンフォード大学のアルバート・バンデュラ博士が1960年代に行った大人の行動が子供の行動に与える影響を検証した実験(Bandura, Ross, & Ross, 1961)が基になり、現在でも支持されています。

この実験では、モデルとなる大人がBobo dollと呼ばれる人形(大きなダルマみたいな人形です)を殴ったり蹴ったりした姿を子供に見せました。

その結果、大人の暴力的な行動を見た子供はそれを真似をする傾向が見られ、オモチャで大人しく遊んでいた大人を見た子供は同じように大人しく遊ぶ傾向が見られました。

この考えはスポーツにも応用されており、「観察学習」という名前でスポーツのスキルを学ぶ方法として確立されています。

先ほどのバンデュラ博士やこれまでの観察学習の研究結果を参考にしてみると、多くの指導者は、何らかの形でこれまで関わった指導者をお手本にしている、指導者から何かを参考にしている事が考えられます

自分がプレーヤーであった時に怒られた指導を受けていたら、その影響が自分の指導に色濃く反映されている可能性は高いです。

また、「結果を出している指導者が厳しいスパルタで成果を出した」という一部分がハイライトされていたとしたら、その部分を自分の指導にも取り込混んだというケースも十分に考えられます。

指導者として学ぶ機会が少ない

「多くの指導者は十分な指導者としての教育を受けずに指導者になっている。」これは多くコーチ教育の研究でも度々指摘されており、諸外国も例外ではありません(Piggott, 2012)。

アメリカでも、地域のジュニアスポーツを指導するコーチは、多くの場合ボランティアで父母がやっているケースは珍しくありません。

その結果、十分なコーチとしての研修を受けずに指導現場に立つコーチも多く、そうなった場合はこれまで自分が受けた指導が一番の参考材料になります。

仮にそれまで受けた指導が怒られたり厳しくされたりした指導だったとしたら、その指導がスタンダードになってしまい、自分の指導でも反映されてしまっている様子です。

ただ、効果があると認められたアスリートセンタードコーチングも研究として数多く報告されています。

ですが、このタイプの研究は成功例として紹介されている事が多いのですが、研究論文という事もあって、世間にあまり知られてない様子です。

一方で、指導者としての教育を受けた指導者は、アスリートセンタードコーチングを活用している傾向が見られます。

このような背景もあり、指導者に対して十分な学びの機会が足りていない、学びを通して効果的なコーチングの方法を練習する機会が不足している現状が見えてきます。その結果、怒る指導からなかなか脱却するのが難しい事が考えられます。

なりたい指導者像を明確にイメージする

社会的学習理論とコーチングの研究で明らかになった事を踏まえた上で、どのようなアプローチをしたら怒る指導を減らす事が出来るのか?

1つアイディアとしては、理想とする指導者をロールモデルとして参考にして、自分自身が他の指導者のロールモデルになる事です。

この記事を読まれているあなた自身が学ぶ側でもありますが、同時に影響を与える側でもあるのです。

自分の指導している姿は周りの指導者に影響を与え、今教えている選手が将来指導者になった時のお手本になります。

その時に、教えている選手や周りの指導者があなたをお手本にしてどのような指導者になってもらいたいですか?

その思い描いた姿こそ、あなた自身が今後目指す指導者像と言えるのではないでしょうか。まずは、理想の指導者像や怒らずに指導している姿について、詳細に想い描くことからスタートしましょう。

お手本となる指導者や方法を探して、真似をして取り込む

なりたい指導者像が作り上げる事が出来たら、次はお手本を探します。著名な指導者、選手時代に教わった指導者、知り合いのチームの指導者など、競技レベルやカテゴリーを問わずに見渡してみましょう。そして、そのお手本となる指導者から学ぶ事を詳細に書き出してそれを真似をしてみます。

最初はぎこちなかったり、気づいた時に忘れてしまったりしてしまう事もあると思いますが、その都度思い出して自然と身につくまで真似してみましょう。

真似することを繰り返すうちに、「自分だったらこうする」といった具合にアレンジを加えて、より自分に合う形で取り入れていきます。繰り返し真似をする事で徐々に自分が自然と真似していた行動を行えるようになってきます。

まとめ

怒る指導がなかなかなくならない理由の1つとして考えられるのは、過去に受けた指導がその指導者のお手本になっている事が考えられます。

また、指導者として腰を据えて学んだ経験が少ない指導者が多い事も見受けられ、その影響もあり過去に受けた指導が自分の今の指導に反映されてしまっている事も考えられます。

まずは、怒らずに指導している自分を思い描く為に、必要な情報を集めたりお手本となる指導者を見つけたりしましょう。

そして、その方法を使っている自分を繰り返しイメージしたり、お手本としている指導者の真似をしたりして、自分の指導に取り込みます。

繰り返し行う事で真似している事が徐々に身につき、その姿を見た周りの指導者や指導を受けている選手が、あなたをお手本にします。

このプロセスの広がりで徐々にではありますが、怒らない指導がより広がりを見せるのではないだろうか、と私は考えています。

今回を機に学び続けるコーチであると同時に、周りにお手本とされるコーチを目指すのはどうでしょうか?

参考文献

Bandura, A., Ross, D., & Ross, S. A. (1961). Transmission of aggression through imitation of aggressive models. The Journal of Abnormal and Social Psychology, 63(3), 575.

Piggott, D. (2012). Coaches’ experiences of formal coach education: A critical sociological investigation. Sport, Education, and Society, 17(4), 525–554.

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ABOUTこの記事をかいた人

略歴 2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究している。学術的な理論や研究内容に基づいた実践方法を用いて、日本・アメリカのスポーツ選手に対して実力発揮のメンタルスキルの指導とスポーツスキル上達のサポートも積極的に行なっている。