感情のコントロールは自律を促し人を成長させる

自分の感情がうまくコントロールできずに悩んでいる方も少なくないのではないでしょうか。

感情のコントロールは、自分を制する方法でもあります。

エベレスト世界初登頂を果たしたサー・エドモンド・ヒラリーは下記のような言葉を残しています。

「我々が征服するのは山ではなく我々自身だ。」1)より引用

つまり、困難なことに立ち向かうほど、自分を制することが重要であることがうかがえます。

本記事では、感情のコントロールの方法について、スポーツコーチングを取り上げて解説します。

感情は人の成長にとって重要な役割を果たす

人が感情をどのように出すのかは、人の成長にとって重要な役割を果たします。

なぜならば、人が成長すると社会に適応することが求められ、感情の出し方によってうまく適応できたり、不適応に陥ったりしてしまうためです。

例えば、「怒り」の感情が多い人は攻撃性が高く2) 「悲しみ」の感情が多い人は、ほかの人に対する敏感性が高いが抑うつ症状が起こりやすいことが報告されています3)。

また、Pollastri et al.4) の研究結果によれば、思春期の子どもと友人に対する感情の持ち方で社会への適応能力が違うことが報告されています。

つまり、感情は、社会への適応力と深く関係しており、感情の出し方がうまい人ほど人としての成長の程度が高いことを意味します。

加えて、自分の感情コントロール力は、人を教育する場合に相手に受け継がれます。

自分の感情コントロール力は教育する能力にも関わる

自分の感情コントロール力は教育する能力にも関わります。

なぜならば、教育される側の人間は、教育する人(親・コーチ・教師・上司)を見て勉強するからです。

例えば、

でも述べましたが、親の攻撃性・暴力性は子どもへ伝わります。

つまり、教育する側の人間がうまく感情をコントロールできないと、子ども、選手、部下、生徒は自分自身の感情のコントロールが上達しません。

結果として、子どもや選手、部下、生徒は社会への不適応に陥ってしまうこともあるでしょう。

鮑他5) は子どもの感情コントロールの発達を促すためには、親子間での共感的なコミュニケーションが重要であると位置づけています。

つまり、コミュニケーションの方法が、子どもや部下の感情をコントロールする能力に影響します。

コミュニケーションに関する記事に関しては下記をご覧ください。

多くの子どもが参加するスポーツにおいても、スポーツコーチングで選手の感情のコントロールの発達を促すことは重要な位置を占めます。

スポーツコーチの感情コントロール力は選手の競技力になる

スポーツコーチの感情コントロール力は選手の競技力向上に関わります。

なぜならば、選手の最大限の実力発揮(ピークパフォーマンス)と感情には深くかかわっているためです。

スポーツ心理学の理論の中では、IZOF(Individual Zone of Optimal Functioning)理論が提唱されています。

IZOF理論を提唱したHanin6) の研究結果によれば、試合に対する実力発揮(パフォーマンス)には感情が関係していて、ポジティブな感情であるほど動作速度や瞬発力が向上したと報告されています。

ただし、個人によってポジティブな感情は違うので、自分が思うポジティブな感情は必ずしも相手にとってポジティブとは限りません。

IZOF理論を簡単に言い換えれば、選手がポジティブな感情を抱くことが多いほど、試合で実力を発揮しやすく、結果的に勝ちにつながるということです。

そのためには、スポーツコーチが自分の感情コントロール力を身につけることが重要です。

感情のコントロールを身につけるためには、感情のメカニズムを知る必要があります。

感情のメカニズムには5つのことが関係している

感情(特に激しい感情:情動)のメカニズムとしては、捉え方と行動、モチベーション、モニタリング、生理的反応が関係していることが報告されています7) 。

鮑他5) によれば、親の行動を次のように分析しています。

  1. 子どもが何かをする
  2. 親がそれを見る(聞く・感じる)
  3. 感情がわく(怒り・喜びなど)
  4. 親が行動する(怒る・ほめる・話をする)

ここで大切なのは、子どもが何かをしたときに、親の捉え方次第で感情が変わり、行動も変わるということです。

このメカニズムには、親自身が感情をコントロールするヒントが隠されています。

感情をコントロールする方法は自分の捉え方を変えること

感情をコントロールする方法としては、教育者(親・コーチ・教師・上司)が自分の捉え方を変えることが重要です。

心理学の認知行動療法の領域では、感情のコントロールにおいてもACT(Acceptance Commitment Therapy)が近年注目されています。

ACTで感情をコントロールするためには、今のありのままの気持ちや感情、感覚を受け入れることが重要です。

また、それに関連して考えていることも書き記したり、他の人に話をしたりすることによって、自分らしい感情の出し方がわかるのです。

ACTを用いて自分自身への理解が深まれば、あとは自律のための振り返りを行うことで、感情をコントロールできるでしょう。

感情をコントロールするためには相手に対して表現することが効果的

感情をコントロールするためには、相手に対して実際に表現してみることが最も効果的です。

たとえ、ACTで自分なりの感情の出し方がわかったとしても、子どもや部下に怒りや不安の感情をぶつけてしまっては、教育者(親・コーチ・教師・上司)としては感情をコントロールできているとはいえません。

自分の感情を意図的に相手に表現するからこそ、感情をコントロールできます。

車の運転に例えてみれば、ACTによって自分の感情の出し方がわかるということは、運転の方法や標識を学ぶ段階にすぎません。

自分の感情の出し方をどうやってコントロールするかは、自分なりに試してみる必要があります。

下記のようなポイントを押さえて行動を振り返ってみるとよいでしょう。

  • 自分の感情はどうだったか?
  • それに対して自分はどう思うか?
  • なぜそう思うのか?
  • 自分はどのように行動したか?
  • 相手はどういう反応をしたか?
  • 相手と自分の関係はどうだったか?
  • 自分はどう行動すれば感情をコントロールできたのか?

最終的に、自分自身が「自律」できれば、「自立」した人を育てることもできるでしょう。

主体性のある子どもや部下を育てたいと思うのであれば、感情のコントロールを身につけましょう。

まとめ

感情は人の成長にとって重要な役割を果たします。教育する人の感情コントロール力は教育される側に伝わります。

スポーツであれば、スポーツコーチの感情コントロール力は選手に受け継がれ、結果的にパフォーマンスさえも左右します。

感情のメカニズムには5つのことが関係していて、認知行動療法の立場からすれば、捉え方と行動に着目することによって、感情をコントロールすることができます。

自分をよく知り、操縦方法が分かることによって、「自律」することが可能になります。

結果的に自律が出来れば、自立した子どもや部下を育てる事ができるため、主体性のある人を育てることができるでしょう。

本記事を参考にして感情のコントロール力を身につけてみませんか?

参考引用文献

1) ビル・ベスウィック(2004).サッカーのメンタルトレーニング 石井源信・加藤久(訳) 大修館書店 pp.24-47.

2) Fern, J., & Petermann, F. (2018). Development of anger control: A necessary component within the treatment of children with aggressive behavior? KINDHEIT UND ENTWICKLUNG, 27, 102-109.

3) Nakamura, A., Takizawa, R., & Shimoyama, H. (2018). Increased sensitivity to sad faces in depressive symptomatology: A longitudinal study, Journal of affective disorder, 240, 99-104.

4) Pollastri, A, R., Raftery-Helmer, J, N., Cardemil, E, V., & Addis, M, E. (2018). Social context, emotional expressivity, and social adjustment in adolescent males. Psychology of Men & Masculinity, 19, 69-77.

5) 鮑婧,岩渕将士,加藤道代(2018).子どもの情動に対する親の養育に関する研究動向 東北大学大学院教育学研究科研究年報,67(1):173-187.

6) Hanin, Y.L. (2000). Individual zones of optimal functioning (IZOF) model: Emotion-Performance Relationships in Sport. In Hanin, Y.L. (Ed.), In Emotions in Sport. Human Kinetics : Champaign, pp65-89.

7) Scherer, K, R. (2000). Feeling integrate the central representation of appraisal-driven response organization in emotion. In Manstead, A .S.R., Frijida, N., & Fischer, A. (Eds. ) Feelings and emotions. Cambridge University Press.

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ABOUTこの記事をかいた人

東海大学体育学部競技スポーツ学科卒(2015) 東海大学大学院体育学研究科修了(2017) 専門はスポーツ心理学で主にメンタルトレーニングの研究と実践に携わる 経歴は、大学生弓道部(5年)中学生野球部(2年) 大学生弓道部は全国ベスト8位3回 16位1回を経験 大学院修了後はフリーランスとしてウェブライター兼メンタルトレーニングアドバイザーとして活動