「〜してはいけない」はスポーツコーチングにおいては逆効果!選手のパフォーマンス低下を招く可能性?

スポーツ現場でコーチングをしていて、「〜するな!」と選手に声かけしたことはありませんか?

 「教えてないプレーをするな!」

「今のプレーはやっちゃダメだよ。」

言い方やニュアンスもさまざまですが、やって欲しくない、やらない方がいいと思うプレーに対して「やってはダメだよ」とアドバイスをすることは少なくないでしょう。

実は、「〜してはダメだ」というコーチから選手への指示の出し方は、これまでのスポーツ科学などの研究結果からもあまり効果的な方法とは言えないのです。

その理由は何でしょうか?「〜してはダメだ」という声の掛け方よりもいい方法はないのでしょうか?

この記事では、コーチから選手への指示に関する疑問を解決できるような内容やヒントを紹介します。

「~してはダメ」とコーチが選手に指示を出すのが良くない3つの理由

スポーツコーチに限らず、「~してはダメ」という指示の出し方は、人間科学領域の研究ではあまり良くないという研究結果が出ています。

これには大きく3つの理由があるので、下記では、スポーツコーチが選手の行動を抑制するような指示の出し方が効果的ではない理由について解説します。

理由①:選手の感情を抑制してしまいストレスになる

やってはいけないプレーをやらないようにすることは、スポーツをやる上でストレスを生むことにもなります。また、やってはいけないことがミスとして強調され、うまくできない度にマイナスな感情を持ちやすくなってしまいます。

仮に、「バンカーに向かって打ってはいけない」と言われると、バンカーに打たないようにする努力をすることになります。

また、バンカーに打ち込んでしまった場合には、「次はやらないように」と自分に言い聞かせながらミスによって湧き上がった感情を自分の中に抑え込むことにもつながってしまいます。

選手の行動を抑制するコーチングは選手のストレスを生みやすくなってしまいます。実際に、James Gross博士は、感情のコントロールの研究をしています。

James Gross博士によれば、怒りや苛立ちなどの感情をコントロールする目的で感情を押さえ込もうとする行為は、結果としてうまく感情をコントロールできないだけでなく、ストレスを感じてしまうと説明しています(Gross, 2015)。

コーチに指示をだされた「~してはダメだ」ということをしないように努力をし、うまくいかなかった時に感情を抑え込んでしまうと、選手がプレー中にストレスをため込みやすくなってしまいます。

ストレスがたまった選手の心理状態では、パフォーマンスを発揮することが難しくなってしまいます。

理由②選手が注意が散漫になってしまう

「〜してはいけない」とコーチが選手に言い続けると、結果的にしてはいけないことに注意が向けてしまい、コーチとして選手に求めるプレーに選手の注意が向かなくなってしまいます。

また、「やってはいけないプレー」と「自分がやるべきプレー」の2つに注意を向けることにもなってしまい、注意が散漫になってしまうことにもつながります。

「バンカーに向かって打つなよ」と言われればバンカーを意識してしまい、「シュートを外すな」と言われればシュートの結果を意識してしまいます。

このときに、グリーン手前のフェアウェイに狙うことが本来コーチとして選手に求めるショットであったとしたら、「バンカーに打たない」という指示にも注意が向いてしまい注意散漫な状態になってしまいます。

コーチが選手に指示して集中した状態を作るためには「今この瞬間やるべきこと」に意識を向けるのが好ましいことが明らかにされています(Nakamura & Csikszentmihalyi, 2014)。

しかし、「選手が本来やるべきプレー」とは別に「コーチから指示されたやってはいけないプレー」に同時に注意を向けると、選手は集中してプレーしにくくなってしまうのです。

理由③:選手のモチベーションの低下につながる

コーチが選手にたいして「やってはいけないプレー」を強調してしまうと、選手自身がやりたくないプレーやコーチにやらされているプレーが増えてしまい、結果的にモチベーションの低下を招いてしまう可能性があります。

そもそも人のモチベーションのメカニズムとして、「コーチから言われたからやる」、「やってはいけないプレーだから、やならないようにする」といった動機(きっかけ)でプレーすることは自己決定(選手が自分できめること)の幅を狭めてしまいます。

そして、自己決定ができないとスポーツが好きな気持ちや興味がどんどん薄れてしまいます。このメカニズムを自己決定理論ではアンダーマイニング効果と呼びます(Ryan & Deci, 2020)。

一度や二度コーチが選手に「そのプレーをやってはダメだ」といったとしても、大きな影響はありませんが、このコミュニケーションが長期間続くと選手がスポーツに対するやる気を損ねてしまいやすいです。

コーチが実践しやすい選手への効果的な言葉がけ

コーチとして選手やって欲しいプレーを強調する

コーチとして選手にやってほしいプレーをアドバイスすると効果的です。

例えば、「バンカーに打ってはダメだ」ではなく、「手前のフェアウェイを狙おう」とアドバイスをすれば、結果的にはバンカーに打たないショットにつながります。

他にも、「シュートを外してはダメだ」という声かけの代わりに、「バックボードにあるラインの角に優しく当てよう」といいかえれば、シュートが入りやすいポイントに意識を集中してもらうことができます。

このように、プレーがうまくいくために注意が向くアドバイスを伝えると、選手は今やるべきことが明確になるので、結果的にプレーに集中しやすくなります。

コーチが選手のチャレンジしたいことを発問する 

選手が自分でやるプレーを決めるようなサポートをすることも、選手への声かけとしては効果的です。

具体的には、コーチが選手のやってみたいプレーやチャレンジしたいプレーを聞ききながら、選手自身で「このプレーをやる!」と決められるようにするとよいでしょう。

選手が「自分で決めてプレーする」という感覚を持てると、スポーツに対する楽しさを感じたり、難しいプレーにチャレンジしやすくなります。

ここでコーチとして大切なことは、選手が難しいプレーにチャレンジしてミスしても大丈夫と思えるように、コーチが選手のチャレンジした姿勢を褒めることです。

ただし、選手のチャレンジを毎回褒めることは試合中の短い時間では難しいので、練習や試合の休憩時間など、まとまった時間があるときに試してみてください。

まとめ 

コーチや大人として子どもに接する際に、何気なく使いがちな「〜してはいけない」という指摘ですが、実はさまざまな弊害があります。

なぜならば、やってはいけないプレーをすることでミスとして強調されたり、ミスした時に湧き上がった感情を抑えこむことでストレスを感じやすくなってしまうからです。

また、「〜してはいけない」という指摘によって、選手が「やってはいけないプレー」と「本来やるべきプレー」の2つに注意がむいてしまって集中力が低くなりよいパフォーマンス発揮につながりにくくなってしまいます。

コーチが選手にやって欲しいプレーを具体的に伝えることで、やるべきプレーが明確になり選手が集中しやすくなります。

ほかにも、選手自身がプレーを決めてチャレンジできるようなコミュニケーションをコーチが取ることで、選手にとって難しいプレーでもチャレンジしやすかったりミスを通して成長につながりやすくなったりします。

コーチの言葉は選手に大きな影響を与えることが多いです。裏を返すと、選手にとってポジティブな声がかかれば、選手の成長につながりやすくなります。

コーチとしての声かけを振り返ってみるといろいろな気づきがあるので、ぜひ試してみてください。

参考文献

Gross, J. J. (2015). Emotion regulation: Current status and future prospects, psychological inquiry. Psychological Inquiry, 26(1), 1–26.

Nakamura, J., & Csikszentmihalyi, M. (2014). The concept of flow. In Flow and the foundations of positive psychology (pp. 239–263): Springer.

Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2020). Intrinsic and extrinsic motivation from a self-determination theory perspective: Definitions, theory, practices, and future directions. Contemporary Educational Psychology, 101860.

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​アメリカNPO法人Positive Coaching Allianceは、「Better Athletes, Better People」をスローガンとし、ワークショップやオンライン教育を中心に、指導者、保護者、アスリート、リーダーへと提供することで、ユース世代のスポーツ教育をPositive で選手の個性を育む環境へと変容させることを目指しています。

創設以来、「勝つこと」と「ライフレッスン」のダブルゴールを目指すPCA メソッドの訓練を受けたコーチは、約75万人おり、2015 年度だけで8 万人のコーチがPCA コーチ法を学んでいます。また、これまでに北米約3500 の学校やスポーツクラブ、ユースプログラムに導入され、実際に参加した学生は860 万人を超え、アメリカの若者スポーツコーチの基準になりつつあります。

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ABOUTこの記事をかいた人

略歴 2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究している。学術的な理論や研究内容に基づいた実践方法を用いて、日本・アメリカのスポーツ選手に対して実力発揮のメンタルスキルの指導とスポーツスキル上達のサポートも積極的に行なっている。