コーチとして「ミスしても大丈夫」と伝えても選手が難しいプレーにチャレンジできない理由

多くのコーチの方と関わる中でよく話題になることの1つが「選手がミスを恐れてしまう」ことです。

コーチからも「ミスしても大丈夫だよ!」と声をかけても、縮こまってしまいなかなか思い切ってプレーできないという声をよく聞きます。

ミスして大丈夫だと伝えているのに、それでも思い切ったプレーができない原因はいったいどこにあるのでしょうか?

競技によるミスの重みの違いなども考える必要はありますが、選手がミスした時の周りの反応を気にしているのが可能性の1つとして考えられます

「選手がミスへ恐れる」ことを解決するには、言葉で伝えるだけではなく「ミスしても大丈夫だ」と思える環境やコーチから選手への関わり方が大切です。

そこでこの記事では、選手がミスを恐れてしまうメカニズムを踏まえた上で、ミスを恐れずにプレーするためにコーチができることを一緒に考えていきましょう。

なぜミスすることが大切なのか?

選手がミスを恐れないようにする方法について考える前に、そもそもなぜミスが大切なのかを改めて考えてみましょう。

ミスをしないようなプレーとはどんなプレーでしょうか?また、ミスをしないようなプレーにはどんなメリットがあるのでしょうか?

一方で、練習中にミスをしないとどんなデメリットがあるのでしょうか?

選手のミスに対する考え方はさまざまですが、選手にとってミスが大切な理由としては、「ミスをしないと成長しないから」ことがあるのではないでしょうか。

選手は、失敗やミスをした時に「次はこうしてうまくやろう」と工夫を凝らして次のプレーを成功させようとします。

そして、選手が工夫して取り組みがうまく行ったとき、選手の成功体験となり次にプレーする時のミスを減らすことができます。

しかし、選手がミスしたときのコーチや選手同士の関わり方次第では、ミスが成長の機会と捉えられなくなってしまうこともあります。

成功体験が結果につながる理由と方法

勝利至上主義からの脱却のために!アスリートセンタードコーチングの考え方

コーチによるミスの指摘は選手のチャレンジ精神を損なう

コーチが選手のミスに対して指摘ばかりを繰り返していると、選手のチャレンジ精神を損なってしまいます。

なぜならば、選手がミスする度にコーチから怒られたりペナルティといった罰を何度も受けていると、ミスをしそうなプレーをすることが不安になり、避けるようになってしまうからです。

これは、刺激(アメとムチ)で行動をコントロールするメカニズムを説明しているSkinner(スキナー)という研究者が提唱したオペラント条件付け理論と深く関係しています(Staddon & Cerutti,2003)。

コーチが選手のミスを指摘することとオペラント条件付け理論

オペラント条件付け理論では、罰を与えること目的は「やって欲しくない行動はさせないようにする」こととされています。

つまり、罰を受けるのが嫌だからミスするようなプレーをやらなくなり、結果としてミスはしなくなります。

しかし、選手がミスしそうな難しいプレーやチャレンジも避けるようになってしまうため、ミスを恐れずにプレーするのが難しくなってしまいます。

このような選手の失敗への恐れに対するメカニズムから、選手が「ミスは自分にとって良くないもの」と条件付けされてしまうのです。

コーチによるミスへの指摘と選手が学ぶ3つの要因の関係

コーチによるミスへの指摘と選手が学ぶ3つの観点(「選手の行動」「選手の視点」「環境」)には、選手のチャレンジ精神と深いかかわりがあります。

なぜなら、ミスしたチームメイトを選手が見た時に「ミスをすると怒られるから、ミスするようなプレーはしないようにしよう」と他の人を見て「学習」するからです。

つまり、もしひとりの選手がミスをしたときに怒られたとしたら、コーチから怒られているのを見ていた周りの選手は怒られないためにミスをしないプレーを選んでしまう可能性が高くなります。

これは、モデリングと呼ばれる、手本やモデルを観察して人が学習するメカニズムと関係しています。(Raaijmakers et al., 2018)

コーチが選手のミスを指摘することとモデリング

コーチが選手のミスを指摘すると、選手の中でモデリングという人を手本にするという意識がはたらきます。

モデリングが起こると、怒られたチームメイトを選手が見てコーチから怒られないための手本にしてしまうのです。お手本を見た選手は、自分がミスをしないようなプレーを選ぶようになってしまうことで、チャレンジしたプレーやミスを恐れないプレーをしなくなってしまいます。

このモデリングは、人が自分の行動、自分の思考、そして周りの環境の影響を受ける中で学習していくという考え方(社会的認知理論)で詳しいメカニズムを説明できます(Bandura, 1991)。

社会的認知理論は、こちらの記事でも説明していますのでご覧下さい。

スポーツコーチングのアイディア集|選手の成長しやすい練習環境を整えるには?

選手が意欲的にスポーツに取り組める練習環境にするためのコーチの関わり方のヒント

選手がミスを恐れずプレーするためにコーチとしてできること

ここまで、2つの学習理論からコーチが選手のミスに対して指摘する行動と指摘された選手、周りの選手に与える影響について説明しました。

ここからは、ここまでの説明を踏まえた上で選手がミスを恐れずにプレーするためにコーチができることを紹介します。

コーチができること①チャレンジしたプロセスを褒める

選手がミスをしてもコーチから努力したことを褒めてもらえたら、選手にとっては難しいことにトライしたことが良かったと思えるでしょう。

しかし、実際にコーチは努力することを褒める大切さを頭では分かっていても、プレーを褒めることが多いとすぐに努力を褒めるのは難しいですよね。

そこで、前もって選手が努力したことに対してコーチとして褒めている様子をイメージするメンタルリハーサルはとても効果的です。

練習前に、選手のミスしそうな難しいプレーを思い浮かべて、コーチとして選手の努力を褒めている様子をイメージしてみましょう。

イメージを繰り返し頭の中で作ることで、イメージと同じような場面の時にイメージ通りの行動を取りやすくなります。

コーチができること②選手同士で話せる場を作る

選手がミスを恐れずチャレンジしたプレーをコーチとして引き出すためには、選手同士で話せる場を作ることは効果的です。

チームの雰囲気は、選手やコーチ同士の関わり方によって生まれます。だからこそ選手同士でどんな声をかけ合うとミスを恐れずにチャレンジできるか話し合うことでお互いがミスを恐れずプレーすることを尊重しやすくなります。

選手同士で話せる場を作るポイントは、コーチから「こんな空間にしよう」と伝えるのではなく、あくまで選手同士で決めることです。

選手同士で行った自己決定のプロセスが「自分たちで決めた目標」になるので、選手が目標に対して自発的に取り組めます(Reeve, Ryan, Deci, & Jang, 2008)。

選手たちが練習中にかける言葉や関わり方も決めると選手が何をやれば良いか明確になるでしょう。

選手が自分たちで必要だと思った声かけや関わり方を積極的に使うことで、ミスを恐れずチャレンジ精神にあふれた練習・チーム環境を作れます。

コーチができること③コーチとしての無意識の言動を振り返る

コーチとしてできることとして、無意識の言動を振り返ることも効果的です。

自分では努力を褒めているつもりでも実は結果を褒めていたり、選手の意見を受け入れているつもりが、受け入れずに言い返してしまっていた、ということも多々あります。

実際に、ビデオで自分自身のコーチングの様子を撮って見てみると、思っている以上に気づきが多いでしょう。ビデオを何度か見ているうちに、自分自身の改善点がより良いコーチングへのヒントに思えてくるでしょう。

まとめ

コーチとして選手にミスしても大丈夫だと伝えているのに選手がミスを恐れてしまうのは、ミスが自分にとって良くない物と学んでしまっている可能性があります。

ほかにも、選手のミスに対して周りがどのような関わり方をしているかも、ミスを恐れずプレーできるかどうかに関係しています。

さらに、コーチとして努力を褒めるようにしているつもりでも、実は結果を褒めてしまっていたということは少なくありません。

そんなときは、自分のコーチングをビデオで撮って見てみると自分では気づかなかった発見が多く見つけられるでしょう。

今回の記事をヒントに、ぜひ一度コーチや選手の関わり方やかける言葉を見直してみてはいかがでしょうか?

参考文献

Bandura, A. (1991). Social cognitive theory of self-regulation. Organizational Behavior and Human Decision Process, 50, 248–287.

Raaijmakers, S. F., Baars, M., Schaap, L., Paas, F., Van Merriënboer, J., & Van Gog, T. (2018). Training self-regulated learning skills with video modeling examples: Do task-selection skills transfer? Instructional Science, 46(2), 273–290. doi:10.1007/s11251-017-9434-0

Reeve, J., Ryan, R. M., Deci, E. L., & Jang, H. (2008). Understanding and promoting autonomous self-regulation: A self-determination theory perspective. In D. H. Schunk & B. J. Zimmerman (Eds.), Motivation and self-regulated learning: Theory, research, and application (pp. 223–243). New York, NY: Lawrence Erlbaum Associates.

 Staddon, J. E., & Cerutti, D. T. (2003). Operant conditioning. Annual review of psychology, 54(1), 115-144.

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ABOUTこの記事をかいた人

略歴 2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究している。学術的な理論や研究内容に基づいた実践方法を用いて、日本・アメリカのスポーツ選手に対して実力発揮のメンタルスキルの指導とスポーツスキル上達のサポートも積極的に行なっている。