オペラント条件付けは、子ども・選手の良い行動を引き出すために欠かせない理論的な考え方の1つです。子どもが良い行動ができる大人になってほしいという気持ちは、大人として想っている方は多いでしょう。
しかし、実際に良い行動をしてもらうためにどうしたらよいのか?悩んでいる人は少なくありません。そこで本記事では、オペラント条件付けについて解説しながら、子どもの良い行動を引き出す考え方について解説します。
オペラント条件付けとは人の行動変容に関わる考え方
オペラント条件付けとは、人の行動変容に関わる考え方の1つです。オペラント条件付けのそもそもの定義としては、「行動に結果がともなうことにより、その行動の頻度が変化すること」※1があります。
たとえば、選手や子どもが、倒れた相手選手(子ども)に対して、手を差し伸べて起き上がる手伝いをしたとします。
この時に、親やコーチから、「いい行動だね!」と褒められることで、子どもは相手選手に手を差し伸べることが良いことだと認識し、より多くの行動をするようになります。
このように、どんな行動が良いのか?を結果から学ぶことを、行動変容の側面からみた理論がオペラント条件付けです。
オペラント条件付けとスポーツコーチング
オペラント条件付けとスポーツコーチングは密接に関わっています。なぜならば、オペラント条件付けは、コーチングそのものの理論的背景の中でも、行動主義的な物の見方として位置付けられているからです※2。
ここでは、オペラント条件付けについて詳しく解説します。
古典的条件付け
オペラント条件付けが出来上がったそもそもの背景は、パブロフという生理学者がイヌに対して実験を行ったことからスタートしました。※3
パブロフは、犬に餌を与える時に、唾液分泌にどのような反応があるのかを実験しました。この実験では、ブザーがなるとエサがでるような仕組みをつくり、犬からチューブを通して唾液を採取するということを実施。
この実験の最初、犬はブザーが鳴っても唾液がでることはありませんでしたが、次第にブザーがなることでエサが与えられることがわかると、ブザーが鳴っただけで唾液がでるようになったのです。
つまり、結果から犬が学ぶうちに、条件反射的に体が反応するようになったというのが、古典的条件付けで明らかにされた生物のメカニズムなのです。
教育場面での応用例
教育場面での応用例としてあるのが、スキナー(オペラント条件付けの研究者の一人)によって提案されたプログラム学習です。
このプログラム学習は、多様な個性・価値観を持つ子ども・選手に対して効果的な教育方法で、オペラント条件付けを効果的に使いながら個に応じた学びが提供できます。
このプログラム学習には下記のような5つの原理があり、近年のe-Learningのベースにもなっていることが述べられています。※1
プログラム学習の5つの原理(榎本・藤澤,2020より※1) | |
原理 | 内容 |
スモールステップの原理 | 学習内容を小さなステップに分解して難易度の順に提示する |
積極的反応の原理 | 学習者に積極的に回答させる |
即時確認の原理 | 回答に対してすぐに正誤のフィードバックを与える |
自己ペースの原理 | 学習者は自分のペースで学習を進められる |
フェイディングの原理 | はじめは正答しやすいようにヒントを与え、徐々にヒントを減らしていく |
オペラント条件付けと体罰
オペラント条件付けと体罰は密接に関わっています。なぜならば、体罰はコーチ・保護者の積極的な行動によって、子ども・選手の行動を減らす行為だからです。
オペラント条件付けでは、「行動の結果」によって4つの行動変容が起きることが明らかにされています。
- 正の強化(行動を強化させることで頻度が増える)
- 正の弱化(行動を強化させることで頻度が減る)
- 負の強化(行動をしなくなるようにさせることで頻度が増える)
- 負の弱化(行動をしなくなるようにさせることで頻度が減る)
このうち、体罰は正の弱化に値します。体罰に関する研究では、たしかに「してはいけない行動」を子どもはしなくなるものの、一時的な効果に過ぎず、それよりもそのほかの問題行動を引き起こすことが明らかにされています。※2
また、体罰によって、子ども・選手の良い行動が起きることは決してないということも明らかになっており、体罰が子どもの行動変容において効果的ではないことがわかります。
フィードバックの内容で子どものモチベーションへ影響する
オペラント条件付けの4つの行動変容のうち、正の強化は、子どもの良い行動の頻度を高めるうえでとても効果的です。この方法として、笑顔や褒めるといったポジティブなフィードバックが非常に効果的です※2
特に、フィードバックを行う際には、結果へのフィードバックではなく、プロセスを重んじたフィードバックができると、子ども・選手の「良い行動※ここでいう良い行動とはチームの理念や規範に基づいた行動」を引き出しやすくなります。
結果へのフィードバックとモチベーション
結果へのフィードバックは、選手のモチベーションへの影響はさまざまです。結果には大きく成功と失敗があります。
成功に対するフィードバックには、内発的動機付け(高いモチベーション)を引き出すという研究結果もあれば、動機づけには関係がないという研究、モチベーションを下げるといった研究もあり、個人によって異なることが明らかにされています。※4
ただし、人の行動選択という観点から見れば、結果はコントロールできません。例えば、試合に勝ちたいと思ったとしても、勝てるとは限らず、相手チーム(選手)が強ければ負けることもあります。
学校のテストでいえば、テストで100点を取りたいと思っても、平均点が90点のテストもあれば30点のテストなどもあり、必ずしも100点を取れるとは限りません。
子どもや選手は、自分がコントロールできない範囲のことを考えてしまうと、成功できるか失敗してしまうのか、不安を感じるようになってしまうので、パフォーマンスが下がります。
このように、結果に対するフィードバックは、モチベーションという観点からいっても、パフォーマンスという観点からいっても全く効果的ではないことがわかります。
プロセスへのフィードバックとモチベーション
プロセスフィードバックは、子ども・選手のモチベーションを高めるうえでは効果的です。例えば、Haimovitz& Corpus※4やKamins& Dweck※5の研究では、プロセスフィードバックが子どもの動機づけを高めることが明らかにされています。
Haimovitz& Corpus※4の研究では、大学生に対して「あなたにはもって生まれた才能がある」というフィードバックをしたグループと「あなたは効果的な戦略を使用しているね」というフィードバックをしたグループにわけて、失敗させた課題への興味や楽しさを調査しています。
その結果、「あなたは効果的な戦略を使用しているね」とフィードバックされた大学生んおほうが、興味・楽しさが高かったということが報告されています。
また、Kamins& Dweck※5は、ネガティブな結果に対してプロセスフィードバックしたときにどのような影響があるのかを調査しています。
課題に失敗した幼児に「あなたには失望したわ」という人物に対するフィードバックをしたグループ、失敗を指摘したあとで「他の方法を考えることもできるよ」というフィードバックをしたグループで分けた時に、「他の方法を考えることもできるよ」とプロセスフィードバックをしたグループのほうがモチベーションが高かったことが報告されています。
つまり、プロセスを重んじたフィードバックは子どものモチベーションを高めてハイパフォーマンスを引き出すことにもつながります。
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子どものスポーツインテグリティ向上にも
オペラント条件付けをうまく活用することで、スポーツインテグリティを高めることにもつながります。
スポーツマンシップやフェアプレーの精神など子ども・選手がリスペクトの精神をもった行動を実施したときに、プロセスフィードバックをしてあげられると、スポーツインテグリティに沿った行動頻度が増えるからです。
例えば、審判へお礼を言った選手がいたとします。その選手をコーチが全員の前で褒めたとします。そうすることで、選手は、審判へお礼をいうことが「良いことなんだ」という認識になるので、お礼をいうようになります。
ただ、お礼をいったことに対してフィードバックするだけではなく、全員の前でなぜお礼を言ったのか、チームミーティングなどで説明してもらうのも良いでしょう。
そのときに、「その考え方は素晴らしいね」といったように、考え方そのものを褒めてあげられると、「良い行動を考える」ということへのモチベーションが高くなり、さらに良い行動が引き出せるでしょう。
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子どものダブル・ゴールな行動を引き出すコーチング
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブでは、子ども・選手が勝利と人間的成長の両立ができる環境を創るために、米NPO法人Positive Coaching Allianceと提携し「ダブル・ゴール」という考え方を提唱しています。
このダブル・ゴールには大きく3つの原理・原則があります。ここでは、オペラント条件付けを活用したダブル・ゴールの3つの原理原則について解説します。
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勝者を再定義する
勝者を再定義することにおいて、試合の勝ち負けや成功・失敗ではなく、自分自身が成長し続けられることが勝者であると定義することが大切です。
そのために、コーチができることとして、下記の3つのポイントに焦点をあてたフィードバックをしてあげることが挙げられます。
- 努力
- 成功や失敗から学ぶ姿勢
- ミスとの向き合い方
ここで挙げた3つのポイントへのフィードバックは、プロセスフィードバックにあたります。
そのため、選手にとっては、努力することや、成功・失敗とわず、学ぶ姿勢をもった行動、ミスと向き合う考え方をするようになるので、選手はプロセスを大切にするようになります。
こうした行動が引き出されたときに、さらにポジティブなプロセスフィードバックをすることで、ダブル・ゴール(勝利と人間的成長の両立)が実現できる行動頻度が増えて、子ども・選手ならびにチームとして成長し続けられるでしょう。
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感情タンクを満たす
感情タンクを満たすというのは、子どものモチベーションを高め続けましょうという原理・原則です。ダブル・ゴール・コーチングの中では、子ども・選手のモチベーションをガソリンタンクにみたてて表現します。褒めたりポジティブなフィードバックをすることで、選手のモチベーションは、ガソリンタンクが満ちるように高くなります。
一方で、指摘したり非難したりしてしまうことで、ガソリンが減っていくようにモチベーションが下がってしまいます。ここで大切なポイントとしては、指摘することがダメなわけではないことです。褒めることと指摘することはうまくバランスをとりながらフィードバックしてあげることが大切で、5(褒める):1(指摘する)くらいのバランスがよいことが提唱されています。
このように、子どもたちの良い行動(プロセス)を見た時に褒めてあげられると、良い行動がさらに増えて、チーム全体の士気も高まりやすくなります。
競技へ敬意を払う
ダブル・ゴールでは、単にスポーツパーソンシップやフェアプレーの精神に準じた行動を選手へ求めるだけではありません。
- Rule:ルール
- Opponents:対戦相手
- Officials:審判
- Teammate:チームメイト
- Self:自分自身
に敬意を払えるようになって、はじめてより良いスポーツ環境が生まれます。すでにスポーツパーソンシップを養ったりフェアプレーの精神に基づいた行動をすることは、スポーツにおいて当たり前になりました。
だからこそ、スポーツ環境を作っているROOTSに対して最大限の敬意を払うことで、新しいスポーツの価値が生まれるとダブル・ゴールでは考えられています。
まとめ
オペラント条件付けとは、「行動に結果がともなうことにより、その行動の頻度が変化すること」として定義されています。実はスポーツコーチングとオペラント条件付けは深く関係していて、行動主義的な物の見方として位置付けられています。
また、子ども・選手の行動変容を促す上では、とても大切な考え方でもあり、スポーツだけではなく教育場面などでも応用されています。オペラント条件付けを効果的に行い、子ども・選手のチームの理念や規範に基づいた「良い行動」を引き出すためには、プロセスフィードバックが効果的です。
子ども・選手の結果に対してフィードバックするのではなく、プロセスに対してフィードバックすることで、子どものモチベーションが高まりやすく、ハイパフォーマンスを引き出すことにもつながります。
オペラント条件付けをうまく活用し、ダブル・ゴール・コーチングが実践できると、子どもの勝利と人間的成長の両立を実現しやすくなるでしょう。本記事を参考にして、より良いスポーツ環境・教育のあり方をともに目指していただけると幸いです。
参考引用文献
※1 青山謙二郎(2006).オペラント条件付け 岡市廣成,鈴木直人(編) 心理学概論, pp. 89-pp. 99 ナカニシヤ出版.
※2 吉野俊彦(2015).反応抑制手続きとしての弱化―自己矛盾の行動随伴性― 行動分析学研究, 29, 108-118.
※3 Jeffery J. Huber(2013). Applying Educational Psychology in Coaching Athletes, Human kinetics
※4 外山美樹,湯立,長峯聖人,三和秀平,相川充(2017).プロセスフィードバックが動機づけに与える影響―制御焦点を調整変数として― 教育心理学研究, 65, 321-332.
※5 Haimovitz, K., & Courpus, J. H.(2011). Effects of person versus process on student motivation: Stability and change in emerging adulthood, Educational Psychology, 31, 595-609.
※6 Kamins, M. L., & Dweck, C. S.(1999). Person versus process praise and criticism: Implications for contingent self-worth and coping, Development Psychology, 35, 835-847.
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