今回のテーマは「コーチとしての幸せ」ですが、コーチとしての幸せを実現するためには、コーチのストレスマネージメントは欠かせません。
なぜならば、コーチは多くのストレスを抱えており、このストレスはコーチ自身の心理的健康被害やドロップアウトを招いてしまう可能性があるためです。
本記事では、コーチとしての幸せを考える上で必要なストレスマネージメントについて解説します。
※本記事で取り扱う「幸せ」とは英語でwell-beingを表し、「長期的な幸せ」を表します。
目次
「コーチは選手の人間的成長を促す仕事」という考え方がコーチとしての幸せを感じさせる

「コーチは選手の人間的成長を促す仕事」という考え方がコーチとしての幸せを感じさせることを、伴氏(コーチングラボvol.11講師)は述べています。
なぜならば、TEAM USA 1)の資料によれば、「選手の人間的成長を促す仕事」と捉えている人はコーチの幸せ・健康状態に対する満足度・職業に対する満足度・人生に対する満足度の全ての項目において高かったことが報告されているためです。
下記にコーチとしての幸せについて解説します。
アメリカにおけるコーチの心理的健康被害やドロップアウトは問題点とされている
アメリカにおけるコーチの心理的健康被害やドロップアウトは、TEAM USAの資料1)によれば問題視されています。
なぜならば、これらの問題点はアメリカの多くのスポーツ団体で野放し状態にされてしまっているためです。
コーチの心理的健康被害やドロップアウトが起こる原因として、コーチ自身の栄養不足や睡眠障害、家族との葛藤や社会的疎外感があります。
これに加えて選手への指導によって身体的にも感情的にも疲れ果ててしまいます。
また、その他の原因としては、試合期における疲労感や不安といった感情が、熱意やモチベーションを低下させることも懸念されています。
こういった様々な要因が、アメリカにおけるスポーツ指導者の心理的健康被害やドロップアウトに影響しています。
日本におけるスポーツ指導の現場でも同様の現象が起きている
日本におけるスポーツ指導の現場でも同様の現象が起きていると言えるでしょう。
なぜならば、日本におけるスポーツ指導の現場は部活動で行われることが多く、スポーツ指導者はコーチング以外にも多くの仕事を抱えているためです。
渋倉の報告2)によれば、運動部顧問が多くの悩みや負担を強いられていることが述べられています。
部員に関する悩み、活動環境への悩み、自分自身の指導力への悩み、時間的負担に対する悩み、金銭的負担への悩み、体力的負担への悩み、制度の不整備の悩みや顧問間の人間関係といった悩みが調査結果の中で挙げられています。
このように、アメリカのスポーツ指導者に限らず、日本のスポーツ現場においても、スポーツ指導者の心理的健康被害やドロップアウトが起こっていることが示唆されています。
コーチのストレスを軽減することは「コーチとしての幸せ」につながる。

コーチのストレスを軽減することは、「コーチとしての幸せ」につながります。
多くのコーチは、ストレスを抱えておりそのストレスに対する対処が必要になります。
コーチとしてのストレスを軽減する手順として、USOCの資料では下記のようなステップがあります。
- ストレスに最も影響している5つの要因の中から最優先で対処すべき事柄を絞り込む
- ストレスマネージメントに対する戦略を立てる
- 戦略をチームの環境に適応させる
上記の3つのポイントについては下記の通りです。
コーチのストレスに最も影響している5つの要因の中から最優先に対処すべき事柄を絞る
第一ステップとしては、コーチのストレスに最も影響している下記の5つの要因の中から最優先で対処すべき事柄を絞ります。
- コミュニケーションと葛藤
- プレッシャーと期待
- アスリートの成長戦略とグループダイナミクス
- 練習へのサポート
- プライベートな時間の削減
コミュニケーションと葛藤に関する要因としては、ヘッドコーチとの哲学的な違い、選手の親による口出しコーチやスタッフ陣の信頼や連携の欠如といったことを意味します。
プレッシャーと期待に関する要因では、仕事上の安全保障の欠如やアスリートの結果がコーチの評価になってしまうこと、非現実的な目標からプレッシャーを感じてしまうことを指します。
アスリートの成長戦略とグループダイナミクスにおけるストレスの要因としては、アスリートの集中力や努力、能力の問題やチームにおける選手の移籍や所属している時間の長さ、役割に関連して起こるチームのまとまりの無さがあります。
練習へのサポートにおけるコーチのストレスの要因では、練習に対する不十分なサポート(金銭面や環境面など)やコーチとしての人間的な成長が挙げられます。
最後にプライベートな時間の削減は、コーチが多くの役割を担わなければならないことやオーバーワークになってしまうこと、睡眠不足や日常的な運動による健康被害といったことに対処しなければならないという葛藤に苛まれることが挙げられます。
コーチのストレスマネージメントに対する2つの戦略
コーチが最もストレスを抱える要因を絞り込むことができたら、次にストレスマネージメントに対する対策を立てる必要があります。
ストレスを軽減するための戦略については、コーチ自身が行う戦略と、組織単位で行う戦略の2つがあります。
これらの要因に対する対策としては、下記の通りです(USOCの文献参考)。
コミュニケーションに関する要因への対策
コーチ自身が行うべきコミュニケーションに関する要因への戦略は、親や選手の他に関わっている人たちと意見を共有しすり合わせることです。
組織単位で行うこととしては、問題としていることに対して、原因や理由を明確にすることです。
これらを行うことによって、コミュニケーションに関するストレスは軽減されます。
プレッシャーに関する要因への対策
コーチ自身が行うべきプレッシャーに関する要因への対策としては、現実的で目指せる範囲の目標を選手に設定してもらうことです。
組織単位で行うべき戦略としては、自分が行っている練習メニューに関するフィードバックとブラッシュアップを適切に行うことです。
この2つを行うことで、コーチ自身が抱える試合結果へのプレッシャーが低減されます。
アスリートの成長戦略に関する要因への対策
コーチ自身が行うべきアスリートの成長戦略に関する要因への対策として、チームの価値観を明らかにすることと、選手の行動を統一することです。
こうすることでチームの価値観を阻害しないための行動、チームとして統一された行動に反映されます。
組織単位で行うべきアスリートの成長戦略に関する対策は、効率的で早いレスポンスが自分より上に立つコーチへの報連相を効果的にします。
上記2つを行うことで、アスリートの成長戦略がうまくいくでしょう。
練習へのサポートに関する要因への対策
コーチ自身が行うべき対策としては、メンターとなる存在を見つけ、日常的に指導を受けることです。
チーム単位で行うべき対策としては、コーチが学びの場を設けることと、横のつながりを作ることです。
弊団体では、コーチ達の横のつながりを作るために、スポーツコーチング・ラボを定期的に開催してます。
興味があれば是非足を運んでみてください。
各イベント一覧:https://sports-coach.peatix.com/
プライベートな時間の削減に関する要因への対策
プライベートな時間の削減に関する要因への対策としては、コーチ自身が、主な活動だけではなく、日々の細かい活動もスケジュールに組み込んでおくことです。
例えば、歩く時間、ミーティングを行う時間、ストレングストレーニングに選手と一緒に参加する時間などです。
組織単位で行うべき対策としては、頻繁に一定の期間を設けてコーチ達が常にベストを尽くすために必要な方法を考えることです。
立てた戦略をチームの環境に適応させる

最終的な段階として、立てた戦略をチームの環境に適応させることです。
チームは生き物のような存在であるため、絶えず変化します。また組織における風土や文化もチームによって大きく異なります。
例えば、コミュニケーションに関する要因への対策として、チームに関わる人との意見を共有することは、もしかすると得策ではない場合もあります。
なぜならば、コーチの指導方法によっては、選手との人間関係がうまく築き上げられていないため、本来の意見を引き出せない場合も考えられるためです。
こうした場合には、自分自身の指導方法を見つめなおして、選手との人間関係を再構築する必要もあります。
こういったことを踏まえて戦略を考えてチームで実行することで、コーチとしてのストレスは軽減するでしょう。
まとめ
コーチ自身の幸せを考える上では、「コーチは選手の人間的成長を促す」という考え方がコーチとしての幸せを感じさせます。
コーチとしての幸せを感じることができないと、心理的健康被害やコーチのドロップアウトといったことがあります。
これは、アメリカだけではなく、日本のスポーツ指導の現場でも起きていることです。
この対策として、ストレスマネージメントが有効です。コーチとしての幸せを考える上でストレスマネージメントの戦略では3つの段階を踏みます。
1つは、ストレスに影響している要因を絞り込み最優先で対処すべきことを明らかにします。2つめの段階としては、絞り込んだ要因への戦略を立てます。
最終的な段階として、立てた戦略をチームの環境に適応させます。
こういったストレスマネージメントを行うことによって、コーチの心理的健康被害やドロップアウトを防ぎ、コーチとしての幸せにつながります。
本記事を参考にコーチ自身の幸せについて考えてみてはいかがでしょうか。
参考文献
1)TEAM USA「Quality Coaching Framework」
(2019年1月26日)
2)渋倉崇行(2013).高校運動部顧問の悩み事や負担の実態:ストレッサー尺度の開発に向けた予備的研究 人間生活学研究,4:91-99.
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創設以来、「勝つこと」と「ライフレッスン」のダブルゴールを目指すPCA メソッドの訓練を受けたコーチは、約75万人おり、2015 年度だけで8 万人のコーチがPCA コーチ法を学んでいます。また、これまでに北米約3500 の学校やスポーツクラブ、ユースプログラムに導入され、実際に参加した学生は860 万人を超え、アメリカの若者スポーツコーチの基準になりつつあります。
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バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
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数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)
殴る、はたく、蹴る、物でたたく
過剰な食事の強要、水や食事の制限
罰としての行き過ぎたトレーニング
罰としての短髪、坊主頭
上級生からの暴力·暴言
性虐待
暴言
暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
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