監督という経験で学んだこと
どの指導者も子どもに後悔をさせないように指導をしているが、まずはコーチである自分自身が後悔しない指導をすることが大切であると考えています。これは私の苦い経験から得た教訓でもあります。
全国大会での経験①初めての監督経験
指導3年目で監督というポジションを任され私は燃えていました。初年度は期待の一年生の入学で、初めてながら全国3位という実績を上げることができました。
もちろんかなりの練習量を行い、勝つつもりで試合に望んだが監督ながら全国で三位という結果には驚いきました。次の年は他の都道府県からも優勝ではないかという見方をされ、練習を方も十分に取り組んできたつもりでした。
しかし、期待を大きく下回り、結果は一回戦負けで、確実に私の責任であったと感じました。先を見つめ、上ばかりを見た結果足元をすくわれました。
初戦はアップのような形で試合に望んでしまったことが一回戦負けという結果を生んでしまったのです。この時猛烈に反省し、自分の指導体制を見直しました。
全国大会での経験②24時間のマネジメントを選手に伝える
3年生は受験勉強で練習時間は確実に減ってしまう中で、どうしたら中学3年間の空手に打ち込んできた彼らを後悔せずに試合ができるのか私は考えました。
その時「結果」よりも「後悔しない」ということに私の目標が変わり、日々の練習も試合も後から考えて「やってきてよかった」「空手をやっていてよかった」と思えるように指導体制を見直しました。
無駄を削り、短時間で圧倒的な結果を出す最善の方法を考えた結果、短時間で練習する分、疲労が残ることも考え以前はやっていなかったマッサージを子どもにも教え毎日おこないました。
後悔させないように一緒に温泉に行ったり、ご飯に行ったり、お守りを買ったり、試合用のお揃いのタオルを用意したりと心のケアも欠かさず行いました。練習時間ではない自然な会話をの中で私はコーチとして選手のメンタル面を強化しました。
少ない時間だからこそ、それぞれの選手が日々高速でPDCAを回し、24時間をマネジメントすることを伝え続けました。
全国大会での経験③重なるコーチと選手の体験
全国大会当日は、昨年とは全く異なる状態になっていました。試合のアップでも「後悔しない」ということを一人一人が考えていたため選手が緊張している姿をみることはありませんでした。
ただひたすらに「今最後の大会で全力を尽くす」という一見中学生らしい素直でありながら、中学生らしからぬ冷静さと熱い想いが見えました。
その時、私はこのような子どもたちを指導できたことを本当に誇らしく思い、試合前に泣きそうになってしまいました。
いつ負けても良いが、負ける気もしないというまさに私が中学三年生で優勝した時経験した時と似たような感覚だったなと、試合後に振り返った時にそう思いました。
全国大会での経験④ゾーン(理想的な心理状態)とコーチング
予選から圧倒的な存在感で会場を沸かせ決勝の時。私は選手を後悔させないように入場の位置やタイミング、ポイント、会場の雰囲気全てを分析していました。
後から他のコーチから言われたのだが「監督としても緊張するのに、決勝前に君の落ち着き具合は本当にすごいね。」と言われたほどでした。
私自身冷静なタイプではありませんが、今選手のためにやるべきことに集中しきっていたため、他から見るとそんな風に見えていたんだなと後からびっくりしたものです。
「ゾーン(理想的な心理状態)」に入るとは、選手だけが発揮するものではないのかもしれないとも思ったのはその時でした。
全国大会での経験⑤空手の経験を選手の人生に活かす
全国大会決勝戦では、応援していただいたたくさんの声援を受け、優勝することができました。私は優勝した時の圧倒的な開放感や清々しい気持ちを彼らにも経験させたいと考えていたため、優勝させることができて本当によかったです。
選手達は、他の人にはない全国で優勝という経験での気持ちを持っています。そんな気持ちを抱かせてくれた周りに感謝しなければならないと試合後に話をしました。
そして「この経験をどう活かすかを考えていく必要がある」とこれからも言い続けるのが監督の仕事でもあると私は考えています。
選手達は現在でも空手の稽古を続けており、そのうちの一人から「高校は語学を勉強し、支援金で留学に行きたい」という話を受けました。
その時に「なぜ空手をやるのかをしっかり整理しておくと良い」と私は話をしました。空手と留学とは一見完全な離れた世界のように思えるかもしれませんが、日本の武道である空手で日本一になった少年は海外でも評価をされると私は考えています。
私は現在監督というポジションは降りてしまっていますが、素晴らし感性を持った彼らにこれから助けてもらいながら今後はサポート側として選手と一緒に組織がより良くなるように切磋琢磨して人間性を高めていきたいと思っています。
河野翔一(こうのしょういち) 東京都出身。國學院大學卒業。 祖父の影響で小学校一年生から空手道を習い始める。全国中学生空手道選手権大会、全国高等学校空手道選抜大会の団体型の部で 優勝し、「教える」「教わる」という行為に無限の可能性があることを学ぶ。大学で教育について学びながら 出身の道場で「日本一のチームを作る」ことを目標に指導を始め、23 歳でその目標を達成。現在都内私立学校 で教員をやりながら、スポーツを通した人間としての成長を広める活動をしている。
河野翔一氏のその他の記事は下記を参考にしてみてください。
空手コーチとしてのコーチングへの想いと取り組み~河野翔一氏~
スポーツコーチ同士の学びの場『ダブル・ゴール・コーチングセッション』
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブではこれまで、長年スポーツコーチの学びの場を提供してきました。この中で、スポーツコーチ同士の対話が持つパワーを目の当たりにし、お互いに学び合うことの素晴らしさを経験しています。
答えの無いスポーツコーチの葛藤について、さまざまな対話を重ねながら現場に持ち帰るヒントを得られる場にしたいと考えています。
主なテーマとしては、子ども・選手の『勝利』と『人間的成長』の両立を目指したダブル・ゴール・コーチングをベースとしながら、さまざまな競技の指導者が集まり対話をしたいと考えています。
開催頻度は毎週開催しておりますので、ご興味がある方は下記ボタンから詳しい内容をチェックしてみてください。
ダブル・ゴール・コーチングに関する書籍
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブでは、子ども・選手の『勝利と人間的成長の両立』を目指したダブル・ゴールの実現に向けて日々活動しています。
このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。
このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。
エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』
序文 フィル・ジャクソン
第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの
第2章:ダブル・ゴール・コーチ®
第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング
第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット
第5章:スポーツ選手の感情タンク
第6章:感情タンク実践ツールキット
第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意
第8章:試合への敬意の実践ツールキット
第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)
第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する
本格版書籍『ダブル・ゴール・コーチ(東洋館出版社)』
元ラグビー日本代表主将、廣瀬俊朗氏絶賛! 。勝つことを目指しつつ、スポーツを通じて人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なことを教えるために、何をどうすればよいのかを解説する。全米で絶賛されたユーススポーツコーチングの教科書、待望の邦訳!
子どもの頃に始めたスポーツ。大好きだったその競技を、親やコーチの厳しい指導に嫌気がさして辞めてしまう子がいる。あまりにも勝利を優先させるコーチの指導は、ときとして子どもにその競技そのものを嫌いにさせてしまうことがある。それはあまりにも悲しい出来事だ。
一方で、コーチの指導法一つで、スポーツだけでなく人生においても大きな糧になる素晴らしい体験もできる。本書はスポーツのみならず、人生の勝者を育てるためにはどうすればいいのかを詳述した本である。
ユーススポーツにおける課題に関する書籍『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』
バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
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数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)
・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言
暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。
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