コーチング哲学を深めて選手の本質的な成長を促そう~スポーツコーチング・ラボvol.12~

11月28日に代々木で行われたスポーツコーチング・ラボvol.12のレポート記事です。今回は株式会社シェアトレの坂地航汰氏を招いて開催されました。

テーマは「哲学」で、コーチング哲学とはどのようなものかといったことから、コーチング哲学がなぜ必要か、深めるためにはどのような方法を取れば良いのかまで講義していただきました。

本記事では、これらの内容をまとめて報告します。

コーチング哲学は人生の旅のようなもの

コーチング哲学は人生の旅のようなものであると坂地氏は述べます。コーチング哲学は、人生を通して深める必要があります。なぜならば、哲学を深める作業には終わりがないためです。

この作業では、指導者としての在り方を深く追求することによって良いコーチングができるようになると坂地氏は強く主張します。

コーチングの在り方次第では、選手の育成が良くも悪くもなってしまうためです。

コーチング哲学の学術的な定義より自分自身の定義を考えよう

スポーツ指導者自身がそれぞれ哲学の定義を持つことが重要であると坂地氏は主張します。

なぜならば、スポーツ指導者が思うコーチング哲学があってこそコーチと選手の関わり方があるからです。

学術上のコーチング哲学の定義としては、「アスリートやチームの卓越性を向上させ、その卓越性を発揮させるコーチング実践においてさまざまな原理として目指される目的コーチに方向性を与える基本的方針、コーチによって設定される価値観についての包括的な言明」とあります。

学術的な哲学の定義はこれで間違いはありません。しかしながら、元ラグビー日本代表監督であったエディージョーンズは、「コーチング哲学とは旅のようなもの。コーチング哲学に絶対の答えはない。自分でコーチングを哲学する。」と述べています。

つまり、スポーツ指導者自身がコーチング哲学を磨いていく必要があるということです。

自分が目指すべきコーチング哲学を決めましょう

自分自身が目指すべきコーチング哲学を決めることが第一ステップであると坂地氏は述べます。なぜならば、脳科学で言えば、スコトーマ(心理的盲点)が存在するためです。

人は見たいものしか見えないというスコトーマをうまく利用しよう

人は見たいものしか見えないという現象はRAS(脳幹網様体賦活系)とスコトーマ(心理的盲点)で説明することができます。このRASとスコトーマをうまく利用することによって、コーチング哲学を更に深くすることにつながると坂地氏は述べます。

RASとは、過去の記憶から形成される「価値観」によって遮断される情報と受け入れる情報を分ける「フィルター」の役割を果たします。このフィルターによって遮断された情報のことをスコトーマといいます。

重要なこととしては、RASとスコトーマの作用によって人それぞれものの見方があるということです。

言い換えれば、人は見たいものの見方しかしないということであり、必ず心理的盲点があるということでもあります。

スポーツ指導者として求めるべき在り方は人それぞれ

コーチとして求めるべき在り方は人それぞれです。なぜならば、人それぞれ価値観やものの見方があるからです。

ここでいう在り方とは、Beingを指します。このBeingとは、自分は何者かというコンテクスト(枠組み・文脈)のことを意味し、個人の使命やゴールのことを表しています。

選手としての在り方の具体例を出すと松井秀喜選手の例が挙げられます。

ファンや子供たちに夢を与えられるような選手になりたいという個人の使命があり、そのために目指すのはチームが毎年ワールドチャンピオンになって自分がMVPに選ばれるような選手であることがゴールである述べられています。

ここで重要なことしては、世界のトップレベルを目指すケースと、そこまで高くないレベルを目指すケースにおいて、必要な要素の質が異なることです。

言い換えれば、人は自分が見たいものしか見ないが、見たいものを決めることはできるといえます。

スポーツ指導者としての在り方の例「ボトムアップ理論」

近年コーチング業界で注目されているボトムアップ理論は、スポーツ指導者としての在り方のひとつの例として挙げられます。

ボトムアップ理論では、選手が主体となってチームを作ります。このボトムアップ理論の底辺にスポーツ指導者自身を整理するということがあります。チームのためにどういう練習をしたらよいのかということよりも在り方に一貫性を持つことのほうが重要になるのがボトムアップ理論です。

スポーツ指導者のあり方に一貫性があると、チームの環境が安全・安心の場になります。チームの安全安心とは、自分を表現できるか否かということでGoogleの調査によると、生産性の高いチーム程、安全・安心の場があると報告されています。

つまり、選手自身の生産性や主体性を高めながら、自分自身を表現してもらえているかということが重要であるということです。

コーチング哲学を追及するには経験学習モデルを活用しましょう

コーチング哲学を深めるためには、経験学習モデルが役に立つと坂地氏は述べます。経験学モデルとはPDCAサイクルのようなもので下記のような手順を踏みます。

1.具体的な経験

2.経験の分析

3.経験の概念化

4.計画

この経験学習モデルでは、具体的な経験を行った後、経験をどのように捉えたのかという分析を行います。この分析結果を一言でまとめる作業によって、経験を概念化することができます。

最後に次にどのような経験を行うのかという計画を立てるといった一連の流れのことを経験学習モデルと言います。

自分自身のスポーツ指導者としてのあり方に一貫性を持つためには、経験学習モデルを毎日回す必要があると坂地氏は主張しています。

坂地氏自身は、「5年~10年といった目標を立てた上で朝に一日の計画を立てて経験をし、夜には、分析を行います。特に今まで感じたことの無い体験に重きを置いて分析を行います。」というやり方で経験学習モデルを回しています。

コーチングは人を本質的に成長させる対話

コーチングは人を本質的に成長させる対話です。ただし、コーチングは良くも悪くもなります。良いコーチングをするためにはスポーツ指導者のあり方が重要です。

坂地氏自身は、スポーツが本当に人を育てるのかどうかはいまだに疑問だと言います。むしろ人の可能性を小さくしたり勇気を削いでしまったりしているのではないかとも考えているようです。

なぜならば、スポーツを通じて人と比較されることが多いためです。人は、比較されることによって自分自身に劣等感が生まれてしまいます。だからこそ我慢できて忍耐力がついたりするわけですが、こうしたポジティブな変換ができない限りその人の可能性を削いでしまうこともあります。

だからこそ大切にすべき価値観として、「人の可能性を信じること」、「常にコーチング哲学を追及すること」、「自分の人生を信じること」があると坂地氏はセミナーを締めくくりました。

まとめ

コーチング哲学は人生の旅のようなものです。学術上の定義はありますが、自分なりの定義を持つことのほうが重要です。

そして、自分が目指すべきコーチング哲学を決めることによって、情報を適切に取捨選択することにつながりスポーツ指導者として求めるべき在り方に影響を及ぼします。

スポーツ指導者としての在り方・コーチング哲学を深めるためには、経験学習モデルを活用すると効率的にコーチング哲学を深めることができます。

コーチングは人を本質的に成長させる対話であるため、スポーツ指導者のコーチング哲学を深める作業こそ選手を本質的に成長させることにもつながります。

本記事を参考にスポーツ指導者としてのコーチング哲学を探す人生の旅に出てみてはいかがでしょうか。

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東海大学スポーツ教育センター 所長、東海大学男子バスケットボール部 監督。

新潟県立新井高校でバスケットボールを始め、日本体育大学卒業後、日本鋼管(NKK)へ。日本リーグ優勝やMVP獲得などの実績を残す。

日本代表には11年間在籍。主将も務めた。 引退後はアメリカにコーチ留学、2001年から東海大学に赴任。

2005年、06年、12年、13年、18年に全日本大学バスケットボール選手権大会を制覇。 現 在は、U22日本代表強化委員長並びに 全日本大学バスケットボール連盟強化部長 も兼務。

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ABOUTこの記事をかいた人

東海大学体育学部競技スポーツ学科卒(2015) 東海大学大学院体育学研究科修了(2017) 専門はスポーツ心理学で主にメンタルトレーニングの研究と実践に携わる 経歴は、大学生弓道部(5年)中学生野球部(2年) 大学生弓道部は全国ベスト8位3回 16位1回を経験 大学院修了後はフリーランスとしてウェブライター兼メンタルトレーニングアドバイザーとして活動