全国制覇をした経験のある河野氏にとっての空手指導者としての想いがあるのでしょうか。
本記事では河野翔一氏の空手指導者としての想いについてインタビューした内容をお送りします。
——どんなコーチを目指していますか?
自分でもどんなコーチになりたいかを整理しはじめているんですけど、なんで整理しはじめたのかということを考えていました。自分の中学校の時の恩師の影響がすごく強かったことに気づいてその人と出会って変わったことがあります。恩師には人としての大切さとか成長することが1番だよっていうことを教えていただいて。それを継続していった結果、競技としての結果につながったことが大きかったですね。
自分がどんなコーチなりたいかというと人の成長に寄り添えるというか。
個人的に空手を教えるというのは別に勉強教えることでも空手を教えることで一緒だと思っていて、空手はあくまでツールだと思っています。人間をしての成長を使用できるサポーターとしてありたいなとも思います。
——人の成長に寄り添うのがやりたいと思ったその他のきっかけはありますか?
自分が実践して自分が変わっただという思いが1番強いです。競技だけではなく私生活の中で勝つというところをツールだと考えると24時間の勝負になると思っています。1日24時間を勝ちに結びつける方法を考えていると無駄な時間を過ごさないように日々過ごすという自分自身の思考に変わりました。学校の授業もぼーっとしているぐらいだったら集中力を鍛えようと思ったりしたことが人の成長に関わりたいと思ったきっかけかもしれません。
勉強も空手を極めるツール
河野氏にとっては、勉強も空手を極めるツールであると説きます。このような考え方について聞いてみました。
——勉強もあくまで空手のツールというのはそう思ったきっかけはありますか?
高校までは空手第一で空手が一番大事だったのですが、大学に入って空手の現役選手をやめたときに、空手をやっていなくても人間的に成長している人や尊敬できる人は世の中にいっぱいいるなっていうことに大学の時に気づいて。そういう人の話を聞いていると、勉強の大変な話や学校の先生や塾の先生などの大人にかけてもらった言葉をきいていると、空手の経験と近しいところがありました。だから、どの道を選択するのかっていうのは自分の好きなことで良いと思っています。ただそこから(選んだ道から)学ぶことは、人間としての成長に通じるものがあるなぁと思っています。
——成長することが一番とおっしゃいましたが、どのように選手に教えていますか?
僕は負けても怒らないし、勝っても褒めないんです。例えば、小さい大会に出たときに、「今日どうだったか?」を聞いて選手に分析をしてもらうようにしています。選手が「調子が悪かった」といったら「なんで調子が悪かったの?」と聞きます。そうすると「自信がなかったです」といったりするので、「なんで自信がなかったの?」といったように問い詰めていきます。そうすると「誰かに何かを言われて」というように原因がでてきます。
このように、「なんで?」を突き詰めていくと、その選手の考え方が理論的になっていくと考えています。その思考は勉強でも仕事でも通じることがあると思っているので人としての成長につながり生きていく中で大切な力を学ばせたいという想いがあります。自分を振り返ると、将来使える空手にしたいというのはあるかもしれないです。
——どんなタイミングで聞くんですか?
僕は、最初のころは怒ったりもするんですけど、試合を見ていて選手は試合をしているわけじゃないですか。それで中学1年生の子とかって聞きに来ないんですよね。言われるの待ちで、そこは怒るかもしれないです。だって、「上手くなりたいんでしょ?」って。「誰に聞きに行ったの?」って。確かに僕には実力が足りなくて聞きに来なかったかもしれないけど、じゃあ「他の先生のところに聞きにいったか?」とか、「親のところいった?」とか、「他の友達のところに聞きにいった?」とか聞くと「聞いてないです」って言うんですよ。「じゃあ目標書いたのに、それ嘘じゃん。だって上手くなりたいんだったら聞くでしょ」って。それで選手自身が「自分で行動しなきゃいけないんだ。」と気づくところにつなげたいという想いはあります。
——指示を待つことはだめだよって教えるんですか?
そうですね。そこは怒るというか諭すというか。「え、だっておかしいよね普通に考えて」っていう感じで。
——あくまで感情は入れずに寄り添うってことですか?
そうですね。そうすると、「あ、確かに」みたいな。気づくので、子供たちってやっぱり。そうすると次の機会からこっちが「来なさい」っていわなくてもみんなが来るようになって。友達の中でも、「今日どうだった?」という会話が生まれ始めると、24時間を子供がマネジメントするってなったときに、一緒にご飯を食べているときでもそういう時間につながっていくので、競技としての結果にもつながっていくのかなと思っています。
——質問する文化を作るみたいな感じですか?
そうですね。どちらかといえば個人というよりはチームというのはすごく意識しています。できないことがある子もいれば、得意なことがある子もいるので、それをうまく調和させることが指導者の役割なのかなって思っています。
――すごく勉強になりますね。この流れができてくると子供達が自然と聞きに来るっていうことですよね?
そうなんですよね。だから怒る必要もないし。ただ、最初に必ず目標を立てさせています。どういうことをしたいのか?とか。これって勉強でも一緒だし、やりたいことに対して時間をどう使うか、週にどれくらい練習して、質はどのくらい必要でというのは書いてもらってから行動してもらいます。僕のコーチング論だと思うんですけど。
——すごく大切なことですよね。選手が疑問に思っていなくてもアドバイスしてあげたほうが良い時ってありますか?
ありますね。ただ、そこも選手自身で気づかせたいという想いがすごく強くて、確かに本当に気づけないことだったら言うときもあります。試合の前の時間がないときは。でも何か月も時間がある時は、ビデオを撮って上手い人と比較をして「何が違うのか?」を聞きます。そうすると「こことここがこう違います。」って言ってくるので「たしかにね、そうだよね」とか言ってくるときもありますし、その子だけで気づけない時もあるので何人かで集まって一緒に分析してみたりもします。そうすると、自分で「ここの動きってこうなっているんだ」となってくると、そのフォームを一生懸命学ぼうとして友達に「ビデオ撮って」ってなってきたりするんですよ。そしたら、他の選手も「じゃあ俺も撮って」ってなってくるようになると、また自分たちで会話が生まれ始めます。
——河野氏の思う人としての成長とは?
僕は人としての成長となってときに「自立」があると思っていて、指導者がいなくても勝てる選手にする。つまり、自分で時間を決めてどのくらい練習をするのか、どのくらいの質でするのかどんな練習をするのかっていうのを考えていける選手にするのが、コーチとしても楽なんですよね。それに彼らにとってもそれが一番いいんだろうなっていう。
それが競技としての結果を生み出すための近道だろうなと思っています。
ありがとうございます。ここまでは結構練習中の話が多かったかと思いますが、試合や私生活についてはどのような質問をするのでしょうか?
僕は事細かくはあまり言わないですね。「僕は信じているよ」という姿勢を前提として投げてしまっています。「その辺は自分たちでできると思うからね中学生だし」っていうと彼らもいい子たちが多いので割と勝手にやるかなと思います。ただそのためには自分が信頼される必要があるので、こっちがそれだけ指導に対して真剣に向き合っていることが伝わらないと選手の自立には結びつかないのかなと。
選手から信頼されるコーチであるために
河野氏は選手から信頼されるコーチであることが、選手の自立にもつながるため人としての成長になると述べます。具体的に選手から信頼されるコーチになるためにはどのようなことをすればよいのかを探ってみました。
——信頼されるために心がけていることはありますか?
割と練習時間外では素のままでいることですかね。格好悪い姿も見せるし、一発ギャグを一緒にやることもあります。時には選手からイジられることもありますし。この練習外での関わり方は、それこそ恩師だった先生がやってくれたような関わり方でもあります。
——練習中はどんな感じですか?
僕はそんなに意識しているつもりはないですが、子供達から聞くと怖いといわれることもあります。「何考えているのかよくわからない」と言われることもあります。選手はどこで怒られるか分からないから結構気が張っていますね。もちろん、選手がふざけていたら、指導者も保護者も怒るじゃないですか。僕の場合はそうじゃなくて、自分が練習できてない時に怒るというか、選手からしたらそういう時に言われるから「何考えているのかわからない」とか「ちょっと怖い」とか言われることはあります。
河野氏の練習に対する取り組み
——選手が練習できていないときは、どういう基準で判断されるんですか?
チーム内での声かけが全くない時ですかね。自分で「こういうメニューやろう」とか彼らが「こういう練習しよう」といって練習をしているだけになっている時、声掛けができていないときには何回も取り組ませます。そうすると選手が疲れてきてだれてしまうじゃないですか。そうすると選手がもう1回という回数をこなす思考になってくるんです。そうなるとすごく効率が悪いので、もう1回となったときは、「次に成功させるためにどうするのか?」を考えている状態に持っていきたいですね。その中で「俺はこうするから」とか「お前こうなんじゃないか」ということができていないときは、「なんでもう1回やれって言ったか分からないの?」という感じで言ったりはしますね。頭が使えていない練習とか自立できていない練習に対しては、たまに言ったりします。それ以外は結構自由にやらせていますね。
——量より質っていう感じなんですか?
そうですね。質は求めていますね。最初は量でやりますが、量でやっていても勝てないということに選手自身が気づいてくるんですよね。その時には、質からせめるようにしています。
——量から質に対して移行する判断はどのようにされているんですか?
僕はそもそも指導することを長期とか中期スパンで考えています。練習量を増やすとちょっと勝てるようになるんですよ。僕は中学生担当なんですけど、選手が小学校から上がってきてちょっと練習量を上げると勝てるようになるんです。けどそこから選手が壁にあたるんです。そうなった時に選手が「なんで勝てないんだろう?」ってなってくると、質に変わってくるんです。だから僕は、すぐに結果を出せるコーチではないんだなと思っています。短期的に結果を出す指導もあると思うんですけど、基本的には長期的に見ています。
——長期的とか中期的というのはどのくらいの期間なんですか?
基本的には中学1年生の選手をみているので、中学3年の全中(中学生の全国大会)できちんと結果を残せることがゴールかなとは思います。この中でどれくらい良い思いができるかということは、期間を考える上で自分の中にあるのかなと。
——この3年間でいい思いがあったほうが良いと思ったきっかけはありましたか?
僕自身がそうだったという実体験ですかね。実は、僕小学校の時めちゃくちゃ弱いというか、全然勝ったことなくて。だから選手にひとつずつ気づかせてあげたいなぁと思います。僕自身もそうだったので。小学校の時に基礎的なことができていて、ちゃんと成績を残せている選手だったら教え方もちょっと違うと思いますね。そういう子ってその部分基本的に自分でできている子が多いと思うので。小学校の時の先生の影響か、親の影響かちょっと分からないですけど。でも結局勝てなくなる子は勝てなくなるし、その部分に不足があるのでそれを補ってあげているかなと思っています。
――自分が経験した良い想いを選手にもしてほしいっていう感じですか?
そうですね。それで自分が一番変わったというか。そこがきっかけなんだろうなと思います。
河野翔一(こうのしょういち) 東京都出身。國學院大學卒業。 祖父の影響で小学校一年生から空手道を習い始める。全国中学生空手道選手権大会、全国高等学校空手道選抜大会の団体型の部で 優勝し、「教える」「教わる」という行為に無限の可能性があることを学ぶ。大学で教育について学びながら 出身の道場で「日本一のチームを作る」ことを目標に指導を始め、23 歳でその目標を達成。現在都内私立学校 で教員をやりながら、スポーツを通した人間としての成長を広める活動をしている。
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