スポーツでミスから学ぶ姿勢を身につけ子供が成長する方法

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「打って反省、打たれて感謝」

これは剣道で用いられている教えの1つで、「自分が打てた時こそ反省して次をさらに良くする努力をして、打たれた時は自分が直すべき部分を教えてもらえた機会と捉えて感謝しなさい」という意味が込められています。

このような教えに限らず、スポーツの世界ではミスから学んで成長する大切さを意味する言葉や教えが数多く使われています

しかし、頭では分かっていてもなかなかミスを受け入れて学びに繋げるのは簡単ではありません。

そこで今回は、ミスから学ぶ考え方を身につけるために必要なアイディアや方法をご紹介します

「失敗=悪い」という捉え方を変える

ミスは悪いという捉え方を変えることはとても大切です。なぜならば、人はどのようなことであっても、捉え方次第で良くも悪くもなるからです。

有名な例え話ですが、グラスに半分残った飲み物を見た時に、Aさんは「まだ半分ある」と答えたところ、Bさんは「もう半分しかない」と答えました。

見ている物は同じ物でも、それぞれが違った答え方をするのは、人によって捉え方(認知の仕方)が違うからです。

ミスに対しても同様で、ミスも捉え方によっては悪い事にもなり、いい事にもなり得ます。

スポーツの場面を例に取り上げると、打ったシュートが外れた時に「せっかくのチャンスを無駄にしてしまった」と捉える事も出来ますし、「今はボールの芯を捉えていなかったから、次に芯を捉えたらもっといいシュートが打てる」と捉える事も出来ます。

その場その時に気づいて一時的に捉え方を変える事は出来ますが、このような考え方を習慣化するには、一定期間取り組んでトレーニングする必要があります。

学習のメカニズム:パターンを認識して、繰り返し落とし込んで、身につける

Psychology of Learning for Instruction (2004) より

自分自身の捉え方を変えて自分の行動も変える方法として、教育心理学では、下記のinformation processing theory と呼ばれるモデルを用いています。

この教育心理学に基づくアプローチ方法では、どのように長期記憶(学習して行動が変わる)を得るかを説明しています。

この一連の流れを用いて結果思考からプロセス思考に切り替えていく過程を説明してみます。

まず、打ったシュートが外れた様子を目にしました(刺激)。結果思考の考え方のままですと、この時点ではシュートが外れた事に自然と目が向いてしまいます。そこで、注意を向けるポイントを意識的に変えます。

「シュートが外れた」という結果に向いていた注意を「ボールを蹴った時に芯を捉えていなかったから、次は芯を捉えるようにボールを蹴る」という自分のプレーに注意を向けるようにしました(注意)

その際に、パスミスをした時もボールの芯を捉え直して上手くいった事を思い出し、以前の経験と結びつきました(パターンの認識)

その結果、シュートミスした時にボールの芯に注意が向いて、次のシュート時には蹴るタイミングを変えるように意識しました(反応)

このように練習で繰り返しプロセスに注意を向けて、過去の経験と結びつけた事で、無意識にプロセスに注意が向くようになりました(コード化)。

後日、ドリブルで相手を抜けなかった時もドリブルミスではなく、次に抜く為に必要な事を考えられるようになっていました(検索、反応)。

このようなプロセスを経て、これまで結果ばかりに注意が向いていた状態から、プロセスに注意が向く事を習慣化する事が出来ます。

つまり、このようなプロセスを経ることで、自分自身の捉え方を変えて行動も変えることができるのです。

過去の経験と結びつけて、定期的に振り返る仕組みを作る?

この一連のプロセスで大事になってくるのが、いかにパターンとして認識出来るかと、一定量の反復です。

パターンを認識する為には、過去の経験や以前学んだ知識と結びつけるのが効果的です(van Kesteren et al., 2018)。

その為、過去に様々な種類のスポーツや運動経験を持っていたり幅広くいろんな知識を学んでいたりすると、パターンを認識しやすくなると考えられます。

上記を踏まえて、具体的な取り組みを紹介していきます。

1.      キーワードを使う

指導者であれば、過去の練習や試合内容と結びつけられるように説明する事で、選手が記憶の中に留めやすくなります。その際に、特定の場面を思い出しやすくするためのキーワードを使うのも効果的です。

このキーワードを繰り返し使ってプロセスに注意を引き戻す事で、徐々にプロセスに注意を向けやすくなります。

このキーワードは他者から言ってもらうのも効果的ですが、自分自身に語りかける(セルフトーク)も効果的です。

2. 定期的にプロセスを意識出来るシステムや環境を作る

定期的にプロセスに集中するキーワードを振り返る為には、ただ意識するだけだとどうしても忘れてしまうこともあります。

そこで、周りの環境を利用してキーワードを思い出すためのリマインダーを作るのが1つの方法です。

例えば、普段使っている道具にキーワードが書かれたポストイットを貼る、毎日行くロッカールームに大事なポイントをまとめたメモを貼り付けておくなど、頻繁に目にするような状況を作る事で忘れにくくします。

他には、毎月1回は自分たちの目標に対する取り組みについて振り返るミーティングを必ず作る方法も考えられます。チームの取り組みとして必ず月に1回は行うようにする事で、定期的にプロセスに目を向ける機会を作る事が出来ます。

3.練習日誌で取り組みを思い出し、イメージでリハーサルする

過去の取り組みを思い出す行為が学習効果を高めるメカニズムを利用して、毎回の練習後にその日の練習を振り返るようにします。

いくつかの練習場面を思い出して、その時に自分がどんな事に注意を向けていたかを振り返ってみます。

もしその時に結果ばかりに注意を向けていたとしたら、イメージの中で次の練習ではプロセスに注意を向けて次のアクションを起こしている自分をイメージします。

このイメージ内でのリハーサルを繰り返す事も長期記憶を作る上では効果が期待出来ます。

4.努力を実感して達成感を味わう

振り返りを通して改善点を直す事は大切ですが、実際に取り組めていたり努力出来ていたりした時はその取り組みを達成感として味わいましょう。

実際に準備していたりイメージしていた通りに自分がプロセスに注意を向けていたりした時は、それを続けていく意欲を持つ上でも出来た実感を得る事が重要です。

たとえ、小さな取り組みでも、成功体験として実感する事で自己効力感(特定の場面に対する自信)を高める事に繋がります(Zimmerman, 2000)。

また、立てた目標に対しては成長度や達成度で評価する事も効果的です。振り返る基準が結果から取り組みに変わり、プロセスに注意を向けやすくなり達成感や成功体験を味わいやすくなります。

まとめ

ミスから学ぶ事の重要性は理解していても、実際に言葉通りにミスを受け止めて学ぶ事は難しいものです。

その際たる原因はミスを悪い物と捉えてしまう考え方にある事が多いので、結果に注意が向いてしまう結果思考から自分の取り組みや努力に注意が向くプロセス思考への転換する事が必要です。

プロセス思考の考え方を習慣化するには、取り入れる情報を過去の経験や身近な内容に結びつけつつ、継続してプロセスに注意を向けるための取り組みをしていくのが効果的です。

このような取り組みを通して指導者がプロセス思考に変わる事で、自身の行動や発言が変わり、その影響を受けた選手も自然とプロセス思考を身につける事が出来ます。

態度は時に言葉よりも説得力を持ちます。プロセス思考を身につけて、選手をプロセス思考に導きましょう。

参考文献

Driscoll, M. P. (2004). Psychology of learning for instruction. Allyn & Bacon.

van Kesteren, M. T. R., Krabbendam, L., & Meeter, M. (2018). Integrating educational knowledge: reactivation of prior knowledge during educational learning enhances memory integration. npj Science of Learning3(1), 1-8.

Zimmerman, B. J. (2000). Self-efficacy: An essential motive to learn. Contemporary educational psychology25(1), 82-91.

スポーツコーチ同士の学びの場『ダブル・ゴール・コーチングセッション』

NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブではこれまで、長年スポーツコーチの学びの場を提供してきました。この中で、スポーツコーチ同士の対話が持つパワーを目の当たりにし、お互いに学び合うことの素晴らしさを経験しています。

答えの無いスポーツコーチの葛藤について、さまざまな対話を重ねながら現場に持ち帰るヒントを得られる場にしたいと考えています。

主なテーマとしては、子ども・選手の『勝利』と『人間的成長』の両立を目指したダブル・ゴール・コーチングをベースとしながら、さまざまな競技の指導者が集まり対話をしたいと考えています。

開催頻度は毎週開催しておりますので、ご興味がある方は下記ボタンから詳しい内容をチェックしてみてください。

ダブル・ゴール・コーチングに関する書籍

NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブでは、子ども・選手の『勝利と人間的成長の両立』を目指したダブル・ゴールの実現に向けて日々活動しています。

このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。

このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。

エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』

序文 フィル・ジャクソン

第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの

第2章:ダブル・ゴール・コーチ®

第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング

第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット

第5章:スポーツ選手の感情タンク

第6章:感情タンク実践ツールキット

第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意

第8章:試合への敬意の実践ツールキット

第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)

第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する

本格版書籍『ダブル・ゴール・コーチ(東洋館出版社)』

元ラグビー日本代表主将、廣瀬俊朗氏絶賛! 。勝つことを目指しつつ、スポーツを通じて人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なことを教えるために、何をどうすればよいのかを解説する。全米で絶賛されたユーススポーツコーチングの教科書、待望の邦訳!

子どもの頃に始めたスポーツ。大好きだったその競技を、親やコーチの厳しい指導に嫌気がさして辞めてしまう子がいる。あまりにも勝利を優先させるコーチの指導は、ときとして子どもにその競技そのものを嫌いにさせてしまうことがある。それはあまりにも悲しい出来事だ。

一方で、コーチの指導法一つで、スポーツだけでなく人生においても大きな糧になる素晴らしい体験もできる。本書はスポーツのみならず、人生の勝者を育てるためにはどうすればいいのかを詳述した本である。

ユーススポーツにおける課題に関する書籍『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』

バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
ーーーーー
数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)

・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言

暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。

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略歴 2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究している。学術的な理論や研究内容に基づいた実践方法を用いて、日本・アメリカのスポーツ選手に対して実力発揮のメンタルスキルの指導とスポーツスキル上達のサポートも積極的に行なっている。