スポーツにおいて親の関わり方はとても大切です。なぜならば、親の関わり方次第で子供のスポーツ経験は良くも悪くもなってしまうからです。
子供にスポーツをさせている親であれば、子供にとって良い経験になるということを望んでいる方は多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、スポーツ心理学に基づいた、子供のスポーツにおける親の影響について解説します。
スポーツにおける親の影響
スポーツをする子供にとって、親の与える影響はとても大きいです。スポーツをする子供の時間を、試合・練習・日常生活という3つの時間に分けた時に、コーチやトレーナーといったスポーツチームに関係する人は、試合と練習にしか携わりません。
しかし、親は子供にとって最も時間の長い日常生活を過ごすことが多く、関わり方次第で子供のスポーツ経験に良くも悪くも影響を与えます。
例えば、Donna L Merkel 1) の調査では、子供のスポーツ経験におけるポジティブなこととネガティブなことについて下記の図のように子供の体・心理的・社会的な影響があることが報告されています。
子供スポーツにおけるポジティブな身体的影響 | 子供スポーツにおけるネガティブな身体的影響 |
身体活動が多くなる | 怪我をする |
身体能力が高まる | 安全性と危険性の矛盾がある |
子供の人生において身体的・感情的に健康になる | スポーツ科学に基づかないやり方 |
肥満のリスクを下げる | |
生活習慣病のリスクを下げる | |
運動学習能力が高まる |
子供スポーツにおけるポジティブな心理的影響 | 子供スポーツにおけるネガティブな心理的影響 |
うつの低減 | 優秀な選手になる目標がストレスを増加させる |
自殺願望の低下 | 人間関係の摩擦 |
健康を害する行動の減少 | 勝利至上主義 |
10代に求められる良い行動の増加 | 選手としてのキャリアに対する過度な期待 |
基本的な身体動作の習得 | |
自己概念と自己価値の向上 |
子供スポーツにおけるポジティブな社会的影響 | 子供スポーツにおけるネガティブな社会的影響 |
ソーシャルスキルが向上する | 危険な道具・場所の利用 |
ライフレッスンの提供 | 費用がかかる |
社会的な行動が増える | 社会的・性的・地域的偏りがでてしまう |
タイムマネジメントスキルが高くなる | |
勉強の成績が高くなる | |
想いと目標を育む | |
個性を育む |
このように、子供がスポーツをすること自体には、ネガティブな側面とポジティブな側面であることがいえます。では、スポーツをする子供に対する親の影響にはどのようなものがあるのでしょうか。
スポーツをする子供に対する親の影響は大きい
スポーツをする子供に対する親の影響は大きいです。なぜならば、子供のスポーツ場面を試合・練習・日常生活の3つの場面に分けた時に、コーチやトレーナーなどよりも子供と一緒に過ごす時間が長いのは親だからです。
つまり、親の関わり方次第で子供のスポーツ経験はよくも悪くもなります。では実際にスポーツをしている子供にどのように関わればよいのでしょうか。
藤後他 2) によれば、親が子供に対して過度なプレッシャーを与えないように楽しさを伝えることで、子供がスポーツを楽しく感じることが報告されています。
子供のスポーツへの楽しさは、パフォーマンスにも影響を与えていてテニスプレーヤーを対象とした調査 3) も行われています。
この調査では、親が子供のスポーツをサポートする行動と子供のスポーツへの楽しさが関係していることが明らかにされています。
つまり、子供がスポーツを楽しめるような関わり方を、親がすることで子供のスポーツパフォーマンスすら高めることができるのです。
では実際に子供にとってスポーツが楽しいものになり、良い影響を与えるためには具体的にどんな関わり方をすれば良いのでしょうか。
スポーツで親が子供に良い影響を与えるための3つのポイント
スポーツで子供にとって良い影響を与えるためには、親の行動がとても大切です。なぜならば、親としての行動1つで、子供にとってスポーツ経験が良くも悪くもなるからです。
下記では、スポーツで親が子供に良い影響を与えるための3つのポイントを紹介します。
親自身が行動を変える
親自身が行動を変えて、より良い関わり方をすることは子供にとって良い影響を与えます。どうしても親だと子供のできないことに目が向きがちです。
しかし子供ができなかったりうまくいかないのは、ある意味親のかかわり方が問題の場合もあります。例えば、子供が試合から帰ってきたとき、練習から帰ってきたとき、どのようなコミュニケーションをとっているでしょうか?
よくありがちなのは、親として練習や試合を見ていた時に「アレはだめだった、これはダメだった」という指摘ばかりのコミュニケーションになってしまうことです。
特に親自身がやっていた競技を子供にさせているときには、よく起こります。こういった指摘はもちろん子供にとってプラスに働くこともありますが、子供は親に褒めてもらいたいし頑張った姿を見てほしいのです。
下記では、親として具体的にどのようなかかわり方をしたら子供のスポーツ経験に良い影響を及ぼせるのかについて解説します。
子供のした結果ではなくプロセスに着目してあげる
親として、子供のプレーした結果に対してフィードバックするよりも過程の部分に着目してフィードバックしたほうが、子供が楽しみを感じやすく結果的にパフォーマンスも高くなります。
試合においての勝ち負けは、子供が直接コントロールできることではありません。子供がいくら勝ちたいと思っていても、相手が強かったら負けてしまう可能性は高いでしょう。
しかし、子供がプレーに集中し高いパフォーマンスを発揮したらどうでしょうか。自分の持ちうる最大限のパフォーマンスを出したほうが結果的に勝つ可能性は高くなります。
子供にとって最大限のパフォーマンスを出せるために親としてできることは、日常場面から子供自身の努力や行動といった子供の力だけでも変えることができることに着目してあげることなのです。
プレーがうまくいかなくても、子供が全力でやったとしたら「ナイスプレー!!」という言葉をかけてあげてもよいでしょう。
子供がうまくいかなかったことに対して、練習が終わった後の時間で練習していたら、「頑張ってるね!いい調子だよ!」といった声かけをしてもよいかもしれません。
子供のしたプロセスを褒めてあげる
プロセスに着目して褒めてあげることは、子供のスポーツ経験だけではなく子供の成長にも関わるほどです。
よく褒めて伸ばすということを耳にしますが、単に子供のことを褒めればよいというわけではありません。子供が実際にやった行動を褒めてあげることがとても大切です。
よく「子供を褒めるとつけあがる」という大人がいることも多いですが、試合の勝ち負け・勉強の成績といった、子供がコントロールできないことに対して褒めてしまうと、子供はたしかにつけあがります。
しかし、子供が努力したことや頑張ったことなどを褒めてあげると、子供はもっと努力をしたり頑張りたい気持ちになるので、結果的にスポーツがうまくなったり、学校の成績もあがるのです。
例えば、子供が自主練をしているときに、「自主練習をしているなんてすごいね!これからどんな選手になるのか楽しみだよ!」といった言葉がけをされたときに、自分が子供だったらどう思うでしょうか?
スポーツに限らず、子供が勉強をしているときに親として「勉強にすごく集中していてすごいね!勉強にこれだけ集中できていれば、どんなことをしても集中できるね!」といった言葉をかけたらどうでしょうか?
このように、子供のプロセスの部分を具体的に褒めてあげることで、子供は両親に褒めてもらうことがうれしくなり、もっと努力をするようになります。
次第にうまくなることにも喜びを感じ始め、子供から大人になったときでも自然と努力ができる子供を育てることができるのです。
褒めることの注意点としては、うわべだけの言葉になってしまわないことです。うわべだけの言葉になってしまうと、子供はすぐに見抜きます。
結果的に親と子供の信頼関係を崩してしまうこともあるので、正しいやり方で褒めてあげることがとても大切なのです。
結果をもたらすための選手の努力を促すダブル・ゴール・コーチング
スポーツをする子供へ良い影響を与えると子供の人生が変わる
スポーツをする子供へ良い影響を与えると、子供の人生そのものがかわります。なぜならば、スポーツは人生の縮図であり、世の中で経験する大半のことを経験できるからです。
例えば、子供にとってスポーツがうまくなることは、勉強ができるようになることや社会人としてスキルを身に着けることと根本的なことは同じだからです。
根本的なことは、自分ができることを最大限行うことや、時間をマネジメントすること、失敗を恐れずチャレンジすることや、失敗したときにはそこから学んで次に活かすといったことです。
また、自分で目標を立てて、目標に対して努力することなども、人生において大切なことでもあります。
まとめ
ユーススポーツにおいて、親の影響は子供の一生を左右するといっても過言ではありません。スポーツをする子供に対して、親として良い影響を与えるためには、3つのポイントがあります。
まず、親自身が自分の行動を振り返って、行動をより良くすることです。特に、子供に対して声をかけるときは、結果よりもプロセスに着目してあげることはとても大切です。
プロセスに着目した時に、子供が頑張った時には、シンプルに褒めてあげましょう。結果を褒めるのではなく、プロセスを褒めてあげることで、子供は自分が努力することに注目し始めるため結果的に良い成果を残すのです。
これらを通して、子供が頑張る習慣を身につけることができれば、子供は成長します。子供が成長すれば、子供自身も楽しみを覚えます。
結果的に人生において努力することに楽しみを感じるように育つのです。本記事を参考にして、スポーツをする子供に対する関わり方の引き出しにしてもらえると幸いです。
参考文献
- Donna L Merkel (2013). Youth sport: positive and negative impact on young athletes Journal of Sports Medicine, 4: 151-160.
- 藤後悦子,川田裕次郎,井梅由美子,大橋恵(2017).小学生の地域スポーツに関わる親のスポーツ・ペアレンティング コミュニティ心理学研究,21(1):80-95.
- Rick H. Hoyle and Stephen S. Leff (1997). The role of parental involvement in youth sport participation and performance Adolescence, 32 (125) :233- 243.
スポーツコーチ同士の学びの場『ダブル・ゴール・コーチングセッション』
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブではこれまで、長年スポーツコーチの学びの場を提供してきました。この中で、スポーツコーチ同士の対話が持つパワーを目の当たりにし、お互いに学び合うことの素晴らしさを経験しています。
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このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。
このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。
エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』
序文 フィル・ジャクソン
第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの
第2章:ダブル・ゴール・コーチ®
第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング
第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット
第5章:スポーツ選手の感情タンク
第6章:感情タンク実践ツールキット
第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意
第8章:試合への敬意の実践ツールキット
第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)
第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する
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バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
ーーーーー
数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)
・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言
暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。
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