ROOTSを体現し子どもたちの成長を育む~美馬グランツの全国大会出場と石塚賞受賞までの軌跡~

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美馬ジュニアラグビーアカデミーは、徳島県ラグビーフットボール協会・普及事業の一つとして立ち上げられた小学生と中学生を対象としたラグビー教室です。2020年に総合型地域スポーツクラブ(あなぶきスポーツクラブ)と連携し活動をスタート。

2023年には、タグラグビーのチーム活動として美馬グランツを創設。チーム立ち上げからわずか2年で2025年2月23日(日)と24日(月)に開催された「SMBCカップ第21回全国小学生タグラグビー大会 全国大会」に出場を果たしました。

ここでは、美馬グランツが全国大会に出場することになった取り組みとチームへの想いについて代表の村岡陽平氏を取材しました。

ラグビー文化を広める美馬グランツのはじまり

青野(あお)

最初に、タグラグビーを立ち上げた時に、どのような課題感や思いがあったのでしょうか?

 

村岡氏

ありがとうございます。もともとは中学のラグビーを徳島県に普及させたいという思いがありました。大学卒業をしたころに神奈川で川合レオさんが取り組んでいるラグビーパークアカデミーを見学してすごく刺激を受けました。

徳島でもそういう学校やチームの枠組みを超えたラグビー文化を広げられたらと思ったのがスタートでした。

 

青野(あお)

現在はアカデミーとチーム活動の両方をされているんですか?

 

村岡氏

そうですね。2020年に総合型地域スポーツクラブの中に「美馬ジュニアラグビーアカデミー」という小学生部門の活動を立ち上げてからがスタートでした。アrカデミーは今でも金曜日の夜に継続して活動しています。ラグビーをしている子がそんなにいないので、運動教室みたいな感じですね。

チーム活動をしている美馬グランツのメンバーもいるし、全然チーム活動には参加しないけどという子もいて、みんな混ざって週1回遊んでます(笑)。

 

青野(あお)

それはすごく進んだ取り組みですね。私も大田区でまさに同じことをやり始めました。タグラグビー教室をやりつつ、週に1回または2回の放課後ラグビーを織り交ぜながら広めようという取り組みです。本当になるほどなと思いました。

 

村岡氏

よかったです。シンパシーを感じます。出会うべくして出会ったという感じですね。

 

ダブル・ゴール・コーチングとの出会いと実践

青野(あお)

ダブル・ゴール・コーチングにはどのタイミングで出会ったんですか?

 

村岡氏

ダブル・ゴール・コーチ(東洋館出版)』をラグビー元日本代表の廣瀬さんが紹介されていて、この本絶対いいと思って買ったんです。2年くらい温めていましたが、チーム活動を始めた時のバイブルとして読んでいました。

もともとラグビー界が勝利至上主義に寄っている感覚もあって。勝利することも大事だなと思うんですけど、それだけじゃないと感じていた時期でした。

 

青野(あお)

本を読まれていたと思いますが、実際にダブル・ゴール・コーチングセッションに参加されて感じたことや気づきはありましたか?

 

村岡氏

本で読んでいることはなんとなく自分なりにアカデミーでチャレンジしていましたが、実践編を聞いてさらに深まりました。特にROOTSは今でもチームのコンセプトにさせていただいていて、チームの根底に置くべきことがクリアになった気がします。

ダブル・ゴール・コーチングの書籍を読んでいるときは、どちらかというとハウツーとして使っていたものから、ダブル・ゴール・コーチングセッションに参加したことで、より実践的になった気がしています。

 

青野(あお)

チームでROOTSを大事にしたいと思ったのはなぜですか?

 

村岡氏

一番は社会を切り開く力というか。私は教員なのでそう思うのかもしれませんが、諦めちゃうというか、能力とか結果で判断されがちなところがあると感じています。

ROOTSでいうリスペクトの精神というのは社会を切り開く力に結びつくと思います。僕もラグビーを通じたリーダー育成に結び付けていきたいという思いがあったので。

参考記事:スポーツ・インテグリティとは?選手としての高潔さや品位な人の資質を高めるために

 

チーム文化を育む美馬グランツの具体的な取り組み

青野(あお)

毎週の練習の中で意識的に取り入れているプログラムはありますか?

 

村岡氏

プログラム自体は愛知県の「日進レッドブラックス(SAM Sports and Culture Club)」というチームを参考にしています。

短い時間でプログラム内容を多く回すという実践方法です。その中でROOTSを体現するチーム文化を目指して取り組んでいるのが「ありがとうカード」と「リスペクトカード」です。子どもたちがお互いの良いところを見つけて渡すという活動を1年間やり続けました。

 

青野(あお)

毎回の練習でですか?すごいですね!それをやったことによる変化はありましたか?

 

村岡氏

子どもたちもカードをもらえなかったら悔しいという気持ちがあります。それもあってか子どもたちの変化でいえば、お互いをリスペクトすることをすごく大事にしてくれています。

チーム内での部内マッチ「グランツカップ」をときどき開催するんですが、子どもたちが「勝とうが負けようがリスペクトがなかったら面白くなかった」と言ってくれるようになりました。

たとえ試合に勝ったとしても「今日の大会は全然面白くなかった。リスペクトがなかったから。だからもう1回自分たちのリスペクトにチャレンジさせてくれ」と言ってきたりして。相手への敬意がないと良いゲームにならないということを理解してくれています。

 

青野(あお)

去年と今年で結果が出たという意味で、何か違いや積み上げはありましたか?

 

村岡氏

今年意識して取り組んだことは、とにかくROOTS。ダブル・ゴール・コーチングセッションの実践編でROOTSをチームに根付かせるのはそんなに簡単じゃないと感じていたので、「繰り返し言い続けることが大事」というアドバイスをもとに、繰り返しROOTSを伝え続けました。

また、成長マインドセットで能力や結果ではなく、経験と努力を重視することをナチュラルに伝えるように意識しました。チームの文化づくりにも力を入れ、「自分だけがハッピーじゃなくてみんながハッピー」という考え方を大切にしています。

保護者との共有も大事だと思い、保護者会でダブル・ゴール・コーチングの理念を伝えました。「スポーツを通じて子ども達に伝えたい人生の教訓」として、目標を持って全力で努力すること、すべてのことから学び続けることや失敗を恐れないことの大切さを保護者達にも理解してもらった上で「Mistakes are OK」の考え方も共有しました。

 

美馬グランツの全国大会出場への道のりと石塚賞受賞

青野(あお)

美馬グランツが全国大会に出場された経緯を教えていただけますか?

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村岡氏

美馬グランツを立ち上げて1年目は徳島県予選で3位に入って四国大会に進出し、惜しくも1点差で敗れました。子どもたちが「リベンジしたい」という思いで2年目に挑戦し、徳島県予選を優勝しました。県予選には35チーム496名が参加して、全国で2番目に参加率の高い大会だったんです。

さらに四国大会でも優勝してダブル優勝を達成し、全国大会に出場しました。全国大会では1勝1分3敗で、他の出場チームのレベルが高いことを実感しましたが、光栄なことに石塚賞というスポーツマンシップ賞をいただきました。

 

青野(あお)

全国大会出場後の子どもたちの様子はどうでしたか?

 

村岡氏

粛々と淡々としていた感じがありますね。協賛企業や寄付いただいた方へのお礼回りでは「自分たちが全国でベストを尽くせたのは皆さんのおかげです」と大人っぽく言っていました。多少は当たり前ではないという認識はありつつも、浮かれてはいない印象でした。

 

後藤(GTO)

チームカルチャーにこだわりを持っている印象を受けますが、その想いはどこにあるのでしょうか?

 

村岡氏

自分自身が高校でラグビーを始めた時は、格闘技のような感覚でとにかく相手を痛めつけるスポーツだという認識でした。でも大学のラグビー部に入って監督が文化的な部分も大事にするチームだったということもあって「ラグビーってこんなスポーツなんだ」と感じたんです。

それが今も影響していて、自分たちでしっかり文化を作っていきたいという思いがあります。関わる人たちが幸せで、保護者も子どもたちも嬉しそうな、そんな文化にしたいんです。

参考記事:ダブル・ゴール・コーチング セミナーvol.2『チーム文化の創造』レポート

美馬グランツのチーム文化とユーススポーツの未来

青野(あお)

今後の課題についてはどのようにお考えですか?

 

村岡氏

今回結果が出たことで、勝利至上主義に傾く可能性を感じました。だからこそ、ダブル・ゴール・コーチングをやってよかったと感じています。

スポーツなので勝利を目指しながらも過程を大切にプレーヤーの成長をサポートしていけるようにダブル・ゴール・コーチングをより深く学んでいきたいと思います。そして、チーム文化をさらに良いものに育てていきたいと思っています。

もう一つの課題は、子どもたちの自立的な意思決定能力を育てることです。今回は自分がリードしすぎた部分もあったので、子どもたち自身が判断して決断できるようになり、それを後押しできる関係性を作っていきたいです。

 

後藤(GTO)

タグラグビーを通じて育った子どもたちに、将来どうなってほしいと思われますか?

 

村岡氏

子どもたちにはナイスガイ、ナイスガールになってほしいです。引っ張るリーダーというより、他者に気遣いができる、それぞれの場所で一隅を照らせる人になってほしいと思っています。

米津玄師さんが「次の百年は誰一人取り残されない世の中になりますように」と言っていましたが、ダブル・ゴール・コーチングがその手立てになればいいなと思っています。

 

青野(あお)

最後に感想を述べさせてください。同じラガーマンとして、ラグビーやダブル・ゴールの文化を広めたいと思っている身としては、徳島で同じように活動されている方がいることが、とても力強いエナジーになりました。

 

後藤(GTO)

組織文化づくりに関わる者として、リスペクトの精神や他者への敬意を大切にする文化が、スポーツの場だけでなく、会社や社会全体に広がってくれたら嬉しいなと思いました。

 

村岡氏

ありがとうございます。これからもROOTSの概念を大切に、子どもたちとともに成長していきたいと思います。

 

美馬ジュニアラグビーアカデミー代表
村岡 陽平(むらおか ようへい)

小学校教員。脇町高校でラグビーをはじめる。ポジションはフランカー。鳴門教育大学・保健体育科コースに進学後、運動生理学ゼミで安全で効果的な運動処方のあり方について学ぶ。2012年から脇町ラグビースクールでコーチを始める。2014年日本ラグビーフットボール協会が主催する「放課後ラグビープログラム」への参加をきっかけに小・中学生を対象とした平日ラグビー教室を開始。2020年から「美馬ジュニアラグビーアカデミー」を創設し、ラグビーを通じてチームスポーツの魅力や価値の発信にチャレンジしている。

参考記事:ラグビー日本対アイルランド戦に学ぶ!尊敬の心がもたらすパワー

参考記事:子どものミライをともにつくる組織運営~流山GREAT HAWKSの取り組み前編~

 

スポーツコーチ同士の学びの場『ダブル・ゴール・コーチングセッション』

NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブではこれまで、長年スポーツコーチの学びの場を提供してきました。この中で、スポーツコーチ同士の対話が持つパワーを目の当たりにし、お互いに学び合うことの素晴らしさを経験しています。

答えの無いスポーツコーチの葛藤について、さまざまな対話を重ねながら現場に持ち帰るヒントを得られる場にしたいと考えています。

主なテーマとしては、子ども・選手の『勝利』と『人間的成長』の両立を目指したダブル・ゴール・コーチングをベースとしながら、さまざまな競技の指導者が集まり対話をしたいと考えています。

開催頻度は毎週開催しておりますので、ご興味がある方は下記ボタンから詳しい内容をチェックしてみてください。

ダブル・ゴール・コーチングに関する書籍

NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブでは、子ども・選手の『勝利と人間的成長の両立』を目指したダブル・ゴールの実現に向けて日々活動しています。

このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。

このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。

エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』

序文 フィル・ジャクソン

第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの

第2章:ダブル・ゴール・コーチ®

第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング

第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット

第5章:スポーツ選手の感情タンク

第6章:感情タンク実践ツールキット

第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意

第8章:試合への敬意の実践ツールキット

第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)

第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する

本格版書籍『ダブル・ゴール・コーチ(東洋館出版社)』

元ラグビー日本代表主将、廣瀬俊朗氏絶賛! 。勝つことを目指しつつ、スポーツを通じて人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なことを教えるために、何をどうすればよいのかを解説する。全米で絶賛されたユーススポーツコーチングの教科書、待望の邦訳!

子どもの頃に始めたスポーツ。大好きだったその競技を、親やコーチの厳しい指導に嫌気がさして辞めてしまう子がいる。あまりにも勝利を優先させるコーチの指導は、ときとして子どもにその競技そのものを嫌いにさせてしまうことがある。それはあまりにも悲しい出来事だ。

一方で、コーチの指導法一つで、スポーツだけでなく人生においても大きな糧になる素晴らしい体験もできる。本書はスポーツのみならず、人生の勝者を育てるためにはどうすればいいのかを詳述した本である。

ユーススポーツにおける課題に関する書籍『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』

バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
ーーーーー
数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)

・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言

暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。

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