東京都の中学校で国語の教鞭をとる青野祥人さん。中学生に勉強を教える傍ら、サッカー部顧問としてスポーツコーチングも実践しています。そのスポーツ指導でとにかく大切にしていることは、子どものやる気です。
子どものやる気がうちがからあふれ出すような環境を作り、大人の想像を超えた成長する姿にこだわりをもつ青野さん。そんな青野さんの想いと取り組みについて語ってもらいました。
子どもたち自身の内から気持ちが湧き出るような環境を作りたい
――青野コーチが指導するにあたって、どのようなことを目指していますか?
子どもたちが僕の想像を超えて成長する姿を見たい。僕の想像を超えた成長をさせてあげたいことです。
――なるほど。そう思った経緯やきっかけはありますか?
僕がラグビーのコーチを始めたときは、自分の経験とか受けてきたコーチングを元にやってたんですね。それでもある程度強くなることができたんですけど、それ以上になるチームってあんまりなくて。
そんな時合宿中だと思うんですが、やる気を感じられないみたいになったことがあったんです。それで監督と相談して「もう僕はコーチングしない」って言って4日間ぐらい本当に、ただそこにいて見てるだけにしたんです。監督も何も手出ししないで。
そしたらラグビーで言えば、花園に出てる常連校みたいなところに勝っちゃったんですよ。その内容も今までにないぐらい会心の一撃というか、すばらしい出来で15人全員全力を出しきっているという状態だったんですね。
それを見たときに「僕が同じ4日間、コーチングしていたらたぶん勝てなかった」って思ったんです。
つまり、コーチングで一番大事なのは、僕自身がどうとかじゃなくて子どもたちが成長して、子どもたちが自分で何かを獲得する方が絶対いいなということを知ったというか。
自分たちで考えて自分たちでやりきって自分たちで勝利を掴んだ時が一番いいし、僕も一番見てて感動したんですよ。「こいつらすごいな」って。ただ見てただけなのに、泣けてきて(笑)
その時に「今回のようにコーチングしないっていう荒療治じゃない方法で子どもたち自身がそういう力を発揮できるようなチームにしたいな」って思うようになりました。
これはかなり大きな経験でしたね。
――そう思ってから実際に今までの経験主義的なところから脱却するために、青野さんが実践したことをお伺いしてもいいでしょうか?
僕の中高時代は監督がいたんですけど、基本的には生徒が自分たちでやるようなチームだったので、誰かから「こうやれ、ああやれ」と言われるのはもともと好きじゃなかったんです。
だから自分がコーチをするときも質問を投げかけるとか、チームトークを子どもたちだけでやってみるとか。そういうのはやっていました。
でもどこかで「コーチだから」とか「監督だから」みたいな感覚があったと思うんですよ。こちらが求めている「答えが明確」な質問をして、答えられないとダメみたいな。どこかで押さえつけるというか。
ラグビーというスポーツの特性上、なんだかんだ「気持ち」みたいなところは絶対あるから、そういうところを伝えてたんですけど、彼ら自身から気持ちが湧き出てくるにはどうすればいいか。
出させるんじゃなくて、彼らから出てくるにはどうすればいいかとか。そういう思考というか、彼ら自身から湧き出てこないのはこっちに責任があるって思って、コーチとしての自責の念がどんどん強くなっていった気がします。
「気合が入らねーのは、おめーらが悪いからだ」じゃなくて、こっちのアプローチが悪いんだっていうマインドに変わっていった気がします。
――コーチとして青野さんが選手と関わっているなかで「この選手すごい内から湧き出てるな」みたいなのを感じるタイミングはあるんですか?
そこまでに持っていけたことは、まだないかもしれないですね。
でも、僕の中の考えが変わってからは想像以上の結果を残してくれたことは何回かあって、それって結果的に湧き出るものがあったってことなのかなと思います。前の考えのままだと、やっぱり想像通りまでしかいかなかっただろうし。
おかげで、最初は「このぐらいはいくだろうな」と思ってたチームが、結果的に「うわ、そこまでいったわ」みたいになったのは、多くなったかもしれないです。
一緒に戦う仲間を大切にする気持ちを育む
――青野コーチの想像よりも上までいったチームは、どのようなチームでしたか?
結果的に、自分で考えて、自分たちで試合中もコミュニケーションを取って、臨機応変に対応できる。
もっと言うと、何か思うところがあれば僕らコーチに対しても意見してくるっていうチームでしたね。
――コーチが選手から意見されたとき「何だお前ら」みたいになったりはしないのでしょうか?
僕自身がサラリーマンやってるときも、結構上の人にも物を言う人だったので(笑)。だからむしろコーチである僕にもっと言ってきていいっていう感覚ではありました。あまり嫌な気持ちにはならないですね。
――それなら生徒さんも言いやすい雰囲気がありそうですね!ちなみに今、チームに対して内から湧き出るために取り組んでいることはあるんでしょうか?
ちょっと難しいですけど、まず、僕もともとラグビーのコーチをやってから教員になって、今サッカー部の顧問をしてるんです。要は、他競技のマネジメント役になったわけで。そこがもうひとつ大きなきっかけとしてはあって。
専門競技のスキルは教えられないという前提でいくと、彼ら自身の力に頼らなきゃいけないので、そこをいかに引き出すかに焦点を当てるわけです。
そうすると、彼ら同士のミーティングを仕掛けたり、今はリーダー4人制にして、リーダーグループみたいなのを作って彼らとコミュニケーションをするとか、試合前のミーティングも彼ら自身だけでやらせたりとか。
そういうのを、かなり取り入れています。
――リーダー4人制でのミーティングって、うまくいかない時はありませんか?
リーダーを複数にしてみた結果、4人の中の誰かに頼るんですよね。4人の中での役割が分散するので、成長した子もいれば、思ったほど伸びてこないっていう子も出てくるというのはあります。
――なるほど。でも、うまくいかない時でも選手に、そこは握らせておいてって感じなんですね。
僕の根底にあるのはチームスポーツで、監督と彼ら、あるいはコーチと彼ら、っていう関係性よりも大事にして欲しいのが、一緒にグランドで戦う仲間なんです。そっちの方が大事だから。
たとえばリーダーがうまくいっていない時も「その状態で君たちと一緒に戦っている人たちはどう思うんだろうね」とか「俺に謝るとかそういうのじゃなくて、どう思う?」っていうのを4人で話し合わせるとか、2年生同士だけで集めてそこを考えさせたりとか。
そういうのは、かなりやりますね。これはどうなのかな?仲間はどう思うんだろう?そのやり方で仲間は君たちを信頼するのかな?みたいなことを自分で考えさせるようなスタンスにしていますね。
――その「一緒に戦う仲間を大事にする」という考えに至った経緯をお聞かせいただけますか?
僕自身、ラグビーをやっていたというのは一番大きいですね。特にラグビーは自分が逃げたら誰かが痛くなるんで(笑)そんなスポーツを一緒にやっていたメンバーって、やっぱり一生付き合える「仲間」になるんです。
そういう「仲間」を1人でも多く得て欲しいと思ったら、やっぱり「仲間」を大事にしてほしいなと。個人的に、「友達」と「仲間」は違うと考えていて、スポーツを通じてできるものって「仲間」のほうじゃないかなと考えているんです。
同じ目的に向かって利害関係抜きにして切磋琢磨する。でも、ぶつかりもする。そんな時間を過ごしながらできてくる関係は「仲間」なんじゃないかなと。
一生懸命やり切った上にある楽しさを感じて欲しい
――青野さんにとって、試合で大事なことは何だと思いますか?
楽しむことですね。
――楽しむこと。具体的には?
楽しむことって、何だろうな。表現難しいですけど、全力で一生懸命やりきって、それが楽しいんだという感覚を感じてほしいというか。そういうふうになっていってほしい、と思っています。
そしてそれが自然に湧き出てくるような状態にできたらいいなと思います。
――なんかこう全力で、本当に一生懸命やるからこそ楽しいって思える感覚を持ってもらうってことですかね。
そうですね。なんか、ギリギリの勝負の世界とかあるじゃないですか。それも楽しいというか、そういう感覚になってほしいですね。
大人は子どもに任せる勇気を持つことが大切
――コロナ禍の運動会の概要についてお話しいただいてもいいですか?
やり方としてはまず、学年別で3日間に分けます。3日目が3年生なので、ここだけは1~2年生も途中から参加して、一部の競技を一緒にやる。で、最後は全体で表彰式して締める。という流れになっています。それがまず全体の流れです。
種目は、個人のみでやる徒競走の類は、時間もかかるのでやっていないです。だから団体種目を基本として、選抜種目というのがまず何種類か。これはつまりクラスの中から選抜された人のみでやるもので、もうひとつは全員でやるものですね。
種目数としては、選抜の方が多かったです。従来だと運動神経がいい子が出てくるのが選抜なんですけど、今回はそうじゃなくて運動神経があろうがなかろうが楽しめるものも作りました。
1人2種目出場とかっていうルールを決めて「どっちか必ず出ようぜ」みたいなのも作ったから、リアルに運動神経いい子だけが出るのと分けたってことですね。
――その辺りの種目の選定みたいなところは、実行委員会の生徒たちと一緒にやったということなんですね。
全員が参加できるようにっていうことですね。
一応、得点を争う形式にはなっていたから、個人の1位と、学年別の1位と、全体の1位とを決めました。行進とかも当然なし。入場とかはあるけど、退場って言ったら走って帰るみたいなレベル感ですね。
――コロナ禍で実施した運動会は、どんなコンセプトで最初考えていたのでしょうか?
前提条件として運動会をやろう、と決まりました。それから学年別ってことも決まりました。いつもだったら1日で全部やるんですけど、曜日を分けてやらなければならないってことになってて。
ここまでは決定事項としてあったんです。あとは種目。種目も、接触が少ないものを前提とされたので、今までと同じではできないから変えなきゃいけない。
その状態で、我々教員に委ねられた感じなんです。そうなったときに、極端なこと言うと、ゼロから話し合うことになったわけで。これは僕の心の中での声ですけど、「1から大人が考えるのめんどくせえ」と思ったというのがひとつ(笑)
今までどおりのやり方に近いものをやろうとすると、いろんなルールとかいろんな制約をどんどん作らなきゃいけないんで、面倒くさい。もう、こっちもいいチャンスだと思って、僕は「子どもたちに聞けばいいんじゃないんですか」っていう提案をしました。
そうなると、体育科の人たちが中心になるので、体育科の先生たちも「そうだね」って考えていただき、動き出したって感じですね。
――具体的にどういうふうに子どもたちに意見を聞いていったんですか?
プロセスとしては、基本、体育祭の実行委員という子が出てくるので、(実行委員の子)から、まず聞きました。さっき言った制約条件を伝えたうえで、体育祭の実行委員から夏休み中にアイデアを募集したんです。
「何でもいいから考えてきてね」って。Googleのサービスを使ってたので、それで答えてもいいし、休みが明けたときに紙に書いて持ってきてもいいしっていうことにして。
それを今度、全校生徒にアンケート形式で投げて候補を絞り、プラスアルファでアイデアがあれば書いてもらうみたいな感じです。そこからまた戻ってきたものを、実行委員会で考えて絞っていきました。
まず種目が絞られた段階で細かいルール決めをしなきゃいけないから、実行委員の中でパートを分けて、Aというグループはこの種目のルールを考える。Bグループはこの種目みたいな感じで。
一応、先生も入って決めていったという感じですね。
――なるほど。そこまでほぼ、生徒主体みたいな感じですね。
基本、そうですね。「いいじゃんいいじゃん」って。そんなノリです。
――さっき「1から考えるのは難しい」みたいなことをおっしゃっていましたが、それ以外にも青野さんのコーチングに対する思いや、子どもが想像を超えた成長をさせたいみたいなところにもつながると思ったのですがいかがでしょうか。
僕は、ずっと中高と子どもである自分たちが主体で動かすというのをさせてもらった人だったので、公立中学校に赴任したときに、かなり違和感があって、前へならえが当たり前だったのとか、めんどくせと思っちゃったんです。
その経験の中で校則で靴下がどうの、カーディガンがどうのとかいちいち言うのが煩わしかったという経験もあります。そうした経験から「もっと子どもたちにやらせていいでしょ」っていうのは、ずっとあったんですね。
そのほうが絶対子どもたち自身が成長できたっていう実感も僕の中にあったので、だからもっと子どもたちにやらせたほうがいいじゃんってずーっと思ってたし、今も思ってるんです。
だから運動会の時は「チャンスが来た」と思いましたね。
――先生としての立場やコーチとしての立場もあると思うんですけど、生徒とか選手が自主的にとか、主体的に取り組むことの良さみたいなところって、なんだと思いますか?
子どもたちにとってというのでいくと、成長を自分で実感できるってことですね。『自分でやった感』って言えばいいんですかね。コーチングの視点で言うと、さっきと一緒なんですけど、コーチである僕自信がイメージしない姿に彼らがなっていく。
自分が全部やったとしたら、たぶん自分がイメージする成長しかしないだろうし。そういうとこじゃないかなって、思ってる部分があります。そうするとこっちもなんか、楽しくなるっていうかワクワクしますしね。
――実際に体育祭が終わった後、生徒からはどんな声が出ましたか?
一番多かったのは、「今までより楽しかった」っていう声が多かったですね。笑いの絶えない運動会でした。特に、運動嫌いな子たちからすると、「私たちも楽しめた」っていうのが多かったです。
もちろん、もともとある「団結感を感じた」とか「一体感を感じられた」とか、そういうのもあったんですけど、印象的だったのは僕はそういう意見でしたね。
自分の感じていたことが間違っていなかったという確認ができた
――最後にもうひとつ、スポーツコーチング・イニチアチブに参加していただいた9月から11月までのスポーツコーチング・キャンプについての感想をぜひお聞かせください。
僕個人としては、もともとそういう思いはあったんですけど、自分の指導の現場で「おや、そうじゃないんじゃないかこの人?」っていう考え方の人と一緒にいたんです
それで僕のなかでも迷っていた時期に、参加させていただいたんですよ。
良かった点は2つあって。
自分が感じていたことや考えていたことはやっぱり合っている、って言うんですかね。
やっぱりそういう方向を目指すべきだっていうのを改めて感じたのがひとつ。
もうひとつはあの考え方を知ってちゃんと学んだ結果、「おや?」って思っていた人も一挙手一投足を見ていると、意外とそれにちゃんとハマってることに気づけたというところです。
今までは、「ん?」って思っていたのも、「あれ、ちょっと待てよ。この体系で考えると、あの人意外と考えてるな」とか「この方向で来てるな」っていうことが見えてきて、すごい距離感が縮まったというか。
だから「じゃあ足りていないところは俺がやろう」とか、そういう、僕の中での役割分担じゃないですけど、2人でみんなを見ているわけだから、みんながもっと良くなるためには、こういうのをやったほうがいいかなっていうのが、明確になってきたという感じです。
二項対立じゃなくて、足りないところを考えることというか、考え方っていうのがきっとあるから、ちゃんとそこに「足りる・足りない」が自分のなかでも見えてきて。
足りないところや足りないなと感じたところ、僕ができていないところはやってくれているんだなって、それがすごい見えてきた感があります。
――なるほど。お互いのチームワークというか。が、生まれたみたいな感じなんですか。
そうですね。チームワークが良くなってきた、みたいな感じはすごいありました。向こうにそんな話をしているわけではないし、そんなことはしてないですけど(笑)
自分のなかではそれがすごい、見えてきた感じがありますね。
――ありがとうございます。ちなみに、今後もうちょっとこういうことがあったらうれしいなといったことはありますか? スポーツコーチング・キャンプ以外でも。
そうだなぁ。僕、サッカー部の顧問になって、得られたところは多いなと思っていて。
他競技に学ぶみたいな話もいろんなところで出てきたんですけど、リアルにそれを人材の交流っていうか、もっとできるようになったら面白そうだなっていう気はしますね。
――多種目の指導者同士で、人材の交流ができたらっていうことでしょうか?
そうですね。仲良くなるとか、話をするとかっていうのは今だったら、セミナーとかもそうだし、この間も夜、clubhouseで話を聞いたりしましたしね。
こういう形なら全国でもできてきてるなって思います。他には実際に、自分が違う競技でコーチングを体感してみるとかも面白いかも。
僕はたまたまサッカー部の顧問になったからできましたけど、なかなかこういう経験ってないじゃないですか。
一定期間2人ペアになって一緒に伴走してやってみたり、じゃあ一定期間交換してやってみよかうとかね。
それが子どもたちにとって良いことかどうかは分からないけど(笑)なんかそういうチャレンジがあったら面白そうだなという気はします。
プロフィール
青野 祥人(あおの よしと) 東京都中学校教員4年目。 中学サッカー部顧問。母校高校ラグビー部コーチ。 大学在学中に中学/高校の社会科教員免許取得。卒業後、中学/高校の国語科教員免許を取得する為に他大学3年次編入し卒業。大学在学中は体育会ラグビー部所属。 教員の道には進まずに、富士ゼロックス(株)に入社。13年間超大手企業の担当営業を担う。ラグビー部にも所属し、選手を経てコーチとしてもラグビー部に携わる。 37歳で東京都教員採用試験を受験し合格。2017年4月より都内の中学校にて国語科教諭となる。
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