「スポーツを仕事に」するためにMBAへ
――現在はスポーツクラウドの社長でありながら、現場でも指導をされている
普段は陸上のコーチを、毎日2~3時間くらい、平均して2~3件程やっています。
行っているのはサッカーチームや野球チームなど、また個人に対しても教えています。陸上選手だけではなく、「スピードを上げること」を目的として様々な競技の選手に指導しているという形です。
――スポーツクラウドを創業したキッカケはなんだったのですか?
最初は選手としてのキャリアがあって、でもスポーツってお金になっていないなと感じていました。なかなかスポーツが仕事になっていない現状がある。スポーツで仕事をしたいと思っている人はたくさんいるのに、極端に言えばメーカーや選手として雇用されるかしかないですよね。
でも、選手は広告塔として使われる一方で、広告塔としての価値を提供できているかと言うと、できていない。企業の支援活動としてしか採用されていない。つまり、言ってしまえば価値の等価交換が出来ていないんです。だから景気が悪くなったり、企業の業績悪くなったりすると選手は切られてしまう。
スポーツをやっている人たちが価値を提供していないからそうなっているわけで、それは選手だからとかではなくて、スポーツで仕事をしていきたいのであれば、スポーツで培ったことを価値に変えていく仕組みを作らなければダメなわけです。
だから一橋のMBAに入って本気で大好きなスポーツを仕事にする方法を模索しようと思ったわけです。そして、在学中に始めたのが出張走指導専門のランニングコネクションでした。
今のスポーツ界はどこもかしこも縦割りで、陸上の先生は陸上しか教えない、みたいなケースがほとんどです。例えば、陸上の先生がサッカーの選手を教えたらどうなるだろう、とか。そうすると案外市場価値が生まれるんじゃないかな、と。
結局、喜んでくれる人が居るところに価値は生まれます。だから業界、スポーツを越えた「横断型」を目指してやってみようと思って、とりあえず飛び込みで始めて、そうしたらすごく喜ばれたんです。
「いろいろ本など読んで勉強していたけど、やっぱ専門家は全然違うね…もっと早く知りたかったし、これは広めていかないといけない」とサッカーや野球関係者の方に言ってもらえました。
それがランニングコネクションであり、スポーツクラウドの出発点でもありました。
――スポーツクラウドを始める前に、このような事業が生まれたんですね。
ただランニングコネクションだけだと、あくまで数人のインパクトしか生み出せない。でも、自分の経験が自分の競技以外の方にも貢献出来て、そこに価値が生まれてお金が生まれるということが分かった。
そこを更に大きくするためにはどうするか、ということでITと掛け合わせて、自分が持ってきた知識をより幅広く広めるために「スポーツクラウド」というメディアを作りました。もっと多くの人に、アスリートの知識やノウハウが共有されていく中で価値が生れると思いました。
始めたら思った以上に跳ねて、ファンがどんどん増えていって、一緒にやりたいという人も増えて、仲間も出来てきた。きっとこの先にスポーツを仕事にするという新しい形が待っているのだろうな、と感じています。
少なくともなんとなくお金をもらうのではなく、スポーツ現場に価値を提供することでお金をもらえている。その結果、「スポーツやってきた人たちはやっぱすごいな」と知ってもらい、それが共通理解となった先にスポーツが仕事になる未来が待っていると思っています。
「肩書」だけでない価値を広めたい
――今のスポーツ市場の現状はどのようなものなのでしょうか?
今は、その人のパーソナリティーではなく、成績による「肩書」でしか商売が回っていない仕組みになっているので、健全ではないと思います。「肩書」は一生続くわけではないし、本当にスポーツを頑張ってきた人でも「肩書」を語れるのは一部でしかない。
じゃあその一部の人だけしか仕事が出来ないかというと、実際スポーツで頑張りたいという人がこんなにいるんですから…。起こっているのは「肩書」を持っていなくても優れたノウハウを持った人の考えが届いていない、提供できていないだけなんじゃないか、ということです。
だから「肩書」に頼らず、もっと頑張ろうとしている人たちに、自分たちが何が出来るかを逃げずに考えようと伝えています。
――スポーツにおける価値を持っている人たちが、もっと発信できればいいということですね。
少なくとも、僕が陸上選手の時に強くなりたいと思ったときに、強い選手の情報をお金で購入していた。それが主流でした。つまり、見えにくいようでそういう市場はあるんだなと。
でもそれを主体的に発信していく人も組織もない。
そうしたら誰がやるか?という問題になって、それだったら選手側が情報を伝えていくようなことが出来ればなと思いました。
「怪我をしない」ための新たな取り組み
――今は怪我予防という少し今までとは毛色の違うものをやろうとしているとお聞きしました
「怪我予防フィジカルチェック」ですね。
千葉県にある松戸整形外科のスタッフの方との出会いがきっかけでした。
彼らが中心に「スポ・ラボ」という活動をやっていて、「現場に活きるような活動」それも「スポーツ現場の怪我予防」に貢献したいという想いで活動しているんです。
病院は「怪我をした人が来るところ」ですが、スポーツの現場にいる人にとっては「怪我をしない」方が大事です。そういうところに携わりたい人たちが「スポ・ラボ」の活動をやっています。
自分自身、選手の立場から価値を提供したいという想いの傍ら、強くなりたいという人たちに、何かしら価値を提供していきたいというのがあって。
その価値はコーチングでも情報でも、それこそ怪我を予防するための方法や手段でも良かった。一貫して思っていることは、本気で強くなりたいと思っている人たちに対して価値を提供していくということです。
スポーツ・クラウドも、整体や医療関係者と組んだりして段々と大きくなってきていて、手の届く分野が広がってきて、その中で、松戸整形のスタッフとの出会いがあった。
だから、「怪我予防フィジカルチェック」を始めました。
20個のチェックテストを行っていただき、それぞれの部位の柔軟性や安定性、うまく使えているかどうかを測定し、怪我の発生確率を算出するというものです。
これを通して身体をチェックするという 文化を広めていきたいなと思っています。
荒川 優
元100m選手で、ニュージーランド大会銀メダリスト。 引退後は一橋大学大学院で経営を学び、日本では数少ないスポーツ選手のMBAホルダーとなる。スポーツ✖経営によって、スポーツクラウドの代表取締役社長となりFacebookのファンは42000人超。 現在はプロ走コーチとして、日本全国で活躍。「日本で最も多くの足を速くしたコーチ」としても有名。オリンピック選手をはじめとしたトップ選手や、Jリーグ・プロ野球選手・ラグビー日本代表など競技を越えて数多くのアスリートを指導している。
スポーツの価値に関する記事は下記の記事もあります。参考にしてみてください。
新連載「ジュニアスポーツについて考える」~スポーツ・ハラスメントとは~
なぜ勝利至上主義が問題なのか?〜スポーツ心理学の観点からメカニズムの説明〜
スポーツ・インテグリティとは?選手としての高潔さや品位な人の資質を高めるために
スポーツコーチ同士の学びの場『ダブル・ゴール・コーチングセッション』
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブではこれまで、長年スポーツコーチの学びの場を提供してきました。この中で、スポーツコーチ同士の対話が持つパワーを目の当たりにし、お互いに学び合うことの素晴らしさを経験しています。
答えの無いスポーツコーチの葛藤について、さまざまな対話を重ねながら現場に持ち帰るヒントを得られる場にしたいと考えています。
主なテーマとしては、子ども・選手の『勝利』と『人間的成長』の両立を目指したダブル・ゴール・コーチングをベースとしながら、さまざまな競技の指導者が集まり対話をしたいと考えています。
開催頻度は毎週開催しておりますので、ご興味がある方は下記ボタンから詳しい内容をチェックしてみてください。
ダブル・ゴール・コーチングに関する書籍
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブでは、子ども・選手の『勝利と人間的成長の両立』を目指したダブル・ゴールの実現に向けて日々活動しています。
このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。
このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。
エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』
序文 フィル・ジャクソン
第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの
第2章:ダブル・ゴール・コーチ®
第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング
第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット
第5章:スポーツ選手の感情タンク
第6章:感情タンク実践ツールキット
第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意
第8章:試合への敬意の実践ツールキット
第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)
第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する
本格版書籍『ダブル・ゴール・コーチ(東洋館出版社)』
元ラグビー日本代表主将、廣瀬俊朗氏絶賛! 。勝つことを目指しつつ、スポーツを通じて人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なことを教えるために、何をどうすればよいのかを解説する。全米で絶賛されたユーススポーツコーチングの教科書、待望の邦訳!
子どもの頃に始めたスポーツ。大好きだったその競技を、親やコーチの厳しい指導に嫌気がさして辞めてしまう子がいる。あまりにも勝利を優先させるコーチの指導は、ときとして子どもにその競技そのものを嫌いにさせてしまうことがある。それはあまりにも悲しい出来事だ。
一方で、コーチの指導法一つで、スポーツだけでなく人生においても大きな糧になる素晴らしい体験もできる。本書はスポーツのみならず、人生の勝者を育てるためにはどうすればいいのかを詳述した本である。
ユーススポーツにおける課題に関する書籍『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』
バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
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数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)
・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言
暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。
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