前編では、変化の激しい時代においてリーダー像が変化していることや、「人をどのように動かすか」という、教育の本質について議論がなされました。(前編はこちら)
後編では、「教える人」に議論はフォーカスしていきます。
「教える人」はどのように学ぶのか、「教える人」をどのように育てるのか…
そして最後には、各界でご活躍されているお三方の原動力が語られました。
教える人が学ぶ。教える人を育てる。
高濱:興味深い研究があります。私たちの研究によると、親自身がわからない事を自分自身で調べる頻度と、その家庭の子どもの成績の相関を調べてみると、見事に正比例の関係になるのです。
つまり、親が学ぶという習慣が子どもの学力に一番影響を与えているということが言えます。これはもうコーチングそのものですよね。
コーチ本人が伸び続けているときしか、受けている本人も成長しないということです。
ノーベル賞の先生に講義してもらっても、その先生が昔の記憶を語っているうちは全く面白くない。でも「今はね、こういう面白いものがあるんだよね」と、躍動した言葉で言われると、皆ついて行きますよね。
「コーチが伸び続ける」というのは、今日のキーワードだと思います。
中竹:まさに今仰っていただいたように、我々スポーツコーチングJapanも「コーチが変わればスポーツが変わる」という理念を掲げています。
ではそのコーチを変えるのは誰か、それが「コーチディベロッパー」です。
早稲田大学ラグビー部の監督就任時点で、私は指導者経験がゼロでした。教えたことのない人間が監督になってしまって。誰にも聞けないし、やり方もわからない。選手の方が断然詳しい状態の中、選手にバカにされてしまう。当時は指導しながらも「果たして誰に聞けばいいのだろう?」と悶々としていました。
なので「コーチディベロッパー」が増えればコーチはもっと伸びると確信しています。そしてそれはラグビーだけでなく、スポーツ全体に広がるべき。2019年、2020年(※)でより増えると期待しています。
コーチは「教える専門家」ですが、「学びの専門家」と言われると、そうとは言い切れない。
学ぶ時に邪魔になるのが「プライド、恥」です。そもそも学ぶことイコール「僕、これ知りません」という前提ですよね。つまりキャリアのある人ほど「教えてください」と言えないし、聞きづらいものです。
私自身の例になりますが、今イングランドで大活躍しているエディー・ジョーンズという名監督と、4年もの間、一緒に仕事をさせてもらいました。
彼の何が凄かったか、一言で言うと、彼は一番の「学び手」だったのです。
彼自身、学ばない人がとても嫌いで。打ち合わせのオープニングでは必ず「最近面白い情報あったか」と聞かれます。
僕は「最近何を学んだ?」と常に聞かれるわけです。それに応えるべく私自身も常に情報収集という学びを続けていました。
エディーの凄いところは、自ら行動し学び続けている点。敗戦試合の対戦チームのコーチからも話を聞き学びにつなげている。それだけでなく競技を越境し、水泳・サッカーなどラグビーと全く関係ない競技のコーチにも、予定さえ合えばとにかく会いに行き話を聞いていました。
これはまさに、親が「分からない時に調べる」という行為と全く同じ。その結果、彼は今、確実にトップランナーになっています。
(※)2019年:ラグビーワールドカップ2019日本大会開催 / 2020年:東京オリンピック開催
岡島:ビジネスの世界も、良い経営者、良いリーダーには若手のブレーンがいることが多いです。若手、つまりデジタルネイティブから学ぶことを意識的に実行しています。私も若手経営者から、LINEのハートマークが古いと注意受けたりします。今の流行はこのハートマークです、みたいな。(会場笑)
良いリーダーは自分とは違う視点をもらう技術・環境を意識していると感じます。
教える人って、怒られることないでしょ?自分が叱られることってまずないと思います。
その環境は成功体験の罠(負のループ)に入ることになる、実はこの状態、社長と全く同じなのです。誰も叱ってくれない。なので私みたいな人に叱られるのですが(笑)
中竹:みんな叱られたいから岡島さんのところに行くのですね(笑)
岡島:そう(笑)。叱られて泣くこともあります(笑)でも、こういった違う領域の人からの叱咤でハッとさせられる経験が大事と思います。
「好き」「楽しい」が原動力
中竹:私の個人的な興味ですが、お二方は業界の中でトップにいながらも、どうして学び続けていられるのでしょうか?
岡島:私はとにかく新しいことが好きなのです。常に自分が先端にいたいという欲求が強いですね。
イノベーションは、なるべく遠いものと遠いものを掛け算することで創出されると言われています。私もオーケストラの指揮者や15歳の起業家と話をしたりして。一見、全然違う領域でも本質は同じだったりする経験を通じて日々学ばせてもらっています。
高濱:自分自身の知識がストレッチしたなぁという感覚が欲しいですね。
実は教育が知識のストレッチそのもので。「このやり方でやりなさい」と言われてただやっている人はダメで、なぜそれをやらなきゃいけないか、と考えることが大事なのです。
「自分が心からやりたいと思ってやっていること」が一番面白いと気づいたら、誰かに教えてもらわなくても伸びる、そう考えると、自分は楽しいから学び続けているのだと思います。
中竹:岡島さんから「好き」、高濱先生からは「楽しい」という言葉が出ました。
これはもう本能ですよね。理屈で「こうしなければならない」と考えるのではなく、まさに本能です。
岡島:そうじゃないと続かないですよね!
中竹:そうなのです。
ですが実際、コーチは「こうすべき」という理屈でコーチングするじゃないですか。ここで大きな違いが出てくると思うのです。
実は一昨年、期間限定でラグビー日本代表のヘッドコーチ代行に就任しました。普通ミーティングでは「今日の練習こうしよう」といった話をするのでしょうが、私は、最初のミーティングで全員に「どんなプレーが好きか」とにかくそれだけを語ってくれと話しました。
岡島・高濱:いいですね~!
中竹:そうしたら、その日チームの一体感が変わったのです。
例えば、ガンガン相手を抜く選手が「実はタックルや守る方が好きなんです」と話すわけです。キャラと違うじゃないか、みたいな(笑)でもそれを話すことで、チームメイトはその選手がタックルするチャンスが来たら「いけ!!」とサポートし、タックルが決まったら「やった!」と一緒に喜び合うことができる。
なので私自身、チーム作りをするうえで「好き嫌い」はかなり重視します。
高濱:教育論の基本は「どうやって好きにさせるか」。それはひいきもしないといけない、ということ。
「平等に教える」というのは一見もっともらしいが、実は誰も伸びない。
では伸びるのはどういう時か、それは伸びる可能性のある生徒にスポットライトが当たった時。「お前すげーな!」みたいな。
私は小学生時代、本当に憶病な人間だったのですが、6年生の時の担任の先生が「お前はちょっと違う」と言うわけです。「学校の勉強簡単だろう?」と言われ「はい!」と答えると「ふざけんじゃねぇ!」と言われて(会場笑)。何かと言うと「上には上がいる、全国を見据えて学校の勉強以上のことを自習して持ってこい!」となるのです。
そうしたら自習するじゃないですか(会場笑)。それで持って行くと先生は「よし!」というだけ(笑)。だけど凄く勉強しました。一生で一番勉強しましたよ。
面白かったのは、40年経って当時のクラスメイトに会うと「今だから言えるけど、俺、先生にひいきされていた」と言うわけです。
「え?」と(笑)。よくよく聞くと自分と同じことをその彼も言われているのです(会場笑)「お前の水泳は凄い。全国目指せ!」とか。要するにクラスの40人全員に同じように言っているというわけなのです(笑)だけどこれぞまさに教育ですよね。
つまり全員にひいきするということを上手にやれるかどうか。それが教育の肝だと思います。
中竹:素晴らしいお話を本当にありがとうございます!
では最後にお二方から激励のメッセージをいただけますか。
岡島:スポーツはルールが明確、勝敗が決まり、試合データがしっかり残り、そのデータで選手の成長も計測できる。それを考えると、実は私たちビジネスサイドは、スポーツから学んでいることがたくさんあると思いました。
今日この後の分科会でも皆さんと意見交換させて頂きながら、私もまだまだ学びたいと思っています。ありがとうございました。
高濱:ここ最近、私自身もスポーツにすごく注目しています。
スポーツ選手は特定領域を極めている人。ただスポーツ選手は伝えることが得意でない人が多い。
そういう意味ではスポーツしかやっていないという壁を取っ払うためにも、スポーツと国語のようなセッティングで小学生の頃からしっかり鍛えることをすれば、さらに伸びると感じています。
スポーツは人としての軸・芯を作るもので、頑張り屋さんも育ちます。でもそれもコーチング次第。今後の取り組みに期待しています。今日はありがとうございました。
岡島 悦子
株式会社プロノバ代表取締役社長
経営チーム強化コンサルタント、ヘッドハンター、リーダー育成のプロ。三菱商事、ハーバードMBA、マッキンゼー、グロービス・グループを経て、2007年プロノバ設立。アステラス製薬株式会社、株式会社丸井グループ、ランサーズ株式会社、株式会社セプテーニ・ホールディングス、株式会社リンクアンドモチベーションにて社外取締役。世界経済フォーラムから「Young Global Leaders 2007」に選出。著書に『40歳が社長になる日』(幻冬舎)他。
高濱 正伸
「この国は自立できない大人を量産している」という問題意識から、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を1993年に設立。各地で精力的に行っている、保護者などを対象にした講演会の参加者は年間30000人を超え、毎回キャンセル待ちが出るほど盛況。なかには“追っかけママ”もいるほどの人気ぶり。障がい児の学習指導や青年期の引きこもりなどの相談も一貫して受け続け、現在は独立した専門のNPO法人「子育て応援隊むぎぐみ」として運営している。
スポーツコーチ同士の学びの場『ダブル・ゴール・コーチングセッション』
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブではこれまで、長年スポーツコーチの学びの場を提供してきました。この中で、スポーツコーチ同士の対話が持つパワーを目の当たりにし、お互いに学び合うことの素晴らしさを経験しています。
答えの無いスポーツコーチの葛藤について、さまざまな対話を重ねながら現場に持ち帰るヒントを得られる場にしたいと考えています。
主なテーマとしては、子ども・選手の『勝利』と『人間的成長』の両立を目指したダブル・ゴール・コーチングをベースとしながら、さまざまな競技の指導者が集まり対話をしたいと考えています。
開催頻度は毎週開催しておりますので、ご興味がある方は下記ボタンから詳しい内容をチェックしてみてください。
ダブル・ゴール・コーチングに関する書籍
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブでは、子ども・選手の『勝利と人間的成長の両立』を目指したダブル・ゴールの実現に向けて日々活動しています。
このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。
このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。
エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』
序文 フィル・ジャクソン
第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの
第2章:ダブル・ゴール・コーチ®
第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング
第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット
第5章:スポーツ選手の感情タンク
第6章:感情タンク実践ツールキット
第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意
第8章:試合への敬意の実践ツールキット
第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)
第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する
本格版書籍『ダブル・ゴール・コーチ(東洋館出版社)』
元ラグビー日本代表主将、廣瀬俊朗氏絶賛! 。勝つことを目指しつつ、スポーツを通じて人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なことを教えるために、何をどうすればよいのかを解説する。全米で絶賛されたユーススポーツコーチングの教科書、待望の邦訳!
子どもの頃に始めたスポーツ。大好きだったその競技を、親やコーチの厳しい指導に嫌気がさして辞めてしまう子がいる。あまりにも勝利を優先させるコーチの指導は、ときとして子どもにその競技そのものを嫌いにさせてしまうことがある。それはあまりにも悲しい出来事だ。
一方で、コーチの指導法一つで、スポーツだけでなく人生においても大きな糧になる素晴らしい体験もできる。本書はスポーツのみならず、人生の勝者を育てるためにはどうすればいいのかを詳述した本である。
ユーススポーツにおける課題に関する書籍『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』
バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
ーーーーー
数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)
・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言
暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。
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