ソーシャルスキルとは社会性・対人関係における能力
ソーシャルスキルとは藤本・大坊1) によれば、「主に対人関係における社会性に関わる能力・対人関係能力」と定義されており、コミュニケーションスキルが、最も基盤として語られていて、次にソーシャルスキル、社会への適応力であるストラテジーと階層的になっています。
このソーシャルスキルは、ビジネスに関わる上で様々な影響を及ぼします。
ソーシャルスキルは離職率に大きく影響する
ソーシャルスキルは離職率に大きく影響します。離職率の要因の一つとして、レジリエンスというのがあります。レジリエンスは、近年心理学領域で注目されているトピックの一つで、「困難な状況から立ち直る能力」2)を指します。
例えば、上司からきつく叱られたりした後に、辛くてやめてしまうといった状況は、現代の若い社会人や学生に多く見受けられます。中学生を対象とした、ソーシャルスキル・トレーニングの効果としては、レジリエンス向上やモチベーション向上などが報告されています3)。
つまり、ソーシャルスキルを高めることは、レジリエンス向上やモチベーションの向上にも役立つため離職率に大きく影響するということです。
ソーシャルスキルを高めるのにスポーツ教育は有効な手段
ソーシャルスキルを高めるのにスポーツ教育は有効な手段です。なぜならば、ソーシャルスキルの獲得にスポーツ教育は大きな影響を及ぼすためです。
上野・中込4)によれば部活動経験の有無は対人スキルなどの高さと関係があると報告されています。つまり部活動経験の有無が、ソーシャルスキルの高さと比例しているということです。
ただし、単にスポーツ活動に参加するだけではソーシャルスキル獲得に結び付かないと警鐘を鳴らす研究者も少なくないことが報告5)されており、今後のスポーツ教育に注目が集まっています。
望ましいスポーツ教育を行うことで子供・選手のソーシャルスキルは高まる
望ましいスポーツ教育は、効果的にソーシャルスキルを高めることにつながります。
上野・中込4)によれば、部活動経験の有無がソーシャルスキルの高さに比例しているものの、獲得の程度は指導者の適切な働きかけにあるとしています。(本文献ではライフスキルとして述べられています。)
ソーシャルスキル(ライフスキル)の獲得を促すスポーツコーチングについて、島本他6)は下記の4つのことが重要であると述べています。可視化を促すコーチング
- 感謝する心の育成を促すコーチング
- 自発的な行動を促すコーチング
- 目標達成を促すコーチング
可視化を促すコーチングとは記録してもらうこと
可視化を促すコーチングとは記録してもらうことです。何かあったときに、すぐに選手に対して記録に残してもらうように指導したり、体重や睡眠時間、体調などを記録するように指導したりすることです。
この可視化を促すコーチングを行うことによって、ソーシャルスキルやライフスキルを獲得する具体的なテクニックとして身につけることができます。
感謝する心の育成を促すコーチングはソーシャルスキルを高める
感謝する心の育成を促すコーチングはソーシャルスキルを高めます。具体的な行動としては、自分がしてもらってうれしいことは他人にもするように伝えたり、スポーツコーチ・監督自身が日々の感謝を選手に伝えるようにしたりすることです。
自発的な行動を促すコーチングはアスリートセンタードが基本
自発的な行動を促すコーチングでは、アスリートセンタードコーチングの考え方が基本です。アスリートセンタード・コーチングとは、選手や部下・子供を中心において指導するコーチングの方法です。
下記はアスリートセンタード・コーチングに関する記事です。
新時代に求められる「アスリートセンタード・コーチング」(日本体育大学教授 伊藤雅充氏)
勝利至上主義からの脱却のために!アスリートセンタード・コーチングの考え方~コーチング・ラボレポート~
また、カウンセリングマインドや、正しい叱り方、フィードバックの与え方は選手の自発的な行動を促すことにつながります。下記の記事も参考にしてみてください。
・コーチングとは?カウンセリングとの違いからみるアプローチ方法
・「怒る」と「叱る」の違いとは?叱って育てることは両者の関係性を高め教育に良い影響を与える!
・結果よりも過程の評価が大事な理由をレジェンドコーチから学ぶ!
目標達成を促すコーチングは選手の自発的な行動を促す
目標達成を促すコーチングは選手の自発的な行動を促します。目標を具体的でかつ数値化するように指導したり、選手自身に毎日目標を立ててもらったりすることで、目標達成を促すことができます。
人生100年時代の社会人基礎力にもスポーツコーチングは効果的
人生100年時代の社会人基礎力にもスポーツコーチングは効果的です。社会人基礎力とは経済産業省が産業の人材育成で掲げている政策の1つです。
社会人基礎力は、考え抜く力・チームで働く力・前に踏み出す力の3つで構成されており、ソーシャルスキルやライフスキルと類似している点が多いです7)。
考え抜く力は自発的な行動を促すコーチングによって身につけられる力
考え抜く力は自発的な行動を促すコーチングによって身につけられる力です。考え抜く力は下記の3つの能力で構成されています。
- 課題発見力
- 計画力
- 創造力
この中でも、スポーツコーチングは特に課題発見力を高める事に繋がります。選手や部下に対して自発的な行動を促すことによって、自分自身で問題を発見し、考え、目標を立てることができるようになるためです。
チームワークで働く力を身につけるためにはコミュニケーション能力が必須
チームワークで働く力を身につけるためには、コミュニケーション能力が必須です。コミュニケーション能力とは、単に情報を発信する能力だけではなく、傾聴する力や柔軟な対応なども含まれます。
社会人基礎力におけるチームワークで働く力については下記の6つの能力が提唱されています。
- 発信力
- 傾聴力
- 柔軟性
- 状況把握力
- 規律性
- ストレスコントロール力
チームワークで働く力に対しては、ソーシャルスキル・ライフスキルを高めるコーチングの中でも感謝する心を育成するコーチングは効果的でしょう。
前に踏み出す力は主体性や関係性の構築が求められる
社会人基礎力の最後の能力として、前に踏み出す力があります。この能力は下記の3つの力で構成されています。
- 主体性
- 働きかけ力
- 実行力
特に主体性は、スポーツコーチングの大きな効果として認識されていて、そのために様々なコーチングの手法が確立しています。ソーシャルスキルやライフスキルを高めるコーチングの中では、可視化を促すコーチング・感謝する心の育成を促すコーチング・目標達成を促すコーチングを行う事で、主体性を育むことができます。
また、相手に働きかけ力は選手や部下からの信頼を得るための関係づくりを行う必要があります。
まとめ
ソーシャルスキルとは社会性・対人関係における能力です。このソーシャルスキルは、離職率をはじめ企業が抱える様々な問題を解決するために必要なスキルです。
このソーシャルスキルを高めるのにスポーツ経験は効果的です。なぜならば、スポーツ経験が有るというだけで、ソーシャルスキルが高いことが報告されているからです。
ただし単にスポーツ経験があるだけではなく、望ましいスポーツ教育を行うことで、ソーシャルスキルの獲得の度合いを高めることができます。望ましいスポーツ教育は、経済産業省が政策として行っている人生100年時代の社会人基礎力に大きく貢献できるでしょう。
本記事を参考にして、ソーシャルスキルを高めるスポーツコーチングについて学んでみてください。
引用参考文献
1)藤本学・大坊郁夫(2007).コミュニケーション・スキルに関する諸因子の階層構造への統合の試み パーソナリティ研究,15(3):347-361.
2)深谷和子(2014).レジリエンスと自尊感情 教育と医学,62(1):4-11.
3)小林朋子・渡辺弥生(2017).ソーシャルスキル・トレーニングが中学生のレジリエンスに与える影響について 教育心理学研究,65:295-304.
4)上野耕平・中込四郎(1998).運動部活動への参加による生徒のライフスキル獲得に関する研究 体育学研究,43:33-42.
5)上野耕平(2011).体育・スポーツ活動への参加を通じたライフスキルの獲得に関する研究の現状と今後の課題 スポーツ心理学研究,38(2):109-122.
6)島本好平,壺阪圭祐,木内敦詞,石井源信(2015).ライフスキルの獲得を促すスポーツコーチングスキル尺度の開発 2015年度笹川スポーツ研究助成,20-30.
7)経済産業省(2018).”「人生100年時代の社会人基礎力」と「リカレント教育」について” 我が国産業における人材力強化に向けた研究会-報告書.(最終閲覧日2019年7月4日:https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/data/pdf/20180319001_3.pdf)
スポーツコーチ同士の学びの場『ダブル・ゴール・コーチングセッション』
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブではこれまで、長年スポーツコーチの学びの場を提供してきました。この中で、スポーツコーチ同士の対話が持つパワーを目の当たりにし、お互いに学び合うことの素晴らしさを経験しています。
答えの無いスポーツコーチの葛藤について、さまざまな対話を重ねながら現場に持ち帰るヒントを得られる場にしたいと考えています。
主なテーマとしては、子ども・選手の『勝利』と『人間的成長』の両立を目指したダブル・ゴール・コーチングをベースとしながら、さまざまな競技の指導者が集まり対話をしたいと考えています。
開催頻度は毎週開催しておりますので、ご興味がある方は下記ボタンから詳しい内容をチェックしてみてください。
ダブル・ゴール・コーチングに関する書籍
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブでは、子ども・選手の『勝利と人間的成長の両立』を目指したダブル・ゴールの実現に向けて日々活動しています。
このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。
このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。
エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』
序文 フィル・ジャクソン
第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの
第2章:ダブル・ゴール・コーチ®
第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング
第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット
第5章:スポーツ選手の感情タンク
第6章:感情タンク実践ツールキット
第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意
第8章:試合への敬意の実践ツールキット
第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)
第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する
本格版書籍『ダブル・ゴール・コーチ(東洋館出版社)』
元ラグビー日本代表主将、廣瀬俊朗氏絶賛! 。勝つことを目指しつつ、スポーツを通じて人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なことを教えるために、何をどうすればよいのかを解説する。全米で絶賛されたユーススポーツコーチングの教科書、待望の邦訳!
子どもの頃に始めたスポーツ。大好きだったその競技を、親やコーチの厳しい指導に嫌気がさして辞めてしまう子がいる。あまりにも勝利を優先させるコーチの指導は、ときとして子どもにその競技そのものを嫌いにさせてしまうことがある。それはあまりにも悲しい出来事だ。
一方で、コーチの指導法一つで、スポーツだけでなく人生においても大きな糧になる素晴らしい体験もできる。本書はスポーツのみならず、人生の勝者を育てるためにはどうすればいいのかを詳述した本である。
ユーススポーツにおける課題に関する書籍『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』
バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
ーーーーー
数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)
・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言
暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。
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