子供にとってスポーツはとても楽しいものです。試合で勝つために一生懸命練習し、上達し、試合前のドキドキを味わいながら対戦相手と対戦します。時にはうまくいかず、悔しいこともあります。
これらのスポーツの体験は、子供たちの人生の糧となります。子供たちにとってポジティブな体験であることは、人生の勝者となる上ではとても大切です。
本記事では、アメリカのNPO法人Positive Coaching Alliance(以下PCA)が提唱する子供たちにとってスポーツをポジティブな体験にするためのダブル・ゴール・コーチングについて解説します。
選手を長期的な視点でコーチングする
選手たちにスポーツだけではなく人生でも勝者となってもらうためには、長期的な視点でスポーツコーチがコーチングすることはとても大切です。
なぜならば、選手達にとって、スポーツや人間関係、自分の上達も含めてうまくいったことやうまくいかなかったことは人生の糧となるからです。
ダブル・ゴール・コーチングでは、コーチが子供たちの人生に役立つスポーツにするためにELMツリー(Effort, learning, Mistakes are OK)という考え方をとても大切にしています。
選手の努力を促すことは人生において結果を残し続けるための秘訣
選手の努力をうながすことは人生においても結果を残し続けるための秘訣です。結果だけではなく過程を重要視することは、子供が努力することにつながります。
試合で良い結果を生み出したり、勉強でいい成績を取ったり、仕事で良い結果をもたらすためには、その裏で努力があることは皆さんも日頃から感じられているのではないでしょうか。
もちろん努力があるからといって必ずしも報われるとは限りません。どれだけ努力したとしても、自分たちが100の力しか持っていなければ200の力を持った相手に勝つ可能性はかなり低くなります。
しかし、自分たちの100の力を200にするためには、切磋琢磨して自分たちのパフォーマンスを上げなければなりません。スポーツでその競技がうまくなるためには、練習してうまくなる他ありません。
この選手の努力を促すためにスポーツコーチは、結果に対してフィードバックするのではなく過程に目を向けてポジティブなフィードバックをすることがとても大切になります。
選手の努力を促すコーチングについてはコチラの記事を参考にしてください。
選手の学びを促すことで子供の人生にも役立つコーチングに
選手の学びを促すことによって、子供たちの人生においても役立つコーチングにすることができます。選手がうまくいかなかったことから学びどうしたらうまくいくか?を考える姿勢を身につけることによって、スポーツ以外の場面でうまくいかなかったとしてもそこから学ぶ姿勢が育まれます。
例えば、選手がうまくいかないプレーがあったときに、うまくいかなかったという結果ではなく、一生懸命プレーしたという努力を褒めて、どうやったらうまくいったかを一緒に考えてあげると、自分が選手の立場だったらどのように感じますか?
選手は、うまくいかなかったことに対して指摘してほしいわけでも怒って欲しいわけでもありません。むしろ若い世代のユース選手にとって、人生はうまくいかないことばかりです。しかし、うまくいかない度に大人に指摘されたり怒られたりした選手はどう感じるでしょうか?
大切なのは、うまくいった時も、上手くいかなかった時にも寄り添いながら一緒に考えてあげるスポーツコーチの姿勢なのです。
選手の学びを促すスポーツコーチングについてはコチラの記事を参考にしてみてください。
ミスより次の行動を考えてもらう文化づくりは勝利の秘訣
ミスを指摘するのではなく寄り添いながら、次の行動を考えてもらうことがチーム全体で行われるようになると、それはチームカルチャー(チーム文化)になります。ミスを恐れずプレーし、ミスしたことから学び、次の行動を自分自身で考えられるようになった選手が増えるからです。
失敗して当たり前の文化がチームに勝利をもたらすことについてはコチラの記事を参考にしてください。
また、そのような選手は自主性の高い選手へと成長するため、社会に出た時に指示待ち人間になることなく、自ら仕事を率先してできる人材になり得るのです。
また、自主性の育まれた選手(人)は、能力やスキルを高める時にもセルフコーチングできる思考が養われているため、他の人よりも成長スピードが早くなります。
このような思考を成長マインドセットといったりもします。
子供がスポーツでも人生でも勝者となるための成長マインドセットとは
成長マインドセットとは、他者からの助けや努力、戦略によって培うことのできる基本的な考え方です。この成長マインドセットに対して、固定マインドセットは、能力が固定されたものであるという考え方をしています1)。
スポーツでよく『才能』という言葉をよく耳にしますが、才能よりも努力の方が大切であり、絶え間ない努力の先に能力やスキルの向上があります。そして、突出した能力やスキルを持った時に才能と呼ばれるようになります2)。
Carolは、著書1)の中でマイケル・ジョーダンでさえも、天性の才能を持った選手ではなく、スポーツの歴史の中で最も努力した人間であったことを述べています。
また、アルゼンチンサッカー代表のメッシも自身は「努力の天才」であると述べています。このように、才能を持っていると周囲から思われる選手ほどたくさんの努力をしていて、この努力は成長マインドセットという基本的な考え方が備わっているからこそできることなのです。
ELM(Effort/ Learning/ Mistakes are OK)なコーチングは選手のやる気を高める
ELMなコーチングは選手のやる気を高めます。ダブル・ゴール・コーチングでは、選手のやる気を車のガソリンタンクに見立てて、感情タンクという言葉を使います。
選手のやる気は、車のガソリンタンクのような仕組みになっていて指摘されたり怒られたりするほどガソリンが減っていき、褒められるほどガソリンが満たされるという考え方です。
もちろん、子供たちにとって間違いを指摘されることが決して悪い事ではありませんが、指摘され続けてしまうとガス欠になってしまい、車が走ることができなくなるように選手のやる気がまったくなくなりスポーツを楽しむことができなくなってしまいます。
ダブル・ゴール・コーチングでは、5:1の割合で褒めることと指摘することの割合を調節しながら選手へのフィードバックすることを理想的としています。
選手が一生懸命努力し、ミスやスポーツの中から学び人生の勝者となるためには、スポーツコーチや保護者、学校の先生といった子供の成長に携わる人達が選手(子供)にエネルギーを注ぎ込むことが、スポーツだけではなく人生の勝者となる鍵になっているのです。
まとめ
子供にとってスポーツは楽しいものであり、人生のエッセンスが詰まった教育ツールとして使うスポーツコーチも多いです。
選手がスポーツだけではなく人生でも勝者となるためには、選手を長期的な視点でコーチングすることがとても大切で、ダブル・ゴール・コーチングでは、ELM(Effort/ Learning/ Mistakes are OK)をコーチングの基本としています。
このELMなコーチングは選手の成長マインドセットを育み、選手がスポーツで勝つ可能性を高めるだけではなく人生でも勝者となれる可能性をも高めます。
しかし、選手の成長マインドセットを育むことは簡単なことではないため、子供の成長に携わるスポーツコーチや保護者、学校の先生などが、子供たちの感情タンクを満たすことによって子供たちのエネルギーになります。
本記事を参考にしながら、選手をスポーツだけではなく人生でも勝者となるコーチングに取り組んでみてはいかがでしょうか。
参考引用文献
1) Carol S. Dweck(2006). Mindset: the new psychology of success, Ballantine Books.
2)Jim Thompson(2018). Elevating your game, Balance Sports Publishing.
スポーツコーチ同士の学びの場『ダブル・ゴール・コーチングセッション』
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブではこれまで、長年スポーツコーチの学びの場を提供してきました。この中で、スポーツコーチ同士の対話が持つパワーを目の当たりにし、お互いに学び合うことの素晴らしさを経験しています。
答えの無いスポーツコーチの葛藤について、さまざまな対話を重ねながら現場に持ち帰るヒントを得られる場にしたいと考えています。
主なテーマとしては、子ども・選手の『勝利』と『人間的成長』の両立を目指したダブル・ゴール・コーチングをベースとしながら、さまざまな競技の指導者が集まり対話をしたいと考えています。
開催頻度は毎週開催しておりますので、ご興味がある方は下記ボタンから詳しい内容をチェックしてみてください。
ダブル・ゴール・コーチングに関する書籍
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブでは、子ども・選手の『勝利と人間的成長の両立』を目指したダブル・ゴールの実現に向けて日々活動しています。
このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。
このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。
エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』
序文 フィル・ジャクソン
第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの
第2章:ダブル・ゴール・コーチ®
第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング
第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット
第5章:スポーツ選手の感情タンク
第6章:感情タンク実践ツールキット
第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意
第8章:試合への敬意の実践ツールキット
第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)
第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する
本格版書籍『ダブル・ゴール・コーチ(東洋館出版社)』
元ラグビー日本代表主将、廣瀬俊朗氏絶賛! 。勝つことを目指しつつ、スポーツを通じて人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なことを教えるために、何をどうすればよいのかを解説する。全米で絶賛されたユーススポーツコーチングの教科書、待望の邦訳!
子どもの頃に始めたスポーツ。大好きだったその競技を、親やコーチの厳しい指導に嫌気がさして辞めてしまう子がいる。あまりにも勝利を優先させるコーチの指導は、ときとして子どもにその競技そのものを嫌いにさせてしまうことがある。それはあまりにも悲しい出来事だ。
一方で、コーチの指導法一つで、スポーツだけでなく人生においても大きな糧になる素晴らしい体験もできる。本書はスポーツのみならず、人生の勝者を育てるためにはどうすればいいのかを詳述した本である。
ユーススポーツにおける課題に関する書籍『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』
バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
ーーーーー
数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)
・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言
暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。
コメントを残す