これまでいくつかの翻訳本を手がけてきましたが、いつも頭を悩ませるのが、日本と海外の用語の定義やニュアンスの違いです。代表的な例の一つに、この「ファンダメンタル」があります。『NBAバスケットボールコーチングプレイブック』では、ざっと調べてみたところ約300ページ中に30回もこの言葉が出てきました。執筆者はみなNBAを代表するコーチですが、彼らがどれだけファンダメンタルを重要視しているかが分かります。
ファンダメンタルの日本での使われ方
さてファンダメンタルは直訳すれば「基礎」ですが、その通りに訳すことが難しい場合があります。日本で通常使われているであろう「基礎」という言葉の意味と、海外文献に現れる「ファンダメンタル」には違いがあるのではないかと感じられることが多いのです。
恐らく日本で浸透している基礎とは、ドリブル、パス、シュート、あるいはスクリーンなどをきちんと形通りにできるような、試合をする上での最低限のテクニックのことを指している場合が多いと考えます。そう、つまり「テクニック」であり、バスケットに関わる「クローズドスキル」のことではないかと思われるわけです。実際私もこの認識でした。
ここでひとまず、日本におけるファンダメンタルとは「シュート、パス、ドリブルといった、バスケットボールという競技に必須の、個別の動作を正しくできること」と定義づけましょう。
ファンダメンタルの海外での使われ方
しかしこの仮説では、いくつかの文章で意味が通らないことがあります。例えば上記の書籍で言えば下記の文章が出てきます。
- このオフェンスは、精密なコートスペーシング、ファンダメンタルの実行、一定のルールに応じたボールと選手の動きを基礎として構成されている点で・・・
- 1対1、パス、シュート、ゴールに向くか背にしたプレーなどといったファンダメンタルの正しい使用。
- チームがベースラインやサイドラインのインバウンズプレーを行なうのに必要なファンダメンタルを練習しているとき……
これだと、より広範な、試合を遂行する上での必須スキルであるかのように感じられます。そもそも海外でもあまり明確な定義はないのかもしれませんが、このような使われ方が多いような気がします。そして同書内(P195)に最大のヒントがありました。
プレーの成否は主として、プレーそのものではなく、むしろプレーをしている選手の堅実なファンダメンタル(パス、シュート、ドリブル、オフボールの動き、ディフェンスの動きや状況を見抜く力)に左右されるということだ。
やはりオープンスキル的な意味合いが強いのでしょう。飛躍して考えると、ファンダメンタル=スキルかもしれません。海外での定義は「バスケットボールの試合(オフェンスとディフェンス)を遂行する上で必須とされる、動作スキルや状況判断、戦術理解」とまで言ってしまえそうです。
まとめ
興味深いのは、ただ1つの単語からも指導におけるヒントが見つかるという点です。ファンダメンタルという言葉からは、「基礎」という曖昧な言葉の中から「クローズドスキル」と「オープンスキル」について考える示唆を得ました。
ファンダメンタル以外にも、日本では使われない言葉がたくさんあります。バスケットボールは世界一のグローバルスポーツで、より高みを目指すのであれば、そのスポーツにおける「共通言語」を話せなければいけません。日本全体が世界基準の「高い標準」を持つことができれば、日本のバスケットボールはより成長していくのではないでしょうか。
出典URL:http://goldstandardlabo.com/blog/2013/11/07/fundamentals/
ゴールドスタンダードラボ
ゴールドスタンダード・ラボは「スポーツコーチングを普及啓蒙し、日本国内におけるコーチングの「ゴールドスタンダード」を構築する」ことをミッションに掲げています。「ゴールドスタンダード」とは、NCAA の名門デューク大学や USA 代表などを率いた、コーチ K こと
マイク・シャシェフスキーの著作”The Gold Standard:Building a World-Class Team”から引用した言葉です。
主に日本国内のバスケットボールコーチに対する記事発信を通じて、バスケットボールコーチの学習機会を創出しています。
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バリュードライブ株式会社/インパクトM株式会社ディレクター。企業様のデジタルマーケティング/コンテンツ戦略を支援させて頂いております。
デジタル/コンテンツマーケティング支援の元・スポーツ書籍編集者。担当書籍は『バスケ筋シリーズ』『ゴールドスタンダード』『シュート大全』『NBAバスケットボールコーチングプレイブック』『ギャノン・ベイカーDVDシリーズ』『リレントレス』他
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このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。
このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。
エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』
序文 フィル・ジャクソン
第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの
第2章:ダブル・ゴール・コーチ®
第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング
第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット
第5章:スポーツ選手の感情タンク
第6章:感情タンク実践ツールキット
第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意
第8章:試合への敬意の実践ツールキット
第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)
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子どもの頃に始めたスポーツ。大好きだったその競技を、親やコーチの厳しい指導に嫌気がさして辞めてしまう子がいる。あまりにも勝利を優先させるコーチの指導は、ときとして子どもにその競技そのものを嫌いにさせてしまうことがある。それはあまりにも悲しい出来事だ。
一方で、コーチの指導法一つで、スポーツだけでなく人生においても大きな糧になる素晴らしい体験もできる。本書はスポーツのみならず、人生の勝者を育てるためにはどうすればいいのかを詳述した本である。
ユーススポーツにおける課題に関する書籍『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』
バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
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数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)
・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言
暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。
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