スポーツで結果といえば、「勝つ」ことを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。スポーツにおいて勝つためには、選手の努力を促しスポーツがうまくなることが欠かせません。この記事では、選手の努力を促すためのスポーツコーチングについて詳しく解説します。
勝つ可能性を高めるためには選手の努力は欠かせない
勝つ可能性を高めるためには選手の努力は欠かせません。そもそも勝つためには、選手のパフォーマンスが高いことが条件になります。
パフォーマンスが高いことが勝つことではないことは先にお伝えしておきたいと思います。100の力を持った相手と100の力を持った自分(達)がスポーツで試合をした場合、パフォーマンスが高いほうが勝つ可能性が高いです。
しかし50の力しか持っていない自分(達)と150の力を持った相手では、相手のパフォーマンス発揮が低くても、自分たちが負けてしまう可能性が高いでしょう。
このように、試合で勝つためには、パフォーマンス発揮が重要ですが、もとから持つパフォーマンスを高めるためには、努力を積み重ねてうまくなったり成長したりすることが欠かせないのです。
結果を出すために過程がなぜ大切か?という記事もありますのでコチラを参考にしてください。
努力をさせるのではなく促すことが大切
スポーツコーチにとって、選手に努力を無理やりさせるのではなく、選手が自ら努力をするように促すことが大切です。
選手に努力が大切だからといって、選手に押し付けてしまうとモチベーションのレベルが低くなってしまいます。
選手のモチベーションには、無動機・外発的動機・内発的動機の3つのレベルがあります。
選手にむりやりやらせる練習などは、選手の外発的動機を高めて単にやらせる練習になってしまいます。
そのため、選手が心の底から「強くなりたい・うまくなりたい・成長したい」といった気持ちになる必要があるのです。
しかし、選手の内発的動機づけを高めることは簡単なことではありません。選手の内発的動機づけを高めるためには、下記の3つのポイントがあります。
・選手に有能感を感じてもらう
・選手との良好な関係を保つ
・選手自身が行動を選択する
このことについて詳しく説明します。
選手の内発的動機づけを高めるためのメカニズム
選手が心の底から内発的動機づけを高めるためには、有能感・関係性・自律性の3つの欲求を満たす必要があることをDeciとRyan1)という心理学者が明らかにしています。
選手の努力を促すことを目的に内発的動機づけを高めるためには、アスリートセンタード・コーチングという考え方がとても大切になります。
アスリートセンタード・コーチングの記事に関しては、コチラをご覧ください。
このアスリートセンタード・コーチングは、オリンピックメダル累計獲得数最多のアメリカが取り入れているコーチングでもあります。
USOPC(アメリカオリンピック・パラリンピック委員会2)のコーチ向けの資料2)には、アスリートセンタード・コーチングがもたらす影響について述べられています。
アスリートセンタード・コーチングは、選手のパフォーマンスを高め、自己肯定感やレジリエンスを高め、対人スキルや人格形成にもポジティブな影響を及ぼすことが報告されています。
つまり、アスリートセンタード・コーチングの考え方を取り入れたスポーツコーチングは、選手が勝つ可能性を高めるというだけではなく、人として成長する可能性も高めるのです。
スポーツコーチは選手の努力を促すために何をすればよいのか
スポーツコーチとして、選手の努力を促すためには何をすればよいのでしょうか。下記ではスポーツコーチとして選手の努力をうながす方法について解説します。
選手の努力を促すポイントをおさえることで、選手の心の底からのやる気に火をつけることに役立つでしょう。
努力を促すポジティブなフィードバック
選手の努力を促すために、ポジティブなフィードバックをすることはとても大切です。ダブル・ゴール・コーチングでは、ポジティブなフィードバックをすることで、選手の感情タンク(モチベーション)を満たすことができることを述べています。
ただし、ポジティブなフィードバックをするポイントは選手自身の行動にあります。結果を褒めたり、選手がもつ能力を褒めてしまったりするよりも、その選手がチャレンジしたことを褒めると良いでしょう。
例えば、「試合に勝った」ことを褒めるのではなく「選手が良いプレーをたくさんした」から勝ったことを具体的に褒めるとよいでしょう。
このようなポジティブなフィードバックは、選手の有能感を高めてくれます。
選手がどうしたいのかに耳を傾ける
スポーツコーチとして、選手にどうしてほしいのかを伝えるよりも、選手自身がどうしたいのかに耳を傾けてあげることで、選手の自律性が高まります。
小学生や中学生などのユース年代の選手でも、大人が耳を傾けてあげると自分がやりたいことがある選手は意外と多いです。
この選手自身がした意思決定を尊重しよりよい方法を一緒に探り、チームとしてマネジメントすることで、選手の自律性は高まりチームパフォーマンスも高まるでしょう。
聴くこと(傾聴)について詳しくはコチラを参考にしてみてください。
選手の努力を促すコーチングは成長マインドセットを育む
選手の努力を促すコーチングは成長マインドセットを育みます。成長マインドセットとは、知性が成長するものであるという考え方のことで、トップレベルのアスリートや成功を収めているビジネスパーソンの多くは成長マインドセットであることが、アメリカの心理学者Carol S. Dweck博士は述べています。
20世紀最高のバスケットボール指導者ジョン・ウッデンの指導
アメリカのバスケットボールの指導者で20世紀最高の指導者と謳われるジョン・ウッデンのスポーツ指導は選手の成長マインドセットを育むコーチングをしていたことをCarol S. Dweckの著書3)の中では述べられています。
ジョン・ウッデンは、選手が成長していくために、「少しずつうまくなること」を重要視して、「結果的に大きな成長」につながることを大切にしていたこともCarol S. Dwec1kの著書3)の中で述べられています。
まとめ
選手の努力を促すことは、パフォーマンス向上につながるため結果的に勝つ可能性を高めます。ただし、選手に努力をさせるのではなく、選手自身が努力できるように、ポジティブなフィードバックをしたり選手の声に耳を傾けたりして、選手の行動選択を促すことで選手の心の底から湧き出るやる気に火をつけることが大切です。
このアプローチは実際に、トップアスリートや成功しているビジネスパーソンが持っている成長マインドセットという考え方を育むことにもつながります。本記事を参考にして選手の努力を促しパフォーマンス向上に役立つコーチングの参考にしていただければ幸いです。
引用参考文献
1) Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Intrinsic and extrinsic motivations: Classic definitions and new directions. Contemporary Educational Psychology, 25, 54-67.
2)USOPC,Quality Coaching(https://www.teamusa.org/-/media/TeamUSA/AthleteDevelopment/Coaching-Education/Quality-Coaching-Framework/Chapter-3.pdf?la=en&hash=14CCA502F473B40EF8D91D4C6A4B8B8A6815FB3B)
3)Carol S. Dweck(2006).Mindset:the new psychology of success.Ballantine Books.
スポーツコーチ同士の学びの場『ダブル・ゴール・コーチングセッション』
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブではこれまで、長年スポーツコーチの学びの場を提供してきました。この中で、スポーツコーチ同士の対話が持つパワーを目の当たりにし、お互いに学び合うことの素晴らしさを経験しています。
答えの無いスポーツコーチの葛藤について、さまざまな対話を重ねながら現場に持ち帰るヒントを得られる場にしたいと考えています。
主なテーマとしては、子ども・選手の『勝利』と『人間的成長』の両立を目指したダブル・ゴール・コーチングをベースとしながら、さまざまな競技の指導者が集まり対話をしたいと考えています。
開催頻度は毎週開催しておりますので、ご興味がある方は下記ボタンから詳しい内容をチェックしてみてください。
ダブル・ゴール・コーチングに関する書籍
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブでは、子ども・選手の『勝利と人間的成長の両立』を目指したダブル・ゴールの実現に向けて日々活動しています。
このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。
このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。
エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』
序文 フィル・ジャクソン
第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの
第2章:ダブル・ゴール・コーチ®
第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング
第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット
第5章:スポーツ選手の感情タンク
第6章:感情タンク実践ツールキット
第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意
第8章:試合への敬意の実践ツールキット
第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)
第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する
本格版書籍『ダブル・ゴール・コーチ(東洋館出版社)』
元ラグビー日本代表主将、廣瀬俊朗氏絶賛! 。勝つことを目指しつつ、スポーツを通じて人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なことを教えるために、何をどうすればよいのかを解説する。全米で絶賛されたユーススポーツコーチングの教科書、待望の邦訳!
子どもの頃に始めたスポーツ。大好きだったその競技を、親やコーチの厳しい指導に嫌気がさして辞めてしまう子がいる。あまりにも勝利を優先させるコーチの指導は、ときとして子どもにその競技そのものを嫌いにさせてしまうことがある。それはあまりにも悲しい出来事だ。
一方で、コーチの指導法一つで、スポーツだけでなく人生においても大きな糧になる素晴らしい体験もできる。本書はスポーツのみならず、人生の勝者を育てるためにはどうすればいいのかを詳述した本である。
ユーススポーツにおける課題に関する書籍『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』
バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
ーーーーー
数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)
・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言
暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。
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