コーチングと類似した手法としてカウンセリングが存在します。
コーチングにはガイドラインが存在するものの、クライアントの内面に向き合うという心理学的なアプローチも行います。
その逆の場合もあり、カウンセリングを行う者がコーチングを取り入れる場合もあります。
本記事では、コーチングについてカウンセリングの違いからみるアプローチ方法について解説します。
コーチングとカウンセリングの明確な違いは対象となるクライアントの状態にある
コーチングとカウンセリングの明確な違いは対象となるクライアントの状態にあります。
このクライアントとは、スポーツ現場では選手、時には保護者の場合もあるでしょう。
出野1)によれば、カウンセリングのクライアントは病的あるいは問題点を抱えている状態であるとしています。
一方でコーチングのクライアントの場合にはより高い目標を目指そうとするプラスの意識を持つ状態にあるとしています。
しかしながら、スポーツ現場では、病理に達している選手は少ないものの、問題点を抱える選手は数多くおり、こうした選手に対しても何らかのアプローチを行う必要があります。
このため、スポーツ現場では、コーチングとカウンセリングを明確に分けることは不可能でしょう。
コーチング自体の定義においては曖昧1)であることも指摘されていることからスポーツ現場で明確に区別することは難しいかもしれません。
しかし、学術的な定義によれば、コーチングとカウンセリングの違いはクライアントの状態にあります。
カウンセリングは心の課題点を探るための手段
カウンセリングとコーチングの違いについて記述している出野1)によればスポーツ現場で行われるスポーツカウンセリングと文献上のスポーツカウンセリングには違いがあるとしています。
スポーツカウンセリングでは、選手の「語り」の中から主訴を見出すとともに心の課題点をさぐります。
この時には、傾聴と共感を行いながら話を聞きます。
アスリートがスポーツの場面を語っている中で、カウンセラーはその人自身の抱えている心の課題点を明らかにします。
主には最近あったスポーツ場面での出来事などについて傾聴します。
これらに耳を傾けることで見立てを立てて心の課題点をあぶり出します。
コーチングとカウンセリングの類似点
コーチングとカウンセリングを明確に区別することが難しい理由としては、下記のような類似点があることです。
発問すること
コーチングでは発問することが非常に重要です。
なぜならば、選手の主体性を尊重するためです。
よくある誤解は指導者が一方的な指導を行うことでこれはティーチングに当たります。
コーチングでは、選手自らが考え、自分自身に気づき未来の自分と現在の自分を照らし合わせる作業を行います。
コーチングは、一つのきっかけを作りだすための手法であり、発問をすることによって選手に気づきを促すことを指します。
共感すること
コーチングとカウンセリングの手法における類似点として、共感することが挙げられます。
共感とは、「他人の意見や感情などにその通りだと感じること」と定義されています。
コーチングやカウンセリングでは、共感して相手を理解する事も含まれます。
あくまで選手の主体性を保ちつつ、クライアントである選手の話に傾聴し、身体感覚などを理解します。
コーチングの場合には、技術指導を行う場合が多いので選手の話に傾聴し共感することで身体感覚への指導へとつなげます。
一方でカウンセリングの場合には心の問題点などを主に見ていく手法で、選手の「語り」の中で心の問題点や課題点を抽出します。
コーチングとカウンセリングのその他の違い
コーチングとカウンセリングのその他の違いとしては、取り扱う内容の時間軸が違うことです。
コーチングでは、現在から未来にかけての事柄を取り扱います。
例えば、目標としている選手像に近づくためには、現在の自分にどのような事が出来ているのか、あるいは出来ていないのかを把握しトレーニング計画を立てます。
一方でカウンセリングでは、過去にあった事を「語らせる」ことによってクライアントである選手の現在の課題点を浮き彫りにしていくという手法です。
このように、コーチングとカウンセリングでは、取り扱う時間軸が異なります。
まとめ
コーチングとカウンセリングの違いはクライアントの状態にあります。しかしながら、スポーツ現場では区別することが難しく、必ずしもコーチングがポジティブな事柄だけを取り扱うわけではありません。
コーチングとカウンセリングの類似点としては、発問や共感といったことが挙げられます。
コーチが発問をし、共感をすることによって選手自身に気づきを与えて成長を促すことがコーチングの手法にあたります。
コーチングとカウンセリングでは、取り扱う時間軸も異なります。
コーチングは現在から未来にかけての事柄を取り扱いますが、カウンセリングにおいては、過去の事を語ってもらうことによって現在の問題点や課題点を明らかにします。
このように、コーチングはカウンセリングと類似しているものの、手法としては違いがあります。
引用参考文献
1) 出野和子(2016).ビジネスにおけるコーチングの役割:類似手法との比較によるコーチングの明確化 経営戦略研究10: 31-42.
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エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』
序文 フィル・ジャクソン
第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの
第2章:ダブル・ゴール・コーチ®
第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング
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第5章:スポーツ選手の感情タンク
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第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意
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バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
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数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)
・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言
暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。
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