第2回 カヌー競技との出会い ~国内事情と海外比較~(一般社団法人カヌーホーム 尾野藤直樹さん)

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カヌーの発展に関する東西の違い

こんにちは、カヌーホーム理事の尾野藤です。

前回の記事にて、カヌー競技って何?ということをお話しました。

カヌーには、幅広い種目が存在し、ゲーム性の高いものや、技術要素の高いもの、体力要素の高いもの、様々あるため、種目横断的に楽しさを経験できる競技です。

そして、日本におけるカヌー競技は、欧米とは異なる独自の発展を遂げてきたので、これから世界で戦える選手を輩出するチャンスがあちこちにあります。

今回は、カヌーの中で最も競技人口の多いカヌースプリントについては、海外、特にハンガリーでのカヌー競技の発展と比較をしながら、日本のカヌーの発展と今後の可能性についてお話をします。

自然や文化に対する関わりが東西の国で異なる

カヌーでは、地理的な要因と文化的な要因が、ハンガリーと日本での発展に違いをもたらしています。

世界的に見てもカヌーは、マイナー競技の部類に入るかと思います。しかし、もともとは交通や運輸の手段として発展してきた競技です。

水辺を利用した活動が人々の生活に密着しているような国は、現在、カヌー競技の強豪国であり、また人々のカヌー認知度も高くなっています。

今回は、カヌーが国を代表するような競技となっているハンガリーと比較する形で、日本のカヌーを見つめていきます。

ハンガリーと日本の地理的な要因がもたらす発展の違い

ハンガリーと日本の地理的な要因がもたらす発展の違いについては、下記のような事が挙げられます。

緩慢な大陸の河川がもたらすハンガリーの地理的な発展

まず、地理的な要因としては、ハンガリーと日本の河川の形状の違いが挙げられます。

ハンガリーはカルパティア山脈の麓に広がる平野が国土の大半を占め、国土を東西に二分するような形でドナウ川が流れます。

全長約3,000kmのうち中流部を占めています。

また支流のティサ川は全長1,000kmにわたり、こちらも国土を縦断します。いずれの川も、国の南北を結ぶ重要な交通経路であり、美しい景色とともに人々の生活に寄り添っています。

当然のように、水上のスポーツは盛んとなり、静水面で練習や競技を行う、カヌースプリントが発展してきました。

現在、カヌー競技の実力向上のためには、幼少期に長距離を漕ぎこみ、基本的なテクニックや艇の上でバランスの取り方を学ぶ時間がとても重要だと考えられています。言わば、艇と友達になることが必須です。

これは、ハンガリーの環境下ではとてもナチュラルに醸成されます。ハンガリーの子供たちは、10歳頃から長い距離を漕ぎこむのが通例となっています。

例えば、片道10kmの距離をカヌーで漕ぎ行き、行った先でランチを食べて帰ってくるというような、「娯楽」あるいは「あそび」としてのカヌーに日々触れています。

夏休みが3か月近くあることも、自然と触れる時間、カヌーと親しむ時間を存分に与えてくれます。

こうした背景もあり、カヌーの長距離大会の開催も盛んです。

急峻な島国の河川がもたらす日本の地理的な発展

一方で、日本は山地山脈の豊かな地形が広がる国土で、川、海、池、湖など様々な場所で練習拠点を確保しています。

それらは、長距離を漕ぎこむような練習を行うには少し不向きです。

中には直線で500mを取るのがやっとというような練習環境のチームも少なくはありません。

川での練習であっても、大陸の河川のように10kmも20kmも緩やかな流れが続くという環境は、日本国内には非常に限られています。

このような地理的な要因の違いによって、幼少期のトレーニングスタイルが全く違ってきます。

ハンガリーと日本の文化的な背景がもたらす発展の違い

また、文化的な背景として、ハンガリーでのクラブチーム形態の発展が大きく絡んできています。

こちらは、他のスポーツについても共通して言える部分かと思います。

クラブチーム式のハンガリーにおける文化的な背景

カヌーでいうと、ハンガリーを含めた欧米諸国では、カヌーのクラブチームが、地域ごとに数多く存在します。

そこには、老若男女、競技レベルを問わず様々な選手が所属します。

国内のトップクラスの選手から、フィットネス感覚で取り組む人々、子供たち、マスターズの方たち、様々な背景の選手がともに練習をするため、自分たちに必要なトレーニングプログラムを選択できます。

また、成人とジュニアが使用する艇を明確に分けているため、体に合った道具で練習をすることもできます。

部活式の日本における文化的な背景

一方、日本のカヌーは、1964年の東京オリンピック前後に国内で発展がはじまり、国民体育大会の開催種目となったのをきっかけに、各都道府県での活動が広がってきました。

また高校総体の時代から正式採用され、現在もインターハイ種目となっています。

現在では、47都道府県すべての地に、カヌースプリントの練習拠点や協会、チーム、高校が存在するのはそのためです。

国体やインターハイをはじめとして、500mや200mの距離の大会が主となり、その実力を問われる機会が多くなっています。

これが、「あそび」の中でテクニックを身に着ける時間を少なくしてしまっている状況です。

日本では、部活動を中心にカヌー競技の指導が行われていることも、特徴となっています。

部活動という枠組みでの活動は、生徒に一律の指導が可能となる反面、自由な活動をすることが難しいという点もはらんでいます。

スポーツの価値を日本らしく取り入れるには

ハンガリーに始まるような欧米諸国のカヌー環境を見習うべき点もたくさんあります。

特に、スポーツの意義を、「娯楽」や「あそび」の延長からひきつぎ、子供たちがカヌーに取り組む環境が作られている点は参考にすべきと考えています。

そうした一方、日本独自の発展を遂げているからこそ、欧米諸国にはない、「拠点の多さ」や「国内の網羅的な競技環境」が醸成されています。これは特筆すべき点です。

今後の日本は、カヌー先進国であるハンガリー等から学ぶ点を補い、国際基準のスポーツにしていく活動を深めていく必要があります。

スポーツコーチ同士の学びの場『ダブル・ゴール・コーチングセッション』

NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブではこれまで、長年スポーツコーチの学びの場を提供してきました。この中で、スポーツコーチ同士の対話が持つパワーを目の当たりにし、お互いに学び合うことの素晴らしさを経験しています。

答えの無いスポーツコーチの葛藤について、さまざまな対話を重ねながら現場に持ち帰るヒントを得られる場にしたいと考えています。

主なテーマとしては、子ども・選手の『勝利』と『人間的成長』の両立を目指したダブル・ゴール・コーチングをベースとしながら、さまざまな競技の指導者が集まり対話をしたいと考えています。

開催頻度は毎週開催しておりますので、ご興味がある方は下記ボタンから詳しい内容をチェックしてみてください。

ダブル・ゴール・コーチングに関する書籍

NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブでは、子ども・選手の『勝利と人間的成長の両立』を目指したダブル・ゴールの実現に向けて日々活動しています。

このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。

このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。

エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』

序文 フィル・ジャクソン

第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの

第2章:ダブル・ゴール・コーチ®

第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング

第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット

第5章:スポーツ選手の感情タンク

第6章:感情タンク実践ツールキット

第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意

第8章:試合への敬意の実践ツールキット

第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)

第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する

本格版書籍『ダブル・ゴール・コーチ(東洋館出版社)』

元ラグビー日本代表主将、廣瀬俊朗氏絶賛! 。勝つことを目指しつつ、スポーツを通じて人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なことを教えるために、何をどうすればよいのかを解説する。全米で絶賛されたユーススポーツコーチングの教科書、待望の邦訳!

子どもの頃に始めたスポーツ。大好きだったその競技を、親やコーチの厳しい指導に嫌気がさして辞めてしまう子がいる。あまりにも勝利を優先させるコーチの指導は、ときとして子どもにその競技そのものを嫌いにさせてしまうことがある。それはあまりにも悲しい出来事だ。

一方で、コーチの指導法一つで、スポーツだけでなく人生においても大きな糧になる素晴らしい体験もできる。本書はスポーツのみならず、人生の勝者を育てるためにはどうすればいいのかを詳述した本である。

ユーススポーツにおける課題に関する書籍『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』

バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
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数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)

・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言

暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。

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