「学生アスリートが、社会の中でその価値を発揮できていない」。そんな課題意識を抱き、現役学生アスリートにキャリア教育授業「Shape」を届ける白木氏。
自身もトップアスリートでありながら、なぜ「Shape」を始めたのか。白木氏が目指すキャリア教育の形とは。スポーツコーチングJapanカンファレンス2018での講演の様子をレポートします。
引退した後に感じた「危機感」。NPO法人Shape the Dreamを立ち上げたきっかけ。
NPO法人Shape the Dreamの白木栄次と申します。まずは自分の生い立ちを簡単にお話しさせて下さい。
今日、登壇されている皆さんの輝かしい経歴を見て凄いな…と思っているのですが、私は中学時代の成績はオール2でした。 部活はバスケットボール部に所属していたのですが、ずっと補欠部員でした。
その後進学した高校がアメフトの名門校ということもあり、アメフト部に入部。すると、予想以上に勝利を積み重ねていって…3年連続で日本一になることができました。本当にチームメイトや学校に恵まれたと思います。
高校時代に結果を残したこともあり、大学はスポーツ推薦で進学。大学でもアメフトにのめり込んで、週6で筋トレをするような日々でした(笑)とにかく筋トレが大好きで…サプリメントを飲み過ぎたせいで、顔面蒼白になって病院に駆け込む…なんてこともありました。
大学卒業後は富士通で9年間プレーさせて頂き、2015年に初めて日本一に。その後現役を引退しました。
現役時代は本当にスポーツ漬けの毎日で、「キャリアを考える」なんていうことは全くありませんでした。
しかし、引退するとそうはいかなくなります。当然、周りの自分に対する目が変わりますよね。引退する前までは、会社や取引先から「アメフトの白木くん」と見られていたのが、「ただの白木くん」になるわけです。
その時に「これはまずい」と思いました。何か学ばなければならない…と強く思い、大学院に入りました。青山学院大学のビジネススクールです。
そして、ビジネススクールの授業のテーマで、「ビジネスを形にする」というテーマのものがあり、それがNPO法人Shape the Dreamを立ち上げるきっかけになりました。
選択肢を広げ、さらなる可能性を見せてあげたい
「学生アスリートの価値を最大化する」というのが、私たちNPO法人Shape the Dreamのビジョンです。
19人いるShape the Dreamのメンバーは全員元アスリートで、そのメンバーがロールモデルとなって、「Shape」と呼ばれる授業をおこなっています。「Shape」を通じて、学生の皆さんが「ワクワク」するような「リアルな学び」を届け、夢や将来のことを考えるきっかけを作りたいという想いで活動しています。
私たちが課題に感じているのは、「スポーツだけやっていていいのか?」というところ。
これが日本の二大プロスポーツの現状です。Jリーグの引退平均年齢は25歳で、プロ野球選手は高齢のピッチャーも多いため29歳になっています。そして多くの選手が将来に不安を抱えながらプロ選手を続けていることがよくわかります。
この現状を知ったうえで、親は子どもを教育していかなければならないし、指導者は指導しなければならないと思っています。
また、スポーツに限定した将来を考えている学生アスリートが多いことも大きな問題だと感じています。
設立から1年間怒涛のように活動してきて、約800人の学生に「Shape」を届けてきました。そして、事後アンケートから見えてきたものがあります。
「将来のことについて考えることがありますか?」という質問には、4割の学生が「全く考えていない」と答えています。逆に、半分以上は、ぼんやりとでも将来のことを考えているということになります。
「引退後の生活はどのように考えているか?」という質問には、半分の学生は「自分がやってきた競技にずっと関わりたい」と答えていました。
この結果を頭から「だめだよ」と否定するつもりは全くありません。ですが、5割の学生が「自分がやってきた競技にずっと関わりたい」と答えたのには、スポーツをやっている時間が長いことと関係していると思います。さらに、競技レベルが高いと、5割ではなく6割、7割と増えていく傾向があります。
象徴的だったのは、NPO法人設立前のトライアルで甲子園を目指すレベルの高校の野球部に「Shape」のオファーを出した時のこと。「俺たちはそんなことやっている暇はないんだよ」とお断りされたのです。
この現状を見て、学生アスリートの選択肢をもっと広げて、いろんな可能性があるんだということを伝えたいと思っています。
学生の頃からのマインドセットが重要
なぜ僕たちが学生向けに「Shape」をやっているのかというと、若いうちにいろんな価値観に触れ、いろんなことをインプットすることが重要だと考えているからです。
「Shape」を始める前に、引退したプロ野球選手を多く受け入れているという飲食店を経営している方にフィールドインタビューをした時のことです。その方が、厳しい現状を教えてくれました。
だいたい元プロ野球選手を受け入れると、3年以内に辞めるか、無断欠勤でいなくなるか…という状態になったそうです。そして、それ以来引き受けなくなったと。
確かに、大人になってそれなりのお金を稼いでいたのに、いきなり飲食店で働く…となると、気持ち的に前向きにはなれないと思います。
でもそれはその選手のせいではなく、やはりその選手を取り巻く環境が原因だと思うのです。プロ入り前の学生時代にどれだけ将来のことを考える機会があるのか、大人と触れる機会があるのか…というところが大事だと考えています。
そのような機会を作り続けることが、私たちShape the Dreamの使命です。
白木栄次
高校からアメリカンフットボールを始め、3年連続全国優勝を経験。近畿大学に進み、4年時には主将としてチームを牽引する。富士通へ入社後は、社会人チームの富士通フロンティアーズでプレーし、2014年にチーム史上初の日本一に貢献。同年に現役を引退。2016年4月に青山ビジネススクールに入学。スポーツ界を中心とした教育現場の改革を志し「Shape the Dream」を立ち上げ、代表理事を務める。
スポーツコーチ同士の学びの場『ダブル・ゴール・コーチングセッション』
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブではこれまで、長年スポーツコーチの学びの場を提供してきました。この中で、スポーツコーチ同士の対話が持つパワーを目の当たりにし、お互いに学び合うことの素晴らしさを経験しています。
答えの無いスポーツコーチの葛藤について、さまざまな対話を重ねながら現場に持ち帰るヒントを得られる場にしたいと考えています。
主なテーマとしては、子ども・選手の『勝利』と『人間的成長』の両立を目指したダブル・ゴール・コーチングをベースとしながら、さまざまな競技の指導者が集まり対話をしたいと考えています。
開催頻度は毎週開催しておりますので、ご興味がある方は下記ボタンから詳しい内容をチェックしてみてください。
ダブル・ゴール・コーチングに関する書籍
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブでは、子ども・選手の『勝利と人間的成長の両立』を目指したダブル・ゴールの実現に向けて日々活動しています。
このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。
このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。
エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』
序文 フィル・ジャクソン
第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの
第2章:ダブル・ゴール・コーチ®
第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング
第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット
第5章:スポーツ選手の感情タンク
第6章:感情タンク実践ツールキット
第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意
第8章:試合への敬意の実践ツールキット
第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)
第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する
本格版書籍『ダブル・ゴール・コーチ(東洋館出版社)』
元ラグビー日本代表主将、廣瀬俊朗氏絶賛! 。勝つことを目指しつつ、スポーツを通じて人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なことを教えるために、何をどうすればよいのかを解説する。全米で絶賛されたユーススポーツコーチングの教科書、待望の邦訳!
子どもの頃に始めたスポーツ。大好きだったその競技を、親やコーチの厳しい指導に嫌気がさして辞めてしまう子がいる。あまりにも勝利を優先させるコーチの指導は、ときとして子どもにその競技そのものを嫌いにさせてしまうことがある。それはあまりにも悲しい出来事だ。
一方で、コーチの指導法一つで、スポーツだけでなく人生においても大きな糧になる素晴らしい体験もできる。本書はスポーツのみならず、人生の勝者を育てるためにはどうすればいいのかを詳述した本である。
ユーススポーツにおける課題に関する書籍『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』
バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
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数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)
・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言
暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。
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