体罰・しつけは、教育において悪影響しか及ぼしません。
スポーツ指導の現場で起こる体罰やハラスメントは日常的にニュースに取り上げられるようになりました。
これに対処すべく、政府は子どもへの体罰を禁止する法律を6月19日に制定し、実質体罰やしつけで子どもへ危害を加える行為は犯罪となりました。
実は先進国50か国では、子どもに対して体罰・しつけをすることはすでに法律として禁止されている国が多く、体罰・しつけを容認する社会というのは子育て後進国であることを象徴しているほどです。
本記事では、体罰・しつけが子どもへ及ぼす影響と子どもを教育する具体的な方法をスポーツ心理学の観点から解説します。
目次
体罰・しつけは子どもの教育に悪影響しか及ぼさない

体罰・しつけは、子どもの教育に悪影響しか及ぼしません。
このことは、心理的側面・生理的側面から科学的に立証されているためです。
下記に理由を記載しますが、前提として体罰・しつけをして子どもを教育する人の共通の特徴として、教育者自身に問題があるということです。
体罰・しつけは攻撃的かつ暴力的な子どもを育て社会的に負のスパイラルに陥る

体罰・しつけは子どもを攻撃的かつ暴力的な人間に育てます。なぜならば、体罰・しつけをされた子どもは、大人になると同じ行動を起こすようになるためです。
このメカニズムについて社会的学習理論を用いると下記のように説明できます。
- 攻撃性を「モデリング(他者から見て学ぶ)」を通して学ばれる
- 子ども時代に攻撃性を学んだ人は大人になると暴力をふるう可能性が高
- 暴力性は「父から息子へ」「母から娘へ」次世代へ永続的に引き継がれる傾向がある
つまり、子どもは親を見て攻撃性や暴力行為を学び、自らの子どもを育てる時に同じ行動を起こしてしまうのです。
この流れが続くことによって、社会的に体罰やしつけが容認される社会になり、結果として体罰やしつけを助長する社会風習が出来上がってしまうことも説明することができます。
まとめると、体罰・しつけを子どもに行うことによって、攻撃的かつ暴力的な子どもを育て、それが永続的に続いてしまうという負のスパイラルにはまってしまうことが考えられます。
体罰・しつけは子どもに生理学的にも悪影響しか及ぼさない

体罰・しつけは子どもに生理学的にも悪影響しか及ぼしません。なぜならば、ホルモンの分泌に悪影響を及ぼすためです。
男性ホルモンや女性ホルモンは、攻撃性と関連していることが科学的に証明されています1)。
男性ホルモンや女性ホルモンは中脳のドーパミン神経の発達に関連しており2)、攻撃性が高いラットは、大脳辺縁系の性腺ホルモンが高かったと報告されています3) 。
これを子どもへの体罰・しつけを簡単にしてみると下記のようになります。
- 親から体罰やしつけを受けて子どもの大脳辺縁系の性腺ホルモンの分泌を高める
- 子どものホルモン分泌異常により、成育過程の中で攻撃性の高い子どもに育つ
- 大人になったときに攻撃性・暴力性の高い人に育つ
- 同じことが次の世代へ繰り返される
このように、体罰・しつけはホルモンの分泌にまで悪影響を及ぼし、子どもの教育を阻害してしまいます。
実はこの行動は、親自身の感情の制御に問題があることが近年の研究で発見されました。
体罰・しつけは親の感情が制御できていないことが原因

実は、体罰やしつけは親の感情の制御ができていないことが原因です。
中谷4)は、体罰・しつけを不適切な養育としたうえで、不適切な養育が多い群と少ない群に分けて調査を行いました。
結果として、不適切な養育が多い群ほど、怒りや嫌悪といった感情が多く、幸福を感じる場面が少ないことが報告されました。
つまり、親の感情を安定させることが子どもに体罰・しつけをせずに教育する方法なのです。
子どもに体罰をせずに感情を制御するための2つのテクニック

子どもに体罰をせずに教育する方法として、上記のことをふまえると「感情の制御」を親として行えるようになることが、子どもの成長の手助けであり、自分自身の成長でもあるのです。
感情を制御するためには下記の2つの方法があります
突発的な怒りの感情を抑えるために黙ってみる
子どもの体罰・しつけで最も効果的なのは、突発的な怒りの感情を抑えることです。
人が怒る時は、アドレナリンが多く分泌されます。このアドレナリンは何かが起こった時に最初6秒の間に多く分泌されます。
まずは、自分自身が怒っているという感情が起きたときは、クールダウンの意味も込めて何もせずに黙ってみましょう。
その時にブリージング(呼吸法)と呼ばれる心理的なテクニックを用いて腹式呼吸による深呼吸を行ってみてもよいでしょう。
ブリージング(呼吸法)のやり方
- 息を吐く
- 鼻から大きく息を吸う(5秒)
- 息を止めておなかに力を入れる(3秒)
- 息を口から細く長く吐く(7秒)
相手に対して求めるのではなく自分に何ができるかを考える
相手に対して求めるのではなく、自分に何ができるかを考える事は、体罰・しつけを行わずに子どもの教育をするには効果的です。
ポジティブシンキングのワークの中に、自分自身がコントロールできるものとコントロールできないものに分けてコントロールできることだけをするという方法があります。
例えば、子どもに対して「泣きやんでほしい」と思ったとしても、子どもが泣き止まないのは子ども自身にマイナスの感情があるからです。これを親が直接どうこうすることはできません。
親が子どもの泣く行為自体はコントロールできなくても、影響を与えることはできます。例えば、子どもの気分を変えるために笑顔で接してみたり、あやしてみたりすることはできるでしょう。(子どもが何で泣いているのかによる。)
こういったように、自分自身がコントロールできることと出来ないことに分けて考えるだけで、子どもに対して原因を求める事が少なくなるため、うまく子どもに対処できるようになるでしょう。
まとめ
体罰・しつけは子どもの教育に悪影響しか及ぼしません。
なぜならば、体罰・しつけは、子どものホルモンの分泌に変化を生じさせてしまい、攻撃的かつ暴力的な大人へと成長させてしまうためです。
実はこの問題には、親の感情の制御とかかわりが深いことが過去の研究結果の中でいわれています。
親が子どもに体罰・しつけをしないで教育をするために、感情の制御の方法があり、ブリージング(呼吸法)やポジティブシンキングのスキルは十分役に立つでしょう。
これらは、スポーツ心理学の中で、トップアスリートが感情を制御するために用いるテクニックですが、子育てに悩む親にも使えるテクニックでしょう。
本記事を参考にして体罰・しつけをせずに子どもの教育をしてみませんか?
引用参考文献
1) Goy, R. W. & McEwen, B. S. (1980). Sexual Differentiation of the brain. Cambridge, MA: MIT Press.
2) Reisert, I., Han, V., Lieth, E., Toran, A. D., Pilgrim, C. & Lauder, J. (1987), Sex steroids promote neurite growth in mesencephalic tyrosine hydroxylase immunoreactive neuron in vitro. International Journal of Developmental Neuroscience, 5:91-98.
3) Floody, O. R. & Pfaff, D. W. (1972), Steroid hormones and aggressive behavior: approaches to the study of hormone-sensitive brain mechanism for behavior, S. H. Frazier. Aggression, 52:149-184.
4) 中谷奈美子(2016).子どもの行動に対する母親の帰属と不適切な養育―感情を媒介として― 心理学研究,doi.org/10.4992/jjpsy.87.14074
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