3月3日に開催されたスポーツコーチングJapanカンファレンス。
その基調講演として、「コーチ育成のプロ」中竹竜二氏と、「ビジネスリーダー育成のプロ」岡島悦子氏、そして「教育のプロ」高濱正伸氏による対談がおこなわれました。
「指導者に求められるリーダーシップ」というテーマのもと、これからの時代に求められるリーダー像や、ビジネス・教育の視点から見たスポーツの姿、スポーツコーチ育成の最新の潮流…など。
1時間という時間の中で多岐に渡る話題に対して、最先端の知見がぶつかり合う濃密な議論がなされました。
(後編はこちら)
スポーツコーチングJapanカンファレンス
“From & To” Sports Coachingを掲げ、日本全体のマネジメントの質的向上をスポーツ界のコーチングから牽引することを目指す一般社団法人スポーツコーチングJapanが開催。「ここから。日本のスポーツコーチングをNext Stageへ」をカンファレンスのスローガンに掲げ、スポーツ界だけでなく様々な業界・分野の最先端の知見を持った識者を登壇者に招き、講演やワークショップをおこなった。
「カリスマリーダー」の時代は終わった
中竹:今回のテーマは、「リーダーの育て方」と、その根底にある「リーダーの在り方」とはです。
リーダーには何が必要で、どう育てるのかをお二人にお話を伺いたいと思います。岡島さん、いかがでしょうか?
岡島:まずビジネスの世界では、もうカリスマリーダーでは通用しないということが分かってきました。ビジネスサイクルも短くなり、リーダー1人で事業や組織を牽引することの限界が見えてきました。
これまで私たちは、明確なビジョンを打ち出すことがリーダーシップだ、と教えてきましたが、今はビジョンを作ること自体がすごく難しくなっています。先が読めないVUCA(※)の中で「これがビジョンだ」と言い切るのは、よほどの天才か、勘違い(会場笑)。
みんなが共感するストーリーを作ることが重要なのです。センスメイキング理論と言われていますが、正確性より納得性の方向性を見せることですね。
私は「カリスマリーダー」から「羊飼い型リーダー」へ、とよく言っていますが、日本だと「羊飼い」にあまり馴染みがないので、最近は「追い込み漁」と言っています。笑
つまり、後ろからみんなをある方向へ誘導していくということです。そして、現場にいる人がパフォーマンスを最大化する「環境整備」をすることがリーダーの仕事になってくると思います。
中竹:カリスマリーダーがビジョンを描けない中で、「コレクティブジーニアス」というのが一つの現象として出てきていますね。
岡島:「集団天才」ですね!
中竹:要するに、もう1人じゃ正しい解は見つけられないので、1人が出した解に対していろんな人がアイデアを乗せて、集団として天才になっていかないと、もうこれからは勝てなくなります。
岡島:それも、営業の人ばかりとか、ラグビーの人ばかりとか、同じ種類の人ばかりではダメです。だから今日みたいな色々な競技のコーチが集まっていることが凄く重要で、色々な視点を含んだ多様性のある集団でないとダメです。
(※)Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)の頭文字を取ったもの
「人を動かす」という教育の本質 を学ぶ
中竹:高濱先生はいかがでしょうか。
高濱:例えば、40年前の野球部って、軍隊みたいな「おい!やれよ!!」というノリですよね。あれは要するに「そこで勝ち残る数人を作る」仕組みなのです。
現場のコーチは、例えば、どうしたら足が速くなるかというような専門知識はさすがに凄い。ところが子どもたちはみんなその指導に飽きている。
なぜなら、それは大人の段階で得た知識を言おうとしているだけで、知識の押し売りでしかないのです。
その人たちに何が足りないかというと、子どもの「本質」を学んでいない。
リーダーとして、動かしたい対象の本質を知ること。子どもは、大人とは生き物として違う、ということをしっかり認識しないと。「自分」だけを基準にして教えようとしても、相手からしたら「意味がわからない」ですよ(笑)
相手がどういう風に生きていて、どういう時に動くのかな、ということを勉強することが、スポーツ界には決定的には足りていないな、と思います。今までの体育会系のノリで、ついてくるやつだけついてこい、というのは良くないですね。
中竹:ありがとうございます。
高濱先生のお話を聞いて、「本質」という言葉がすごく印象的でした。人間の感情や本能として、体を動かしたいとか、どこに興味があるか、これは原動力なので、それを知ることはコーチにとって非常に大事です。
私自身は今、「コーチのコーチ」の立場で、世界各国で自分と同じ立場の人が集まるカンファレンスに参加しています。
8年間出席していますが、3年程前から、「本質的なスポーツの楽しみ」をコーチと選手が味わおう、というテーマが増えています。
イングランドのサッカーのユースでは、クラブのお金でトランポリンを整備して、選手を思いきりはしゃがせて遊ばせています。将来絶対プロになるような逸材がそこで遊んでいる。
「コーチディベロッパー」、要するにコーチのコーチの間では、アスリートになる過程で「人間はどこで楽しみを覚えるか」ということを感じさせる時期を作らなければならないという流れになっています。
だけど、コーチは「そんなのやる意味ないだろ」と言ってどんどん負荷をかけて面白くない専門的なトレーニングをしてしまうのです。
岡島:陸上の為末さんが、「努力は夢中に勝てない」といつも言っていて、これはビジネスも全く同じですが、最後に努力が熱量に勝てないことが結構あって、熱量を創り出す環境づくりをビジネスでもやっているという感じです。
人間の本質を見抜くというところで言うと、「ミレニアム世代(※)」と呼ばれる人たちはお金では動きません。
彼ら彼女らは「意味報酬」というものに凄く興味があって、社会にどんな意義があるのか、ということをとても重視しています。
自分たちがやっているその先に何が描けるのか、を伝えないと夢中になってはくれないのです。だから経営陣が徹底的にやっているのは、社員のインセンティブのスイッチ、心のスイッチをどう入れるか、というのをすごく考えていますね。
高濱:部下や選手たちがどれだけやる気になるか、というのは、親が我が子をどうやってやる気にさせるのか、というのと一緒で、かなり大きな壁なんですよね。特に長男・長女ですよ。今は一番上の子を育て損ねている時代でもあると思っています。
岡島:期待が大きすぎるということですか?
高濱:いや、本人のやる気ではなく、親が「やらせたい」ことをやらせているからだと思いますね。
(※)1980年代から2000年代初頭に生まれた10代、20代の若者の総称
(後編へ続く)
スポーツコーチ同士の学びの場『ダブル・ゴール・コーチングセッション』
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブではこれまで、長年スポーツコーチの学びの場を提供してきました。この中で、スポーツコーチ同士の対話が持つパワーを目の当たりにし、お互いに学び合うことの素晴らしさを経験しています。
答えの無いスポーツコーチの葛藤について、さまざまな対話を重ねながら現場に持ち帰るヒントを得られる場にしたいと考えています。
主なテーマとしては、子ども・選手の『勝利』と『人間的成長』の両立を目指したダブル・ゴール・コーチングをベースとしながら、さまざまな競技の指導者が集まり対話をしたいと考えています。
開催頻度は毎週開催しておりますので、ご興味がある方は下記ボタンから詳しい内容をチェックしてみてください。
ダブル・ゴール・コーチングに関する書籍
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブでは、子ども・選手の『勝利と人間的成長の両立』を目指したダブル・ゴールの実現に向けて日々活動しています。
このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。
このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。
エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』
序文 フィル・ジャクソン
第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの
第2章:ダブル・ゴール・コーチ®
第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング
第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット
第5章:スポーツ選手の感情タンク
第6章:感情タンク実践ツールキット
第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意
第8章:試合への敬意の実践ツールキット
第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)
第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する
本格版書籍『ダブル・ゴール・コーチ(東洋館出版社)』
元ラグビー日本代表主将、廣瀬俊朗氏絶賛! 。勝つことを目指しつつ、スポーツを通じて人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なことを教えるために、何をどうすればよいのかを解説する。全米で絶賛されたユーススポーツコーチングの教科書、待望の邦訳!
子どもの頃に始めたスポーツ。大好きだったその競技を、親やコーチの厳しい指導に嫌気がさして辞めてしまう子がいる。あまりにも勝利を優先させるコーチの指導は、ときとして子どもにその競技そのものを嫌いにさせてしまうことがある。それはあまりにも悲しい出来事だ。
一方で、コーチの指導法一つで、スポーツだけでなく人生においても大きな糧になる素晴らしい体験もできる。本書はスポーツのみならず、人生の勝者を育てるためにはどうすればいいのかを詳述した本である。
ユーススポーツにおける課題に関する書籍『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』
バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
ーーーーー
数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)
・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言
暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。
コメントを残す