「選手の将来の可能性を最大化するために、コーチにできることは何なのか?」
この問いに対して、ドミニカ共和国の野球指導の在り方に1つの答えを見出し、それを日本に広める活動をしているのが、阪長友仁さんです。
日本のコーチがドミニカのコーチから学べることは、いったい何なのか?
海外から見た日本のコーチングの姿は、どのようなものなのか?
ゲストとして阪長さんにお越し頂いたSports Coaching Lab Vol.9をレポートします。
Sports Coaching Labは、月に一度、指導の現場において指導者が直面している課題に対して、ゲストスピーカーによるインスピレーショントークや参加者同士のワークショップ、良質なコーチング事例の共有等を通じて、様々な角度からスポーツ指導者が学べる機会を継続的に創り出していきます。スポーツ指導者が繋がり、学び合い、日々の現場での指導をステップアップさせるための環境を、Sports Coaching Labは整えていきます。
ドミニカ共和国のメジャーリーガー輩出率は日本の188倍!
野球の強豪として知られるラテンアメリカの国々。
その代表格であるドミニカ共和国は、2013年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で優勝しています。
さらに特筆すべきは、メジャーリーガー輩出数です。
ドミニカ共和国はわずか人口1000万人、国土面積も九州と高知県を足したほどの小国ですが、151人ものメジャーリーガーを生み出しているのです。これはアメリカに次いで2番目に多い数字です。
日本は人口1億2000万人で10人。割合を比較すると、ドミニカ共和国は日本の188倍の確率でメジャーリーガーを輩出していることになります。
多くのメジャーリーガーを輩出している要因としてよく言われるのが、「身体能力が高い」というもの。
しかし、2017年にMVPを獲得した身長165cmのアルトゥーベ選手(ベネズエラ出身)に代表されるように、身体能力に恵まれなくても一流の選手にのし上がっているのです。
阪長さんは「ラテンアメリカのコーチたちは、選手が25歳の時にメジャーリーグで活躍することをゴールにおいて指導している」と語ります。
短い期間で結果を求められる日本のユーススポーツとの一番の違いが、ここに現れています。
「選手の将来を第一に」考える指導が、ラテンアメリカのコーチングの根底を成しているのです。
小学生は「スポーツを愛するため」の期間
ラテンアメリカの国々で、メジャーリーガーになるために必要な要素として挙げられているのが「野球が好き」ということ。
技術面やフィジカル面はもちろんですが、それ以上に「野球が好き」でひたすらに練習に打ち込むことのできる選手が、将来的に大きく成長するとみられているのです。
「野球が好きになれるかどうかは小学生で決まります」と阪長さんは語ります。
指導者が「あれをやれ」「これをやれ」と指示するばかりでは、選手は委縮してしまいます。選手の思うがままにプレーさせること、そして良いプレーをしたときは褒めることが重要です。三振もエラーもお構いなしです。
勝っても負けても「楽しい」と思えるかどうかが、その選手の将来を決めます。
小学生は「野球を愛するための期間」なのです。
指導者が選手を「リスペクト」する
阪長さんがドミニカ共和国の選手と会話をしていた時のこと。
日本でプレーすることに関心があるというその選手に、日本での体罰の現状や、負けた試合後に指導者が命じて練習をさせることがある…ということを伝えると、その選手からこんな質問をぶつけられたそうです。
「日本の指導者は選手に対するリスペクトがないのか?」
指導者の選手に対する「リスペクト」。ドミニカ共和国では当たり前に根付いていることです。ドニミカの選手には、日本の指導者が選手を支配しているかのような姿を想像してしまったのでしょう。
指導者の選手に対する「リスペクト」が、指導者と選手の信頼関係の基盤となります。
「ミスしたくてミスをする選手はいませんし、負けたくてプレーする選手はいません。
選手たちは経験が少ないから、いつも上手くいくとは限らないけど、一生懸命プレーしている。それを認め尊重することが重要です。」と阪長さんは語ります。
ミスしても、頭ごなしにミスを怒鳴るのではなく、まずは選手のチャレンジを認め、「どういう意図があったの?」「何がミスの原因だった?」と選手の考えを聞く。そして選手が次にまた積極的にプレーできるようにするためにはどうしたらいいかを考えるのがコーチの仕事。
阪長さんのインスピレーション後におこなわれた「指導者と選手の理想の関わり方」というテーマでのワークショップでも、指導者と選手の理想の関係として「OBOGになっても気軽に戻れる」「お互いに学ぶ姿勢を持っている」といったアウトプットが出ました。
目先の勝利に捉われず、将来を見据えた指導を
目の前の結果に拘ると、長い練習時間、無難なプレー、細かい指示…。
それではスケールの大きな選手に育たない。
スポーツから離れた後も、ただ指示を待ち、創造力に欠ける人間となってしまいます。
これからに必要なのは、先を見据えた指導です。
短い練習時間(つまり、すぐうまくなる必要がない)、選手の自主性、豪快なプレー、思い切ったプレー(ミスを恐れない、ミスOK)を重視するべきだと感じます。
もちろん、コーチだけの問題ではありません。
日本においては、勝利を要求するシステム、勝利を美化するマスコミが存在し、「勝つこと」を盲目的に追い求めやすい環境と言えます。
その中でも、コーチとして「選手の将来を第一に考える」という信念を持ち、選手に対する「リスペクト」の基に、選手を守っていかなければならないのではないでしょうか。
ゲストプロフィール
阪長友仁
NPO法人BBフューチャー・プロスペクト株式会社
新潟明訓高校で甲子園に出場。立教大学ではキャプテンを務め、卒業後スリランカやタイ、ガーナなどでの野球指導の経験を積む。
2014年より現職。ドミニカ共和国野球指導法調査・研究、国内チーム・プロ野球選手サポート業務などを実施。2015年12月 横浜DeNAベイスターズ 筒香嘉智選手のウィンターリーグ出場を現地でサポート。
スポーツコーチ同士の学びの場『ダブル・ゴール・コーチングセッション』
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブではこれまで、長年スポーツコーチの学びの場を提供してきました。この中で、スポーツコーチ同士の対話が持つパワーを目の当たりにし、お互いに学び合うことの素晴らしさを経験しています。
答えの無いスポーツコーチの葛藤について、さまざまな対話を重ねながら現場に持ち帰るヒントを得られる場にしたいと考えています。
主なテーマとしては、子ども・選手の『勝利』と『人間的成長』の両立を目指したダブル・ゴール・コーチングをベースとしながら、さまざまな競技の指導者が集まり対話をしたいと考えています。
開催頻度は毎週開催しておりますので、ご興味がある方は下記ボタンから詳しい内容をチェックしてみてください。
ダブル・ゴール・コーチングに関する書籍
NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブでは、子ども・選手の『勝利と人間的成長の両立』を目指したダブル・ゴールの実現に向けて日々活動しています。
このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。
このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。
エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』
序文 フィル・ジャクソン
第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの
第2章:ダブル・ゴール・コーチ®
第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング
第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット
第5章:スポーツ選手の感情タンク
第6章:感情タンク実践ツールキット
第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意
第8章:試合への敬意の実践ツールキット
第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)
第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する
本格版書籍『ダブル・ゴール・コーチ(東洋館出版社)』
元ラグビー日本代表主将、廣瀬俊朗氏絶賛! 。勝つことを目指しつつ、スポーツを通じて人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なことを教えるために、何をどうすればよいのかを解説する。全米で絶賛されたユーススポーツコーチングの教科書、待望の邦訳!
子どもの頃に始めたスポーツ。大好きだったその競技を、親やコーチの厳しい指導に嫌気がさして辞めてしまう子がいる。あまりにも勝利を優先させるコーチの指導は、ときとして子どもにその競技そのものを嫌いにさせてしまうことがある。それはあまりにも悲しい出来事だ。
一方で、コーチの指導法一つで、スポーツだけでなく人生においても大きな糧になる素晴らしい体験もできる。本書はスポーツのみならず、人生の勝者を育てるためにはどうすればいいのかを詳述した本である。
ユーススポーツにおける課題に関する書籍『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』
バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
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数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)
・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言
暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。
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