選手の自主性を促すためには選手が選択する機会を与えることが大切!

選手が自ら考えて行動して欲しいと思って指導しているにも関わらず、どうしても選手が受け身になってしまう、または指示待ちになってしまう。こんな悩みを抱えている指導者の方は多いように見受けられます。

選手がうまくいかない様子を見かけると、手取り足取り丁寧に指導する。日本のスポーツ指導ではよく見かける光景です。

しかし、この丁寧な指導が選手の自主性を奪っている可能性がものすごく高いのです。

なぜ、熱意あふれる丁寧な指導が、皮肉にも自律した選手を育てる足かせになってしまうのか?この理由について、内発的な動機に関する研究の観点からご説明していきます。

今回の記事の内容が、これまで選手に費やしてきた情熱と愛情をより良い方向へ向けるヒントになればと思っています。 

内発的な動機とは「楽しい・興味がある・挑戦したい」という気持ち

「教えすぎ」や「手取り足取り丁寧に教えること」が自主性を奪うことや自ら取り組む意欲を失わせてしまうことについて考えていく前に、「内発的動機とは何か?」について説明します。

内発的動機の研究の大家でもあるライアン博士とデシ博士の研究では、内発的動機は「楽しい・興味があるから、その活動をする」「内発的に動機づけられた人は、プレッシャーや報酬のためではなく、楽しさややりがいの為に行動する」と説明されています(Ryan & Deci, 2000)。

そして、外発的な物(報酬、罰、認められたい、など)でやる気を持つよりも、好き、興味がある、楽しい、といった気持ち(内発的な動機)を持つ方が長い期間に渡って取り組みが続きやすいことも、ライアン博士とデシ博士の研究や他の研究でも報告されています。

言い換えれば、外発的な動機は物や他人によってやる気を持つため、「やらされている」といった状態になりやすいです。一方、内発的な動機は自らの興味や楽しみによって行動を起こしているので、自発的な行動に繋がります。

モチベーションと練習、コーチング方法に関する詳しい記事は、下記の記事で詳しく解説しているので、参考にしてみてください。

「やらされている練習」から「自ら取り組む練習」へ 〜ELM ツリーのメカニズムと具体的な取り組み〜

自主性は「自分が選べる」という実感があってこそ育まれる

選手の自主性を促すという点において、内発的動機はとても大切です。内発的動機づけは、「自分が選べる」という実感があって、初めて育まれるものです。

この内発的動機を形づくる発端となったのが、自分で選んだフィードバックと他者から与えられたフィードバックがどのように内発的動機に影響するかを調べた研究です

ライアン博士の研究(Ryan, 1982)では、いくつかの条件下で受け取った(もしくは自分で選んだ)フィードバックの効果に対して、以下の結果が報告されました。

1. 解いたパズルの解いた速さに対して、研究者からフィードバックと評価(良い、悪い)を受け取った学生は、内発的動機が低下した。

2. パズルがI Qテストだと言われて結果を意識させられた学生たちは、結果を意識させられてない学生たちと比べて内発的動機が低下した。

3. 一番内発的動機が高かったのは、フィードバックを自分で選べた結果を意識させられていない学生たち。

この研究結果から分かったことをスポーツに置き換えて説明すると、下記のようにいえます。

1. 選手のパフォーマンスに対して、指導者が一方的にフィードバックを与えると内発的な動機が下がる。

2. 選手がプレーの結果を意識させられると(シュートを決めろ、相手を抜け、ミスをするな)、内発的な動機が下がる。

3. 選手が結果を気にせずプレーに集中できていて、選手が求めてきたタイミングでフィードバックやアドバイスをすると、内発的な動機が高まる。

この研究以降もあらゆる場面で、「選手が取り組みに

対して自由に選択できると感じられる状態だと内発的な動機は高まる」「一方的に与えられるような状態では内発的な動機は下がる」という理論は支持されています。

このような背景もあって、「教えすぎる(一方的に与えすぎる)と、自ら行動を起こす意欲(内発的な動機)が低下する」ことにつながってしまうのです。 

 段階的に教える機会を減らして選手が自分で選べる機会を増やす

段階的に教える事を減らして選手が自己選択できる機会を増やすことは、内発的動機づけを高めて自主性を促す上では欠かせません。

しかし、選手が自主性を育めるように教える量を減らすことは、言葉では簡単でも実践するのは難しいです。

また、既に教えるのを減らしたことけど、うまくいかずに従来の指導方法に戻った経験がある方もいるかもしれません。

ここでは、選手が自主性を育みやすい指導へシフトする上で有効なポイントや方法を紹介します。

段階的な指導のポイント1|選手が選べるだけの「予備知識」を教える

段階的なスポーツ指導で大切なポイントとして、予備知識を教えることがあります。選手が自分で練習方法を選べるようにするためにも、まずは選手の手元に選択肢がある必要があります。

大富豪などのトランプゲームのように、手元に使えるカードを選手が用意するというイメージで、予備知識を教えることは大切です。

手元に選択肢があれば、選手が自分で状況に応じた選択がしやすくなるります。仮に選手の手元に何もない状態で「じゃあ、残りの10分間は、自分に必要な練習を選んでやってみよう」と言われても、選手は何も選ぶことができません。

自主練習や自由に練習できる時間の時に選手が選べるだけの「予備知識」を与えた方が、選手が自分に必要な練習方法を選びやすくなります。

段階的な指導のポイント2|選手がどんなことを上達させたいのかを認識してもらう 

練習方法やドリルは、「できないことをできるようにする」という目的に沿った内容であることが好ましい以上、選手が何を上達させたいかを把握できている必要があります。

たとえば、下記のように具体的に上達させたい場面やスキルや明確にしましょう。

・フォアサイドに振られた時にストレートを打てるようにする。

・ドリブルで切り返した時に上げるクロスの精度を高める。

その上で、上達させたいスキルに必要な練習はどんなものがあるかを選手に考えてもらうと選手が自分にとって必要な練習方法を選びやすくなります。

段階的な指導のポイント3|複数の練習方法の中から選手に選ばせる

選手が自分でスキルを高める練習を選ぶ上でいろいろな種類の練習を体験させて、自分の上達させたいスキルに合った練習方法を選ぶという指導方法もあります。しかし、選択肢が多くて決められないという選手も多いかと思います。

その場合は、指導者からいくつか練習方法を絞り込んで、その中から選手が自分で選ぶようにするのも効果的です。 

このやり方でも、選手は自分の意思で必要な練習方法を選べますから、自主性を促すための最初のステップとしては効果が期待できます。

段階的な指導のポイント4|短い時間で自主練習をしてもらう

段階的な指導として、短い時間で自主練習をしてもらうことは、効果的な方法の1つです。普段教えられることに慣れている選手にとって、自分に必要な練習を選んで決めるのは簡単ではありません。

まずは、その日の練習の中の5分、10分、と短い時間の中で自分に必要な練習方法を選べるようにしてみるのも方法の1つです。

慣れてきたら、20分、30分と伸ばしたり、ある日の練習全部を選手各々が決める、といった方法で、自分で決められる時間や種類を増やせば、選手が自分で決める能力が養われます。 

段階的な指導のポイント5|選手の質問や相談に対応できる準備をしておく

指導者として、選手の質問や相談にいつでも対応できる準備をしておくことは、とても大切です。 練習の中身を選手に任せたからといって、指導者は何もしない訳ではありません。

むしろ逆に、各選手を注意深く観察して見守り、選手の質問や相談に備えておく必要があります。

実際に練習が正しくできているか聞いてくる選手もいるでしょうし、もっと別の方法尋ねてくる選手もいるでしょう。中には、そもそも上達させたいスキルがその選手に合っているかどうかを聞いてくる選手もいるかもしれません。

ここに選手主体の練習をマネジメントする難しさがありますが、分からない時やうまく答えられない時は「指導者の宿題」として、次回の練習までに調べて選手に伝えるなどして対応するのも1つの方法です。

選手の主体性を促すことに関するセミナーレポートもあるので、下記の記事も参考にしてみてください。

主体性を高める練習の質とは?―スポーツコーチング・ラボvol.17―

まとめ 

選手主体の練習方法の難しさとして、今までの指導者から選手への関わり方から大きく変わることと、長年染み付いた選手の受け身の姿勢を変えることがあります。

このような新しい考え方や行動を身につけるためには、長い時間をかけて取り組む必要があります。そのため、長期間かけて変えるという前提で、新しい指導スタイルや練習の仕方を取り入れることが大切です。

しかし、いくら教える量を減らすとはいえ、全く教えないのが好ましい訳ではありません。大切なのは、教える必要がある内容については教えた上で、選手が自分で必要な練習を選んで取り組める機会を作ることです。

教えることと選手に自主的に取り組む機会の適切なバランスは、選手の競技レベルやチームの状況などによって変わります。また、ある実際に試行錯誤しながらでないと分からないことが多くあります。

うまくいかない時期もあれば、試行錯誤が求められる時期も出てくると思います。しかし、選手と一緒にうまくいかなかったことを解決していくことで、ともに変化と成長を実感できるでしょう。 

参考文献

Ryan, R. M. (1982). Control and information in the intrapersonal sphere: An extension of cognitive evaluation theory. Journal of personality and social psychology, 43(3), 450.

Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American psychologist, 55(1), 68.

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略歴 2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究している。学術的な理論や研究内容に基づいた実践方法を用いて、日本・アメリカのスポーツ選手に対して実力発揮のメンタルスキルの指導とスポーツスキル上達のサポートも積極的に行なっている。