7回目の開催となったSports Coaching Lab。
今回のテーマは、「最強の企業人事が教えるエンゲージメントとチーム強化~関係の質が変われば、チームが変わる~」
ゲストにお招きしたのは、IT大手サイバーエージェントの人事統括をしておられる曽山哲人さん。
「21世紀を代表する会社を創る」というビジョンを掲げ、風通しが良い企業ランキング7位の同社。組織作りのエッセンスをお話しいただきました。
Sports Coaching Lab
指導の現場において指導者が直面している課題に対して、ゲストスピーカーによるインスピレーショントークや参加者同士のワークショップ、良質なコーチング事例の共有等を通じて、様々な角度からスポーツ指導者が学べる機会を継続的に創り出している。スポーツ指導者が繋がり、学び合い、日々の現場での指導をステップアップさせるための環境づくりを目指している。(https://www.sports-coach.jp/scl)
新時代にあった指導法の普及を目指すNPO法人「スポーツコーチング・イニシアチブ」(https://www.sports-coach.jp)と、スポーツを通じて社会に貢献する株式会社「スポコン」が共催。
サイバーエージェントは、創業当時の退職率が30%ほどだったそうです。その状態に危機感を抱き、組織改革に着手。
①言わせてから、やらせる
②セカンドチャンスを与える
③毎月全員に聞く
というポイントを徹底。ユニークな取り組みを通して、「関係性の質」を上げていったそうです。感情が伴う「知的労働」だからこそ、ポジティブで前向きな関係を作る=関係の質を上げる必要性が生まれる、とおっしゃっていました
曽山さんは上智大在学中、ラクロス部に所属。卒業後、伊勢丹に就職したのち、1999年にサイバーエージェント入社。営業部門の統括を経て、2005年の人事本部設立とともに同本部長に就任。社員数20人だった頃から4500人の現在に至るまで、人事責任者を務めています。
紹介した社内制度や取り組みについて「中には極端なものもあるが、『どうやったら人が動くか、若い人が主体的に動いてくれるか』という根底の思いは共通している」とスポーツチームへの導入にエールを送りました。
目次
人と組織の強み発揮 三つのポイント
1.言わせてやらせる
自分の提案にOKが出ることで、力を発揮できます。焦るリーダー、監督は「あれやれ、これやれ」と指示を出してしまいがち。期限を区切り、監督やコーチ側で報連相のタイミングを握るなどしたうえで任せてみましょう。期待が伝わり、チームでの存在意義も感じさせられます。
2.セカンドチャンスを与える
強い組織は必ず失敗者が生き残っています。メリットの一つは、本人が同じ失敗をしないのでパフォーマンスが上がるということ。さらに、その活躍を見ることで周囲が「私も挑戦してもいいかもしれない」と思えます。ハードルが下がり、全体のチャレンジの総量が増えるんです。
3.毎月全員に聞く
シンプルな2問+フリー記述程度の簡単なアンケートでいい。ひとりひとりのコンディションの変動を5段階で数値化して把握しましょう。個人の変動とチームの勝敗や個人の得点状況との相関関係をみることで発見があります。必要があれば面談して、本人の力を引き出す配置につなげることもできます。オンライン社内ツール「Geppo」は販売もしています。
https://www.geppo.jp/
防げ「びっくり退部」
サイバーエージェントはかつて退職率が高く、上場後すぐの3年間は30%くらいありました。
人が入れ替わると生産性が上がらず、継続的に強くなれない。僕がキャプテンだった時も、上智大は2部リーグでなかなか強くなれませんでした。
今もう一度その状況に置かれたら、月1度全員とマンツーマンで面談します。部活を続けられない理由を全部聞いてあげて、解消できるものはする。辞める理由は、直接本人の声を聞くことでしか出てきません。
「山田くん辞めるの?マジ!?」みたいな「びっくり退部」を出さないことが大事です。結果的に辞めるとしても、先に理由を把握しましょう。
効果的な面談とは?時間が取れないときは?
一番大切なのは、面談の時間内にほめることです。
「先月はこれがよかった」「今ここが伸びてるね」と伝えて、喜びの感情を持たせましょう。
次が感謝。部活やチームへの提案を聞き、その意見を出してくれたこと自体に感謝します。
内容の良し悪しはおいておく。この二つで、マンツーマンでしか得られない感激を与えると、次回の面談にも期待を抱かせることができます。
面談時間の確保が難しければ、練習後に紙を配って書かせるのもいいです。やはり2問くらいで簡単に。書く時間を「2分」などと短く区切ることが大事です。瞬発力で本音が出てきます。
「決断経験」をキーマンに
部活も会社も、人材育成で一番大事なのは「『自分で決めた』と思える仕事の量と質」です。
特にリーダー、キーマンには必須。組織改善の提案を全体からもらうのもいいですね。教室でホワイトボードに書いていくとか。
ラクロスで例えると「このフォーメーションで行こう」というのも決断です。小さなものから少しずつレベルを上げ、数を増やしていきましょう。
「関係性の質」は受け手が決める
関係性の質はすべて受け手側が決めることです。僕も、受け手側の感情、どう思うかということをすごく意識しています。
監督と部員、上司と部下でも同じですが、コミュニケーションは受け手が成立させるものです。自分が何度言っていたとしても、伝わってなかったら全部負け。自分がいくらいいと思っていても、相手がそうじゃなかったら全部だめ。把握のためにも毎月アンケートをとっています。
感情マネジメントのためには、リーダーの厚遇も必要です。障害がない状態で、夢中で結果が出せているかということに気を配っています。ここがだめだとネガティブさが伝染し、全体の状態が落ちてしまうからです。
表彰の力は侮れない
「新人賞」や、選手を支えるマネジャーなど縁の下の力持ちに対する「ベストサブ賞」など。リーダーが誰を表彰するかによって、チームのメンバーの動き方が変わってきます。
人望のある人や、チームを尊重し、貢献してくれる人に光を当てましょう。そういう人は壇上でもいいことを言ってくれる。みんなが真似しようとする効果があります。

明日からすぐに試せるTIPS集
◇短時間での相互理解におすすめ! 簡単ワーク
メンバー同士の対話を促す時に効果的なのが「価値観9ブロック」。初めてのチームで、5人くらいずつに分かれてやると、雰囲気が大きく変わります。
紙やホワイトボードに書いた3×3のマスの中心に自分の名前を書き、残り8マスに短い時間で、自分が大切にしている価値観について書き出す。その言葉について、組になった人たちが「どんな背景があるのか」「誰に言われた言葉なのか」とどんどん尋ねていきます。
「人は、自分に興味を持つ人に対して興味を持つ」。誰かに近づきたいと思ったら、徹底的に、相手に興味を持つことです
。これはビジネスでも、チームビルディングでも重要。会社なら業績の向上、部活ならチームの勝利が最優先ですよね。相手のことが好きか嫌いかは2番目に置き、その人の力を引き出せるように関心を寄せましょう。結果的に共通点が見つかるなどして、心理的な距離が近づくこともあります。
ポイント:映像がイメージできるように徹底的に聞くこと。その人のキーワードが見えてきて、相互理解が非常に進みます。
◇成長点をみんなで見つける「グロースファインダー」
あるポジションへのモチベーションは高いが、適性のない人物をどう他のポジションに誘導するか。成長点をメンバー同士で発見する「グロースファインダー(Growth finder)」という会議をやっています。
5人一組になって、1人が15分ほど席を外し、その間にその人のポジティブな点とネガティブ(課題)をホワイトボードに書き出す。戻ってきたところで、司会がまとめて先にポジティブな点を伝え、そのあとで課題について伝えます。
そうすると本人にメッセージが入っていきます。そこで課題として「ポジションは、もしかしたらこっちの方があってるんじゃないか」とメンバーの中から出てくると、本人の意識が変わる可能性があります。
ポイント:先にポジティブな点を伝えることで、その後の「こうやったほうがいい」という課題を受け入れやすくなる。誰の意見か分かる状態でなく、司会がまとめて伝えるのも重要です。
<<聞いてみて>>
質疑応答の最後、現役の大学ラクロス部主将から相談が出ました。
「お話を聞いてやってみたいと思うけれど、他の部員に任せなくてはいけない部分もある。お願いすることに不安がある。」
曽山さんは「まずは自分のできる範囲で、幹部メンバーたちと試してみて。本当にいいと思えるか、確信した方がいい」と回答。
「他社の成功例を聞いたから」というだけではなく、周囲の理解、賛同を得ながら着実に物事を進めていく、人事の現場で培われた姿勢が改めて伝わってきました。

曽山 哲人
株式会社サイバーエージェント 執行役員人事本部長
1974年神奈川県横浜市生まれ。上智大学文学部英文学科卒業。
1998年伊勢丹に入社、紳士服配属とともに通販サイト立ち上げに参加。
1999年、20名程度だったサイバーエージェントに入社。インターネット広告の営業担当として入社し、後に営業部門統括に就任。
2005年に人事本部設立とともに人事本部長に就任。2008年から取締役を6年務め、2014年より執行役員、2016年から取締役に再任。
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- 第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意
- 第8章:試合への敬意の実践ツールキット
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- 第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する
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