【対談】プロ指導者と地域密着NPO指導者が語るスポーツコーチング ~子どもたちとの関わりの「期間」と「密度」に焦点を当てて~

「スポーツコーチ」と一口に言っても、様々な関わり方がある。

毎日現場に立っているコーチもいれば、「お父さんコーチ」のように、平日は仕事、週末はコーチという方もたくさんいることと思います。

その中で、この二人は異色のコーチです。

NPO法人スポーツカントリー・アンビスタの石尾潤氏は、NPO経営者として中学女子サッカーチームの監督も務める傍ら、練習以外の時間には複数の肩書を持ちパラレルに働いています。

株式会社スポーツ・クラウドの荒川優氏は、「日本で一番多く足を速くしたコーチ」として有名なプロコーチです。

今回は、新しいコーチ像を作っているお二人が「スポーツコーチングJapanカンファレンス2018」で対談。指導の哲学やスポーツ界で働くことについて、意見を交わしました。

「成功体験」と「ストーリー作り」

――指導者として大事にしていることは何ですか?

荒川:私はずっとチームに属して指導するわけではありません。人によっては月に1回、1時間の指導で結果を求められる。

その中で、「これをやってね」と教えるだけだと結果は出ないんです。圧倒的に時間が少なく、付け焼刃のようなことしかできないからです。なので、それ以上にモチベーション管理の方を、熱を入れてやっています。毎日LINEでメッセージを送るレベルです(笑)

1回のイベントで完結する時は、まず「速くなった」という経験をさせてあげるというのが1つ。そして、その経験をイベントの後にも生かして欲しいという思いがあります。

なので、そのイベント中には必ず1人1人に声を掛けています。例えば、「今の走り良かったねぇ!」と褒める。そうすることで、普段あまり走りで褒められることがない子に周りがちょっと注目してくれる。ちょっとしたヒーロー感を味わうことができるんです。それがイベント後のモチベーションになってくれるみたいで。

石尾:僕は「ストーリーで語る」ことが全てだと思います。私もかつては若気の至りで、目の前のミスが許せず「なんでだよ!」という気持ちになることが続いていました。でもそれでは選手が成長しないな、という感覚がありました。

そこでどうしたらいいかと考えた時に、「物語を作る」ことが大事だなと。

今起きているミスが過去の自分のどんなプレーの延長線上にあるのか、今のこのトレーニングがこの試合のこんなところに生きるんだよ、というようなことをいかにシンプルに子どもたちに伝えられるか、そして理解して納得してくれた状態で練習することがすごく大切だなぁと感じています。

チームのストーリーを作るのはそれほど難しくないのですが、それを個人個人に作っていくことが難しい。一番大切なのは「タイミング」だと思っています。

タイミングによって、同じ言葉を掛けても選手の中に入っていくとき、入っていかない時があります。特に思春期の選手に対しては。そういう意味では、指導者は「脚本家」になるイメージです。

NPO法人スポーツカントリー・アンビスタ 石尾潤氏

「スポーツを仕事にする」ことのリアル

――「スポーツを仕事にする」というテーマで、お二人はどのようなことをお考えですか?

石尾:私は今、週5回7000円でやっています。それでも人数が250人来てくれているので、収支としては成り立っています。

とはいえ、NPOとしてスタッフ全員に給料を支払いながら事業を回していくのは難しいというのが正直なところです。

私自身はスポーツを教えることは1つのライフワークという位置づけにしています。そして、スポーツコーチングでの実績を活かして他の仕事を取っていくという方向性で考えています。

なので、平日の日中には他の3つの会社の名刺を持っていて、リモートでお仕事をさせて頂いています。そして、NPOの活動からはお金をもらわなくても自分は生活ができるという状態を作って、スポーツを仕事にしています。

もちろん、ゆくゆくはスポーツそのものからお金を稼げればいいなと思っています。

荒川:プライベートコーチというのは特殊で前例もない中で、何が正解なのかがわからない。

今周りの走りの指導者はどうやってお金を取っているかというと、1回500円とか、高くて2000円くらいなんです。そうすると「安くしないと人が来ない」という状態になって、どんどん市場が先細りしてしまう。

なので、自分はあえて価格を上げています。そして、価格が高いけどたくさん人が集まるという成功モデルを作ることが、市場を拡大させていくことに繋がるのではないかと思っています。

でも面白かったのは、はじめ2000円で始めて、5000円、8000円、1万円と価格を上げていくにつれて、お客さんが増えていったんです。

どうしても価格を上げるとお客さんが減るという固定概念がありますけども、逆で。皆さんは「どうせやるならいい指導を受けたい」という気持ちがある。そして価格が指導の良し悪しの指標になっているのだと思います。

株式会社スポーツクラウド社長 荒川優氏

――ここから、参加者の方からの質問を受け付けたいと思います。

Q.親にやらされている選手のモチベーションはどのように上げているのですか?

荒川:自分は小学生の時サッカーをやっていたのですが、プレーが好きだったわけではなく、周りの友達がやっていたから、親にやれと言われたからでした。

でもなんで続けたのかというと、時々あったヒーロー体験があったからかなと思っています。褒められて嫌な人はいないじゃないですか。だから、その選手が全体の前で褒められる機会を意図的に作ってあげることが大事なのかもしれません。

陸上は数字が全てなので、数字が伸びればその選手の成長実感になります。なので、1日の指導の間で必ず「before→after」は作り数字で成長を実感できるようにしています。

Q.「街づくり×スポーツ」というアプローチをしていく中で大事なことは何ですか?

石尾:まずはスポーツのつなげる力を利用した「きっかけ作り」です。例えば、大人たちが集まる時に、そこにお酒があるよりもボールひとつ置いてあるほうがその人たちの関係性の質って深いものになると思うんです。

そして、その第一条件としては、スポーツの能力や過去の経験を求めないことです。健康のためや美容のため…など、ハードルを落としたスポーツ経験がそこで生まれることが大事だと思っています。

もう一つは「場所」です。地域の人たちにとっての集まれる場所、帰れる場所を持つことが大事だと思っています。あそこに行けばあの人たちがいて、元気になれる、笑顔になれる、自分を表現できる…と思えるような場所を作りたいと思っています。

Q.指導者としての学びの機会をどう作っていますか?

石尾:私は、尊敬する先輩指導者の指導現場を見に行くことです。

ライセンスを取ることや、本を読んだりDVDを観たり…というのも手段としてはもちろんありますが、自分の目で生きた指導を見に行き、自分の指導に活かせそうなものを持ち帰ることが大切なのではないかと思っています。

でも、世の中サッカーを教えることがうまいコーチはたくさんいると思います。その中で自分がサッカーの指導だけで尖りきっていけるかというとそうではない。

それ以上に、サッカーという壁を壊して自分自身が人間として成長していくことが大切だと思っています。

つまり、教育に対する価値観をしっかりと持つことや、人事や営業を経験することで社会人として成長していくこと。これに対する好奇心は変わらず持ち続けたいと思っています。

荒川:僕は、現場に勝る経験はないと思っています。

自分は、今まで「同じ練習を1か月以上やらない」というルールを決めていました。そうすると、次何をやるかを自分で考え無ければならない中で、新しい知識を構築していきました。さらに言うと、新しいメニューをどんどんやっていくという斬新さが、リピーター獲得につながっていました。

石尾 潤 氏

大阪府出身。プロを目指して国学院久我山高校に進学するも夢は叶わず、早稲田大学教育学部に進学と同時に指導者に転向。卒業後は学校法人に就職し私立大学の教員兼職員を3年間歴任。その中で、地域女子サッカーの現状を知り、2016年4月に少年少女のサッカークラブ運営を主な事業とするNPO法人スポーツカントリーアンビスタを設立、代表理事に就任。 現在はスポーツ指導の現場に加えて、パラレルワーカーとして活動している。

荒川 優 氏

元100m選手で、ニュージーランド大会銀メダリスト。 引退後は一橋大学大学院で経営を学び、日本では数少ないスポーツ選手のMBAホルダーとなる。スポーツ経営によって、スポーツクラウドの代表取締役社長となりFacebookのファンは42000人超。 現在はプロ走コーチとして、日本全国で活躍。「日本で最も多くの足を速くしたコーチ」としても有名。オリンピック選手をはじめとしたトップ選手や、Jリーグ・プロ野球選手・ラグビー日本代表など競技を越えて数多くのアスリートを指導している。

 

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