カヌー競技力向上に関わる心技体について(一般社団法人カヌーホーム 尾野藤直樹さん)

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カヌー競技力向上における3つの要素

あっという間に師走が近づき、2018年も締めくくりに向かう時期になりました。

カヌーは真夏がメインシーズンですので、今はどのチームも選手も、来シーズンに向け再スタートを切っているところです。

今回は、カヌー競技の種目間で比重に違いはあるものの、カヌーの競技レベルを決める3要因についての考えをお伝えしたいと思います。

カヌー競技の中で最も競技人口が多く、私の専門でもあるカヌースプリント(※1)についてお話をします。

いわゆる競技力の要素として心技体、①メンタル面②技術面③体力面が重要となってきます。

今回は、それぞれ特筆すべき点として下記に注目をしています。

  1. メンタル面:傾聴力と主張力を持っていること。また双方のバランスの良さ。
  2. 技術面:艇やパドルの選び方や、艇を上手にコントロールするスキル。
  3. 体力面:競技開始年齢や、体力要素における世界とのギャップ

カヌーにおけるメンタル面とは「傾聴をしたうえで、主張をする力」のこと

初めに傾聴力主張力については、以前、本田圭佑選手と村井満さんが対談の中でもキーワードとされていた2つの力です。

これらの力は、スポーツのみならず人生を通して生きてくる大切な考えだと私も思っていて、うまいこと表現したな!と感じていました。

つまり、傾聴力とは人からのアドバイスや意見に耳を傾ける「素直さ」であり、一方で主張力はアドバイスや意見、自分で調べた情報などを自分に合った形で取り入れる「明確な意志」であると思います。

実際に、今まで指導した選手の中で、20代中盤になって競技成績が飛躍的に伸びた選手は、私が伝える指導内容についてわからないことをわからないと言える素直さを持っていました。

頭ではわかっていても、大人になればなるほど知識や(成功)経験があるため、素直になることは難しいでしょう。

また、子供であっても、指導内容を適切に理解し、自分の型に落とし込むというのは、一朝一夕にはいかないことです。

しかし、この2つの力が、次に述べる技術面や体力面を鍛えるベースとなります。

カヌーにおける技術面とは「艇とどれだけ仲良くなれるのか」ということ

次に、艇やパドルの選び方や、艇を上手にコントロールするスキルについて。

ここには、体力面と同じく、競技開始年齢というのがかかわっています。一般的に「運動神経が良い/悪い」という表現があります。

これは厳密には正しくない表現ですが、言い換えると、「自分が思った通りに身体を動かせるか」ということです。

武井壮さんが『大人の育て方』という話の中でわかりやすく語っていらっしゃいますが、自分が頭でイメージしながら動かしている身体の動きと実際に客観的に見た時の体の動きが近ければ近いほど、当たり前に、正しい動作を身につけやすくなります。

そういうことができるようになるために、小さいうちから、できるだけ色々な動作に触れていてほしいと思っています。

特にカヌーに関しては、右を漕ぐことと左を漕ぐことという非常にシンプルな動作の繰り返しですので、不安定な水上で艇やパドルを使って、動作をコントロールするスキルがタイムを分けるポイントとなってきます。

普段から、艇の上で立ち上がる、そのまま一回転する、パドルと体重を使って艇を横に進めるなど、要するに艇とどれだけ仲良くなれるかが大切です。そういったドリルを小さいころからとりいれ、陸上での様々なスポーツに触れることが、のちの競技に大きく影響します。

体力面は明確に測定が可能であるからこそ自分に必要なトレーニングを行う

そして、3つ目の競技開始年齢や、体力要素における世界とのギャップについて。

上記に挙げた2つの要素は、定量分析がしづらい面がありますが、それに比べ体力面は自分自身の成長度合いや世界との差も明確に測定が可能です。

カヌーの中でもカヌースプリントは、技術よりも体力の重要性が高い種目なので、体力面を強化することで世界との差も十分に縮まります。

現在、カヌー界において、世界トップレベルの選手のVO2max(※2)が65~70 ml/kg/minに対し、国内トップレベルは55~60 ml/kg/minです。

この能力を形成するジュニア期に、エビデンスに基づいたトレーニングが行われている現場はまだ少ないところです。

山梨県のジュニア育成現場では、事前計測した選手の最大心拍数を基準として、毎練習の強度の指標としています。

また、選手個人の一週間のトレーニング量を可視化し、成長や体調や合わせたトレーニングを実施しています。

これらを、ジュニア期から継続的に行い常に目標とするレベルとの差を確認し、自分に必要なトレーニングを取り入れることがカヌー競技において、最短で世界と近づく方法だと私は信じています。

カヌーを通じて心技体を鍛える現場のこれから

以上の3要素が、今特に注目している点です。

総じてカヌーは、ジュニア期におけるトレーニングや、継続した競技環境整備が、心技体を鍛える土台として必要となっています。

カヌーのスプリント種目においては、部活動を基盤とする組織や指導者に多く支えられています。

これから部活動に関してより一層制約がかかってくる中で、日本ならではの環境を生かし、未来のカヌー選手たちや指導者たちがさらなる発展をしていけるような場をつくっていきたいと考えています。

また、そうした動きがスポーツ界にとっても良い影響を与えたいと思っています。

次回は、そんなカヌーが、いちスポーツというだけにとどまらずに皆さんとかかわっていける価値、「自然」というキーワードをベースに、カヌーのこれからの在り方についての考察をします。

※1…静水面において、500mや1000mなど既定の距離を競う種目

※2…最大酸素摂取量

スポーツコーチ同士の学びの場『ダブル・ゴール・コーチングセッション』

NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブではこれまで、長年スポーツコーチの学びの場を提供してきました。この中で、スポーツコーチ同士の対話が持つパワーを目の当たりにし、お互いに学び合うことの素晴らしさを経験しています。

答えの無いスポーツコーチの葛藤について、さまざまな対話を重ねながら現場に持ち帰るヒントを得られる場にしたいと考えています。

主なテーマとしては、子ども・選手の『勝利』と『人間的成長』の両立を目指したダブル・ゴール・コーチングをベースとしながら、さまざまな競技の指導者が集まり対話をしたいと考えています。

開催頻度は毎週開催しておりますので、ご興味がある方は下記ボタンから詳しい内容をチェックしてみてください。

ダブル・ゴール・コーチングに関する書籍

NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブでは、子ども・選手の『勝利と人間的成長の両立』を目指したダブル・ゴールの実現に向けて日々活動しています。

このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。

このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。

エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』

序文 フィル・ジャクソン

第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの

第2章:ダブル・ゴール・コーチ®

第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング

第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット

第5章:スポーツ選手の感情タンク

第6章:感情タンク実践ツールキット

第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意

第8章:試合への敬意の実践ツールキット

第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)

第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する

本格版書籍『ダブル・ゴール・コーチ(東洋館出版社)』

元ラグビー日本代表主将、廣瀬俊朗氏絶賛! 。勝つことを目指しつつ、スポーツを通じて人生の教訓や健やかな人格形成のために必要なことを教えるために、何をどうすればよいのかを解説する。全米で絶賛されたユーススポーツコーチングの教科書、待望の邦訳!

子どもの頃に始めたスポーツ。大好きだったその競技を、親やコーチの厳しい指導に嫌気がさして辞めてしまう子がいる。あまりにも勝利を優先させるコーチの指導は、ときとして子どもにその競技そのものを嫌いにさせてしまうことがある。それはあまりにも悲しい出来事だ。

一方で、コーチの指導法一つで、スポーツだけでなく人生においても大きな糧になる素晴らしい体験もできる。本書はスポーツのみならず、人生の勝者を育てるためにはどうすればいいのかを詳述した本である。

ユーススポーツにおける課題に関する書籍『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』

バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
ーーーーー
数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)

・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言

暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。

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