【Spiral Eye #2】陸上競技における部活動の功績とは?

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現役の体育教師かつコーチの筆者が、スポーツを様々な観点から分析していきます。複雑に絡み合いながらできているスポーツ界の螺旋構造をより良い方向に導いていくための方法を探る連載「Spiral Eye」。

第2回となる今回は筆者の専門である陸上競技がテーマです。

2016年のリオデジャネイロ五輪400mリレーで銀メダルを獲得したことが記憶に新しいが、その結果には部活動の功績が大きいと筆者は語ります。様々なデータから日本の陸上短距離の功績を紐解きます。

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近年の陸上競技の短距離リレー種目における日本の活躍は目覚ましいものがある。表は五輪、世界陸上における日本チームの成績をあげたものである。1992年以降の五輪で6回、世界陸上では8回の入賞で合計3つのメダル獲得という成果は、技術以上に素質が重要な短距離種目の結果だけに、驚異的な活躍と言えよう。さらに、日本チームの選手たちが中学、高校、大学と部活動に取り組む中で成長していったことは、部活動にかかわって来た者として誇らしく思える。

日本の短距離はなぜ強くなったのか?

様々な要因があるが、最も大きなものとして挙げられるのが、一流選手の動作分析の結果だ。1991年の東京世界陸上でカールルイス選手をはじめとする世界の一流選手の動作分析が行われ、「一流選手は足首の曲げ伸ばしが少ない」、「腿を上げる高さだけがスピードにつながるわけではない」等がわかった。その後それらの知見が中高生を教える指導者に徐々に浸透していくと、指導者はそれらの知見を実際に指導する選手にどう生かすかを工夫し、バラエティーに富んだ有効な練習方法が次々と生まれていった。

そして、成果を挙げた学校の指導法は他の学校へと広まり、小学校の陸上クラブ等の底辺にも普及していった。現在活躍している日本のトップスプリンターの誰もがジュニア時代に研究熱心な指導者の下で指導を受け、のちに才能を開花させた学校部活動育ちと言える。

日本のバトンパスは部活動の成果

100mでは個人での入賞までにはまだ届かず、メダル獲得は4人が力を合わせるリレーのみであるが、日本チームのバトンパス技術もまた多くの工夫がみられる。400mリレーにおける各選手の100mの記録とリレーでのバトンパスによるマイナスを、私の指導する高校のチームでは通常平均-2秒5で計算している。簡単に言えば、11秒0で4名そろえられたら、合計44秒0なので目標タイムは41秒50となり、各地区のブロックのレベルにもよるが、北関東大会ではインターハイに出場できるレベルの記録となる。

これをリオの日本チームに当てはめると山縣10秒05+桐生10秒22+飯塚10秒01+ケンブリッジ10秒10=合計タイムは40秒38だが、実際には37秒60で-2秒78となる。この数値はアメリカやジャマイカに比べると1秒前後良いものであり、日本チームは各人の加速に合わせて非常に上手くバトンをつないだことになる。代表レベルとなるとバトンパスでー3秒前後を狙っていると考えられるが、五輪本番でのー2秒78は選手とコーチのチームワークのたまもので、本当に素晴らしかった。

そこで、日本チームが採用しているアンダーハンドパスが注目されているが、実は2017年のロンドン世界陸上ではオーバーハンドパスを採用した中国チームが日本を上回るバトンパスをしたという報告もあった。バトンパスはアンダー、オーバーのどちらが良いというものではなく、本番でこれほどスムーズなバトンパスをした選手の冷静さがとても見事で、そのパスを確実にしたのがアンダーハンドだったと考えるのが良いだろう。

現在の高校日本記録39秒64をはじめ、近年では多くの高校チームが40秒を切るタイムを出している。高校のトップチームはオーバー、アンダーにかかわらず、-3秒を目標とし、個人では目立たなくても、リレーになると強いチームも多い。オーバーでもアンダーでも―3秒前後はレベルの差なく多くの高校チームが実現していると考えると、日本代表選手が経験してきた中学、高校時代のバトンパスの経験値が五輪や世界陸上本番で見事に生かせたと言え、学校部活動がメダル獲得へつながった好例として大きな拍手を送りたい。

コラムニスト プロフィール

田邊潤 (たなべ・じゅん)

早稲田大学本庄高等学院教諭

 

同校陸上競技部を31年間指導。関東大会、インターハイの常連で埼玉県の強豪校として知られる。1957年生まれ。早稲田大学教育学部卒、筑波大学体育研究科大学院修士課程修了。専門は陸上競技で走り高跳び国体8位。早稲田大学研究員としてアメリカや中国に滞在し、ジュニアの指導法や健康法を研究。早稲田大学非常勤講師。日本陸上競技学会、日本スプリント学会に所属。

 

 

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