【それでもなお #1】地域から100年愛されるクラブへ~徹底した「ブランディング」によるオンリーワンのチームづくり~

存続の危機からわずか2年で関東大会へ。
2018年、中学女子サッカー界で驚異の快進撃を見せたのが荒川区にあるFC HERMANA(以下、エルマナ)です。

さかのぼること2年前。
監督に就任した石尾潤さんは女子サッカー界を取り巻く厳しい環境を目の当たりにし、『サッカーを愛する少女たちに最幸の環境を』を実現しようと決意します。

石尾さんは次々と改革を施しクラブは生まれ変わりました。
存続の危機からわずか2年で関東大会に出場し、各学年で東京トレセンを輩出。
今や下部組織もあわせると70名を超えるビッグクラブにまで成長を遂げました。

この連載では、さまざまな壁にぶつかりながらも「それでもなお」突き進んでいく、「選手の伸びしろNo.1クラブ」の成長の軌跡を追います。

初回となる今回のテーマは「FC HERMANAの組織基盤づくり」です。

地域から100年愛されるクラブを目指すためには、自分たちが「どんなチームなのか」「何を目指しているのか」を伝えること、つまり「ブランディング」が重要です。

2年前には廃部寸前だったクラブをたった2年で立て直した石尾さんは「ブランディング」をどのようにおこなっていったのか?

そしてビジョナリーなクラブはどのように作られていったのでしょうか?

石尾さん自ら振り返ります。

女子サッカーを取り巻く環境に違和感

私が初めてエルマナの練習会場に足を運んだのは2015年の3月。

当時、中3はすでに引退している上に中1は0人…。

FC HERMANAの在籍人数は11人に満たず、4月から新1年生が入会してやっと試合ができるというような状況でした。

プレーヤーとしても、指導者としても、ずっと男子畑のみで生きてきた私にとって、当時受けた衝撃は一生忘れることがないと思います。

「自分にとっての当たり前が当たり前じゃない人がいる」

そんなどこにいても語られる言葉が、生まれて初めて自分の人生の文脈に入ってきたのです。

放課後にサッカーボールをもって校庭にいれば友だちができること。

サッカーを習いたいと思えば自転車圏内にある複数のチームから選べること。

そこには指導者が、同級生が、先輩後輩がいること。

グラウンドが確保されていて、練習試合や公式戦が毎週のようにあること。

そのすべてが、幼少期から、中学、高校、大学、社会人、どのステージでも当たり前・・・。

そして私は現役時代、ずっと「プロになるため」だけにサッカーに没頭していましたが、結局はサッカーの能力ではなく、「サッカーを通じて教わった・身に付けたチカラ」の方が、今の私の人生を幸せに、彩り豊かなものにしてくれていると心から思っています。(詳細は別連載で)

なのに、それなのに。

「同じスポーツを愛しているのに、性別が違うだけで、こんなにも大人社会から用意してもらえる環境に差がある」

こと、それが声なき悲鳴として、世間からまったく汲み取られていないことに強い違和感を覚えました。

そうして私のFC HERMANAでの挑戦が始まりました。

先にハイライトをお伝えすると、以下の通りの順序で改革を推し進めていきました。

①言葉づくり(ブランディング)

→クラブ創設者の想いは私の人生を変えるほど美しく、素敵なものだったため、それを集約。

②落とし込み(広報PRのツール改善)

→HPをリニューアル、クラブ紹介チラシを新たに制作、各種習い事サイトへの掲載、など。

③理念の浸透(組織作り)

→内部ブランディングの徹底と同時に、下部組織をつくり、地域の中で生え抜き選手を発掘。

④接点の創出(イベント企画)

→練習体験会やサッカー広場、割引キャンペーンや特別プレゼントなどを連続で発信。

⑤法人格の取得(運営の仕組化・収益化)

→地域や取引先からの信頼獲得、少年サッカークラブとの共同経営による環境改善等を推進。

こうしてFC HERMANAという小さな女子サッカークラブは、2016年4月の法人格取得に向け、約1年間で大きく進化を遂げていきました。

徹底的に「ビジョン」を浸透させ、圧倒的な「ブランド」を確立

その中でも私が徹底的にこだわりぬいて、それまでのクラブの価値観を変えたのが、③。

具体的な言葉で言うと、「内部ブランディング」です。

事あるごとに、HPでも紹介冊子でもイベントチラシでも、ヒドイ時には連絡網でさえ、すべての最前面に、

『サッカーを愛する少女たちに最幸の環境を』

というキャッチを使用しました。

私たちはあくまで「環境づくり」=「女子サッカー文化の醸成・発展」のために活動しているクラブなんだと。

それを、ただの表面的なお飾りではなく、「本気を越えたガチ」で目指しているんだと。

ある意味そこまでその言葉を使ってしまうことは、私たちスタッフにとっての逃げ場を無くすプレッシャーでもありました。

しかし、それを覚悟のうえで、FC HERMANAは「サッカーを愛する女の子が、その好きを思いっきりワガママにつらぬき通す」ために存在しているということを、在籍者に繰り返し伝え続け、他にない圧倒的なブランド確立を目指しました。

それが内部に浸透していくからこそ、各種イベントを開催した際の参加者の皆さまの印象、何らかの大会に出場した時の他チームからの印象、そして、そこから発生する地域広報最強の「口コミ」の純度がみるみるうちに高まっていきました。

女子小学生サッカー選手の「かけ込み寺」に

そうしてエルマナでサッカーを始める女の子が少しずつ出始めると同時に、私たちが理想としていた「流れ」が生まれました。

それは、

少年サッカークラブで学年に数名いる女子が高学年になってエルマナに興味をもつ

というものです。

元々私たちが大きな危機感を抱いていた課題に対する解決方法がこれでした。

今でも、少年チームでサッカーを始め、高学年になるにつれて様々な要因で自分の「居場所」を失い、サッカーに対する情熱を失い、中学生に上がる頃にはサッカーを続ける場(部活)もないから辞めていく、という女子がたくさんいます。

もちろん、その子たちがサッカーというスポーツをやり切り、ポジティブな想いをもって次のチャレンジに一歩を踏み出すのであればそれは心から応援したいと思います。

しかし、本当はサッカーが好きなのに、その好きを押し殺して、お友だちがいる部活動に一緒に入るという光景を私たちは幾度となく目にしていました。

そのような待遇の女の子にとって、エルマナという場が「かけ込み寺」のように機能し始めたのです。

私たちはU-12立ち上げ時より、

「他クラブで在籍・登録している選手も入会可能。サッカーが好きな女の子が週1回でも女の子だけの環境で自分が主役になれる場を。」

というスタンスをとっていました。

すると、

「ここまでお世話になったチームを辞めたくはないけど、女の子だけでもサッカーがしたい。」

「普段はほとんど試合に出れないけど、もっとレベルアップしたい。」

「男子とやると全然突破できないけど、ドリブルが大好き。」

といった想いをもった女の子が集まり始めたのです。

こうして私たちの女子小中9年一貫指導体制(のちにキッズを立ち上げて12年)の原型がカタチとなっていきました。

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<編集後記>

『サッカーを愛する少女たちに最幸の環境を』というビジョンを徹底的にクラブ内部に浸透させ、外部に対しても発信していった石尾さん。

自分たちが何を目指しているのか、つまり「ビジョン」を明確にし、それを発信していくことの重要性に気づかされます。まず「ビジョン」を創ること、それがクラブ作りの第一歩なのかもしれません。

次回のテーマは「女子サッカー文化の醸成・発展」です。

FC HERMANAの環境作りに成功した石尾さんが次に目指すのは、地域の環境作り。

荒川区を中心とした地域の女子サッカー文化醸成の挑戦についてお伝えします!

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