集中力を高めるコーチング方法とは?メカニズムを知って応用しよう

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練習中に「集中しろ!」と檄を飛ばした事のある経験は多かれ少なかれあると思います。しかし、これは集中力を高める上では一番効果のない方法です。

「集中しろ!」という言葉の中には集中力を高められるような具体的な方法やポイントが込められていない為、逆に集中力を乱してしまう可能性が高いのです。

スポーツコーチにとって、選手に対して「集中しろ!」の言葉をかける以外にどのような方法で練習中の集中を高めていけるのでしょうか?そこで今回は集中のメカニズムに触れながら、選手が集中力を高めやすい具体的な取り組みについてご紹介していきます。

「ある1つの事」に没頭している状態が最適な集中した状態

『好きな本に夢中になって時間を忘れて何十ページも読んでいた。やっていて楽しい練習にのめり込んでいたら知らない間にものすごい量をこなしていた。』

こんな状態が、実は集中力が最高に高まっている状態と言えます。別の言い方をすると、今取り組んでいる事で頭がいっぱいになり、他のことが一切気にならずに取り組めている状態のことです。

このように集中力が最高に高まっている状態を、著名な心理学者であるチクセントミハイは「フロー」と名付けました(Nakamura, & Csikszentmihalyi, 2014)。

スポーツの世界では「ゾーンに入った」と呼ばれている状態です。取り組んでいる物は、スポーツに限らず、勉強、読書、ゲーム、料理、何でも構いません。

集中力が高まった状態において大事なポイントは、「夢中になっている」、「没頭している」、「時間を忘れてのめり込んでいる」、といった具合に、他の事が気にならず目の前の事に打ち込めている、という点です。

集中のメカニズム:集中力には「キャパシティ」がある

運動学習と呼ばれる分野では、過去の研究を通して「集中力にはキャパシティ(許容範囲)がある」と見定めています (Huang &Pashler, 2005)。

キャパシティは、「自分が注意を払える限界量」であると考えてみて下さい。このキャパシティは、大きな緊張やプレッシャーがかかると小さくなる傾向があります。つまり、プレッシャーがかかるほど集中出来る事が限られてしまいます。

「プレッシャーのかからない場面では、落ちつて周りを見渡せて周りの様子を観察するくらいの余裕があったのに、プレッシャーがかかった途端周りの事が目に入らなくなって目の前にある事しか考えられなくなってしまった」という経験はありませんか?

この状態がまさに、プレッシャーがかかった為に注意を払える物が減ってしまった状態と言えます。このキャパシティという考え方を利用すると下記のようなことが言えるでしょう。

  1. プレッシャーがかかった時にあれこれ考えたり多くの事に注意を向けるのは逆効果
  2. プレッシャーがかかった時に集中するべき事を1つ(多くても2つ)決めておくと集中力が低下しにくい

まとめると、プレッシャーがかかった状態では、多くのことに注意を向けるのが難しくなってしまう為、注意を向けるべき事を1つ決めてそれに意識を向けやすくする方が、集中しやすくなります

目の前の事に集中しやすい練習環境を作る事で集中しやすくなる。

練習中に目の前の練習以外の事に意識が向いてしまったり、今行なっている練習の大事なポイントがはっきりしていないと、集中するのが難しくなってしまいます。

言い換えると、目の前の練習をする上で大事なポイント、集中すべきポイントがはっきりしていると、集中を高める事が出来ます。ここからは、具体的な方法を用いて選手が集中しやすい練習環境を作るアイディアを紹介していきます。

その日の練習のゴールを定める

まず、その日の練習全体のテーマを示す事で練習を通して成長する方向性を示す事が出来ます。

具体例としては、

  • ボールハンドリングの感覚を養う
  • 1対1の技術を2対2の場面で使えるようにする
  • ラリー中の打球を力強くする

といったことが挙げられます。今日の練習内容がこの示されたテーマに沿った物だと分かれば、各練習ドリルで注意を向けるべき事が絞りやすくなります。

これは、練習ドリルを組む上でもテーマに即したドリルを組みやすくなるので、その点を踏まえても選手の集中力を高めるコーチングにおいては効果的です。

練習ドリルのポイントを1つに絞る

次に、1つ1つの練習ドリルを行う目的、行う上で心がけるポイントを定めます。

この時重要なのは、ポイントを1つに定める事、個々に応じて注意すべきポイントは変わってくる事、の2点です。注意のキャパシティの性質上、ドリルに取り組む集中を高める上ではポイントは1つの方が好ましいです。

ドリルを行う前に各々で注意するポイントを確認する時間を用意する事で、あいまいな状態でドリルを行う事を防げます。

練習のゴールやドリルのポイントに関連しているキーワードを声かけに使う

練習中の声かけは、各ドリルで注意すべきポイントに関連したキーワードを使う事で、選手が集中しやすくなります。

例えば、テニスのラリー中の打球を強くする為に打点が大事である事を説明したとします。そのドリルの最中に「打点!」と声をかけるよりも、「体の中心で(捉える)!」の方がより具体的です。

技術的な声かけは、意外とあいまいな言葉を使っている事が多いです。キーワードは出来るだけ具体的な「この動きをすればドリルが上手く出来る、狙いとした動きを練習できる」と分かるような言葉を選びます。

「集中しろ!」の代わりにドリルのキーワードを使えば、より選手が練習している時の集中を促す事が出来ます。

まとめ

集中力を高めるには、その瞬間・その場面で注意を向けるべき事1つに意識を向ける事が必要です。

それは「注意のキャパシティ」の性質上、1つの物事に没頭出来ている状態が集中した状態になりやすい事が理由です。

まず練習前にその日の練習全体を通してのテーマ(目標)を定めます。そして、各ドリルで注意すべきポイントを1つ決めて、そのポイントを思い出せるキーワードを必要に応じて声かけとして使います。

「集中しろ!」の代わりにこのキーワードを使う事こそ、選手の集中を高める効果的なサポートになります。

参考文献

Huang, L., & Pashler, H. (2005). Attention capacity and task difficulty in visual search. Cognition, 94(3), B101-B111.

Nakamura, J., & Csikszentmihalyi, M. (2014). The concept of flow. In Flow and the foundations of positive psychology (pp. 239-263). Springer, Dordrecht.

Wrisberg, C. A. (2007). Sport skill instruction for coaches. Human Kinetics.

スポーツコーチ同士の学びの場『ダブル・ゴール・コーチングセッション』

NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブではこれまで、長年スポーツコーチの学びの場を提供してきました。この中で、スポーツコーチ同士の対話が持つパワーを目の当たりにし、お互いに学び合うことの素晴らしさを経験しています。

答えの無いスポーツコーチの葛藤について、さまざまな対話を重ねながら現場に持ち帰るヒントを得られる場にしたいと考えています。

主なテーマとしては、子ども・選手の『勝利』と『人間的成長』の両立を目指したダブル・ゴール・コーチングをベースとしながら、さまざまな競技の指導者が集まり対話をしたいと考えています。

開催頻度は毎週開催しておりますので、ご興味がある方は下記ボタンから詳しい内容をチェックしてみてください。

ダブル・ゴール・コーチングに関する書籍

NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブでは、子ども・選手の『勝利と人間的成長の両立』を目指したダブル・ゴールの実現に向けて日々活動しています。

このダブル・ゴールという考え方は、米NPO法人Positive Coaching Allianceが提唱しており、アメリカのユーススポーツのスタンダードそのものを変革したとされています。

このダブル・ゴールコーチングの書籍は、日本語で出版されている2冊の本があります。

エッセンシャル版書籍『ダブル・ゴール・コーチングの持つパワー』

序文 フィル・ジャクソン

第1章:コーチとして次の世代に引き継ぐもの

第2章:ダブル・ゴール・コーチ®

第3章:熟達達成のためのELMツリーを用いたコーチング

第4章:熟達達成のためのELMツリー実践ツールキット

第5章:スポーツ選手の感情タンク

第6章:感情タンク実践ツールキット

第7章:スポーツマンシップの先にあるもの:試合への敬意

第8章:試合への敬意の実践ツールキット

第9章:ダブル・ゴール・コーチのためのケーススタディ(10選)

第10章:コーチとして次の世代に引き継ぐものを再考する

本格版書籍『ダブル・ゴール・コーチ(東洋館出版社)』

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子どもの頃に始めたスポーツ。大好きだったその競技を、親やコーチの厳しい指導に嫌気がさして辞めてしまう子がいる。あまりにも勝利を優先させるコーチの指導は、ときとして子どもにその競技そのものを嫌いにさせてしまうことがある。それはあまりにも悲しい出来事だ。

一方で、コーチの指導法一つで、スポーツだけでなく人生においても大きな糧になる素晴らしい体験もできる。本書はスポーツのみならず、人生の勝者を育てるためにはどうすればいいのかを詳述した本である。

ユーススポーツにおける課題に関する書籍『スポーツの世界から暴力をなくす30の方法』

バレーが嫌いだったけれど、バレーがなければ成長できなかった。だからこそスポーツを本気で変えたい。暴力暴言なしでも絶対強くなれる。「監督が怒ってはいけない大会」代表理事・益子直美)
ーーーーー
数えきれないほど叩かれました。
集合の際に呼ばれて、みんなの目の前で顔を。
血が出てたんですけれど、監督が殴るのは止まらなかった……
(ヒューマン・ライツ・ウォッチのアンケートから)

・殴る、はたく、蹴る、物でたたく
・過剰な食事の強要、水や食事の制限
・罰としての行き過ぎたトレーニング
・罰としての短髪、坊主頭
・上級生からの暴力·暴言
・性虐待
・暴言

暴力は、一種の指導方法として日本のスポーツ界に深く根付いている。
日本の悪しき危険な慣習をなくし、子どもの権利・安全・健康をまもる社会のしくみ・方法を、子どものスポーツ指導に関わる第一線の執筆陣が提案します。

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略歴 2007年東海大学理学部情報数理学科卒、2009年東海大学体育学研究科体育学専攻修了。東海大学大学院では実力発揮と競技力向上の為の応用スポーツ心理学を学ぶ。 2014年8月よりテネシー大学運動学専攻スポーツ心理学・運動学習プログラムに在籍。スポーツ心理学に加え、運動学習、質的研究法、カウンセリング心理学、怪我に対するスポーツ心理学など幅広い分野について学ぶ傍ら、同プログラムに所属する教員・学生達のメンタルトレーニングを選手・指導者へ指導する様子を見学し議論に参加する。 2016年8月より同大学教育心理学・カウンセリング学科の学習環境・教育学習プログラムにて博士課程を開始。スポーツスキルを効率良く上達させる練習方法、選手の自主性を育む練習・指導環境のデザインについて研究している。学術的な理論や研究内容に基づいた実践方法を用いて、日本・アメリカのスポーツ選手に対して実力発揮のメンタルスキルの指導とスポーツスキル上達のサポートも積極的に行なっている。